Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第397号(2017.02.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長◆山形俊男

◆地球シミュレータによる予測の通りに、ラニーニャ現象は終末期に入った。日本海側や北日本の降雪量も予測通りに少ない。これからの季節も少雨傾向の予測が出ており、農業等への影響が心配である(http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/climate/)。加えて、この夏ごろには再びエルニーニョ現象が発生しそうである。
◆世界各地で異常気象が起きているが、国際社会においてもポピュリズムと一国主義の高揚が大きな混乱を起こしている。地球を持続可能な形で適切に管理し、安全で豊かな環境の下、全ての人々が自由で健康な生活を安心して営めるように「持続可能な開発目標」を国連が設定したが、これを実現するには国境を超えた連帯が不可欠である。まるで時計が逆回転を始めたような昨今の状況にあっても、人類が多大な犠牲を払って到達した普遍的な理念は揺るぎないものと信じたい。データの共有、事実に基づく知見とその自由な交流、多様性の尊重は学術の世界でも不可欠であり、国際科学会議などの国際学術団体や各国アカデミーはトランプ新大統領下の米国の状況を危惧し、続々と緊急声明を出している。
◆さて、今号の最初のオピニオンはマイクロプラスチックによるグローバルな海洋汚染に関するものである。海のスモッグといわれるこの問題は富山で開催されたG7環境大臣会合でも取り上げられた。解説して頂いた磯辺篤彦氏はこの分野の第一人者であり、海洋調査だけでなく、モニタリング手法の国際標準化、統一化という重要な活動も行なっている。日常的に使用している洗顔剤やボディソープなどに含まれているマイクロビーズも海洋に拡散すると、有害物質を表面に吸着し、これを摂取した海洋生物の体内に有害物質が移行していく。磯辺氏らの調査によれば東アジアの海は他の海域にくらべてひときわ汚染状況がひどいという。米国ではマイクロビーズ使用禁止法が二年前に成立しているが、わが国も業界の自主性に任せるだけではなく、早急に立法化すべきである。
◆大気や海洋の温暖化とともに、地球規模で危惧されているのが海洋酸性化の問題である。世界の海は、元来、弱アルカリ性であるが、すでに酸性の方向に向かっており、近い将来において海洋生物にかなりの影響を及ぼす可能性が出てきた。そこで原田尚美氏は海洋酸性化と海洋生物の応答の監視体制を構築する必要性を力説している。こうした学界の動きに呼応して本財団海洋政策研究所も海洋危機監視のプログラムを開始したところである。
◆持続可能な社会の構築には科学、技術の展開と社会の協奏が欠かせない。これを未来の地球に生きる人々につなげていくには教育が重要になる。そこで、新屋敷盛男氏に海洋立国推進功労者表彰を受けた鹿児島水産高等学校の活発な海洋教育活動について解説して頂いた。ここでは海洋観測、まぐろ延縄資源調査、漁業・海運関係の上級資格取得への取り組みという具体的な海洋教育活動が、未来の人材育成だけでなく、地域社会にも貢献している画期的な成功例が紹介されている。 (山形)

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