Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第397号(2017.02.20発行)

鹿児島水産高等学校の教育活動~海洋立国推進功労者表彰の受賞にあたって~

[KEYWORDS]海洋教育/資格取得/地域連携
鹿児島水産高等学校校長◆新屋敷盛男

鹿児島水産高等学校は2016年8月、海洋教育活動を評価され、海洋立国推進功労者表彰を受賞した。
本校では、生徒と指導教官によって海洋観測およびまぐろ延縄資源調査が行われているほか、上級資格取得への積極的な取り組みに務め、漁業・海運分野全体の振興・活性化の一端を担ってきた。
今後も海洋教育の活動を発展させ、地域に貢献していきたい。

本校の概要

本校は1910(明治43)年鹿児島県立商船学校に水産科が併置され、その名称を鹿児島県立商船水産学校と変更されたことに始まり、そこからいくつかの変遷を経て、1961(昭和36)年に現在の校名となった。県内で唯一の水産科を有する高校で、今年で創立108年目を迎える歴史と伝統のある学校である。また、本校が所在する枕崎市は、薩摩半島の南西部に位置し、古来より漁業・水産業が盛んであり、遠洋カツオ一本釣り漁船の基地および鰹節製造の盛んな「カツオの町」として有名である。
設置学科は海洋科、情報通信科、食品工学科の3学科で、各学科40名定員(学年)である。海洋科は2年次から、3コース(海洋技術コース、機関コース、栽培工学コース)に分かれる。また、さらに上級資格取得を目指す生徒のために、2年課程の専攻科(各学年定員30名)として海洋技術科、機関技術科、情報通信科を設置しており、水産業や海運業および無線通信のスペシャリストを養成している。現在、本科291(うち女子41)名、専攻科36(うち女子4)名が在籍している。

海洋立国推進功労者表彰受賞

海洋立国推進功労者表彰式実習船「薩摩青雲丸」

本校は2016年8月に海洋立国推進功労者表彰のうち、「海洋立国日本の推進に関する特別な功績」分野の「普及啓発・公益増進」部門で表彰された。具体的な功績として次の3つの事項が評価を得たので紹介する。
(1)海洋観測およびまぐろ延縄資源調査
本校の実習船「薩摩青雲丸」はハワイ近海を操業区域とする年間三航海の実習[年間航海日数:約200日(まぐろ延縄操業実習を含む)]を行っており、この航海時に海洋観測とまぐろ延縄資源調査を実施している。海洋観測は、操業海域まで1,200海里の区間を6時間毎にXBT(Expendable Bathythermograph)による連続観測を実施し、水深750m層までの水温の鉛直分布を測定する。また、操業実習中は毎日定時における、気象観測(天候、雲量、雲形、気温、気圧、表面水温、風向、風速)、海象観測(波向、風浪階級、うねり向、うねりの階級、水色、透明度)およびSTD(Salinity-Temperature-Depth recorder)による水深1,000mまでの水温・塩分の鉛直分布を測定している。
また、まぐろ延縄資源調査は、漁獲物の種類や漁獲時刻、生死、取込み状況の他、指定された魚類(まぐろ類、かじき類、さめ類など)については、体長、重量、性別、生殖腺重量なども測定する。これらの観測や調査は、生徒と指導教官により行われ、現場では野帳に記入し、その野帳を元に各航海毎に、(国研)水産研究・教育機構(旧水産総合研究センター)に報告している。これを1961年から55年間にわたり継続して行ってきた。この膨大なデータは、地球レベルでの気候変化やまぐろ等資源の状況調査に貢献している。
(2)上級資格取得への積極的な取り組みおよび漁業・海運分野全体の振興・活性化への寄与
本校は、後継者育成として高度な航海技術、機関技術を身に付けさせるとともに、全学科・コース共に積極的に資格取得に取り組んでいる。また、海技士資格取得に関しては、海洋技術コース(航海)、機関技術コース(機関)共に上級海技士取得に向けて取り組んでいる。両コースの本科卒業生は四級海技士(航海・機関)の筆記試験が免除され、専攻科修了生は三級海技士(航海・機関)の筆記試験が免除されるが、近年は本科で三級以上、専攻科で二級以上の筆記試験合格を目指す生徒も増え、平成27年度は、海洋科3年生の海洋技術コース12名が三級海技士(航海)の筆記試験に全員合格するという全国初の快挙を成し遂げ、情報通信科においても、陸上無線技術士1級に29人、2級に32人とクラス全員合格を果たした。
平成28年度は海洋技術コースの10名が三級海技士の筆記試験に科目合格し、機関コースにおいては二級海技士に2名が完全合格している。また、進路に関しては内航・外航商船や近海・遠洋漁船、官庁船などと幅広く、多くの卒業生が漁業・海運業の担い手として活躍している。
また、情報通信科は海上のみでなく、航空や宇宙に関連する無線従事者を多く輩出しており、その資格取得状況は全国トップである。本科卒業時に第二級海上特殊無線技士や第三級陸上特殊無線技士の受験免除、専攻科修了時には第一級総合無線通信士の通信技術、第二級陸上無線技術士の無線工学の基礎の科目免除等、多くの特典を有する学科である。また、入学時より第三級総合無線通信士や第一級陸上無線技術士のクラス全員合格を目指し、実際にクラス全員が陸上無線技術士に合格するという快挙も成し遂げている。このような資格を生かした管区警察局や航空局等の進路先へ希望する生徒が多いが、海技士(通信)を取得して漁船や官庁船などの通信長として活躍している卒業生もいる。
(3)まぐろの地元水揚げによる波及効果
まぐろ延縄操業実習で漁獲されたまぐろ等の漁獲物は、船内消費分を除き水揚げされるが、かつてはすべて、遠洋まぐろ漁船の基地である神奈川県の三崎港に水揚げされていた。この理由は、大消費地東京に近く、魚価も安定しており、また、水揚げの設備も整っているとの理由であった。しかし、近年になり地元から水揚げについての要望も高まり、2008(平成20)年3月に枕崎港で初の水揚げを行うことができた。それ以降、地元での水揚げが毎年行われており、地元漁協や水産会社が流通に関わることにより、「水高マグロ」として、地元スーパーの店頭にも並ぶようになり、地元の活性化に貢献している。高校生が獲ってきたまぐろであるという点や処理方法が優れているという点から、全国的にも人気が高まるなど、経済的な波及効果が生まれている。また、地元幼稚園、小学校、中学校の子どもたちや一般の方々に水揚げの見学や実習船の船内見学、さらに食品工学科の生徒たちによるまぐろ解体ショーおよびまぐろ試食会を行い、漁業・水産業への理解や魚食文化の啓発につながっている。

今後の本校水産教育について

今後、少子化が進む中で、否が応でも高校の統廃合を含めた学校改編は進む。本校が単独の「水産高校」としての歴史を継続するためには、まず、専門高校として地域に根ざした教育活動と後継者育成に努め、地域から信頼され必要とされる学校であること。次に、特色ある学校として、海技士や通信士などハイレベルな資格取得や、大学や関係機関との共同研究などの連携とともに大学進学への向学意欲を持つ生徒の育成に努め、このことを積極的に情報発信し、全国から資格取得や大学進学を目指す生徒が入学できる体制を進めること。そして、何よりもこのような「高い意識と実践力を持つ教職員の人材育成を怠らないこと」と考えている。(了)

第397号(2017.02.20発行)のその他の記事

ページトップ