Ocean Newsletter
第40号(2002.04.05発行)
- International Marine Engineer Consultant◆キース・ウィルソン
- 国土交通省海事局安全基準課専門官◆山田浩之
- 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 常務理事◆工藤栄介
- ニューズレター編集委員会編集代表者 (横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新
「優良船」の利用促進制度を作ろう
財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 常務理事◆工藤栄介安全基準や環境基準を満足しない船舶、いわゆる「不良船」による海難や海洋汚染事故が後を絶たない。安全でクリーンな海を取り戻すためには、不良船の取り締まりを強化することも重要だが、発想を変えて、むしろ優良船の積極利用を促進する制度に目を向けるべきである。
国際物流の99%は海が担っており、船舶の果たす役割は非常に重要である。しかし、条約で定められた基準を満足しない船舶の海難や海洋汚染事故が後を絶たない。欧州では90年代後半から、質の高い安全で環境に良い船を利用しようという動きが展開されている。わが国においてその動きをどうやって作ってゆくか?
不良船の取り締まり強化
船舶は、航行する海域や内・外航の別、大きさ、用途などによってきめ細かく安全上の基準が決められている。加えて近年は、船舶が引き起こす海洋汚染の防止措置についても各種の国際基準が制定され、内航船にもこれが適用されている。
他国へ航海するいわゆる外航船に対しては、船籍国(旗国)が一隻毎に基準への適合状態を検査し、証書を発給するのが国際約束なのだが、途上国や便宜置籍国※にあっては船舶検査の体制が全くできないところが多く、このため条約証書は持っていても実際には決められた基準を満足しない船舶(以下「不良船」)の就航を許すところとなっている。
不良船は海難事故を起こす確率が高くなることから、先進海運国は「旗国の責任を果せ」と声高に叫ぶわけであるが、彼らのチェック体制が一朝一夕に改善されるはずはない。業を煮やした欧米では約20年前から、ポート・ステート・コントロール(PSC)と呼ばれる、外国の不良船を入港国が取り締まる制度を作りこれが世界の主要港湾で実施されているが、不良船の一掃にはほど遠いのが現実である。
最近は、とうとう旗国を制度的に監査しようという主権問題にも抵触しそうな動きが出てきている。
逆転の発想

このような取り締まりの強化とは別に、未発効の国際基準を先取りして取り入れるなど安全と環境保全に積極的に取り組んでいる船舶(以下「優良船」)に、なにがしかのメリットを与えて、以て不良船と差別化を図ろうとの試みが先進各国でなされている。
自動車や食料品分野ではすでに"規則で定められた基準以上の安全"がセールスポイントにもなり、かつ、エコ・フレンドリーなものに対して、高価であってもこれを購入する消費者が出始めた。
残念ながら、厳しい運賃競争を強いられる海運業にとっては、より安全でより環境に優しい船舶がデザインできたとしても、経済的メリットを受けられなければ、積極的にそれを所有し、運航したいとの気持ちにはならないだろう。決められた基準に合格さえしていれば海難時の保険はおりるのであるから、何も無理をして優良船を利用する必然性はないわけである。
しかし、不良船による海難や海洋汚染事故を減らし、安全でクリーンな海を取り戻すために、わが国においても優良船の利用を促進していくことは重要である。例えば、入港税や各種港湾利用料金の減免、安全・環境保全に関する自主的に追加された設備への特別償却、報奨金、検査・監督軽減などのインセンティヴを与えて、不良船との差別化を図ってはどうだろうか。
優良船利用促進制度の検討にあたって
優良船の積極的な利用を促すためには、これを制度化することが最も効率のよい方法である。制度検討にあたっては特に次の2点を押さえる必要がある。
「優良船」利用促進制度(案)

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2)制度の段階的導入
優良船を認定する組織に見通しをつけた上で、該船にメリットを与える流れを作らねばならない。全体的なスキームについて筆者のアイデアを図に示す。認定と報奨のスキームは一体として運用されるのが最終の姿だが、特に報奨を与え得る港湾管理者などに検討して貰うためにはかなりの時間が必要と思われる。
従ってまず、当面は「優良船」を社会的に周知・宣伝するいわゆる表彰制度を創設し、関係者が「優良船」入港の意義を理解したところで全体の制度完成に向けて取りかかれば良いのではなかろうか。
海への貢献
優良船に対するインセンティヴスキームの推進については、先般の主要国・交通担当大臣会議でも議論されたところである。(資料参照)
海の恩恵を最大限受け、海運・造船大国たるわが国こそが世界をリードし、その安全とクリーン化に貢献すべきと考える。(了)※便宜置籍国=外貨収入の獲得を目的に、船舶に対する税金や規制を緩やかにし、外国の海運会社が自社船の船籍を置くような政策をとっている国。そのほとんどが途上国。
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