Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第394号(2017.01.05発行)

編集後記

山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌

謹賀新年
◆2017年の幕開けだ。政治・経済情況は目まぐるしく変わり、他方で地球温暖化や異常気象のあおりをジワジワと受けているのが現状である。2017年はどう動くか。
◆冒頭で日本財団常務理事の海野光行氏は、日本の海洋政策を進めるためには現状から大きく舵をとる改革が課題との立場を表明されている。というのは、海にかかわる技術者、行政担当者、研究者の層の取り組みがかならずしも盤石ではなく、産学官公の連携も有機的に実現されていないとの現状認識がある。しかも、その連携は現状だけに収斂して考えるべきものではなく、未来を見据えた連携の創造につながるべきとの構想がある。これは納得できる。2016年10月に発足した日本財団オーシャンイノベーションコンソーシアムがその中核となるもので、まだ走り出したばかりとはいえ、事態は安閑としたものではなく戦略的な最重要課題として進めるべきものと、心が引き締まる「檄」と受け止めたい。
◆前述のコンソーシアムは海洋産業を見据えた国家的な取り組みともいえるものであるが、文明史的な観点から森里川海の循環と地域と都市をつなぐ協働を謳う提言が環境省大臣官房の中井徳太郎氏により発せられている。森里川海の循環論は、里山・里海論として2010年に名古屋で開催された生物多様性条約に関するCOP10でも大きく取り上げられた。COP10で採択された愛知ターゲットの目標達成年は東京オリンピック開催とおなじ2020年であり、のこすところ4年を切った。2014年3月、沖縄の慶良間諸島が国立公園となり、海の国立公園設立は知床半島、屋久島、小笠原諸島などの世界遺産認定につぐ快挙であった。海だけでなく、陸地をもふくむ総合的な沿岸管理を推進するとの政策提言がすでに定着し、具体的なプログラムが進められている現状で、環境省からの提言はそれを後押しする心強いものである。真の豊かさとは何かを国民全体が自問自答する良い機会ともなるにちがいない。
◆小笠原諸島にある西之島が大噴火を起こした2013年から4年。島の地質・生態に関する上陸調査がようやく実現した。上陸にさいして、生物による攪乱を避けるため細心の注意が払われたことは言うまでもない。調査隊の一員として参加された(国研)森林総合研究所鳥獣生態研究室の川上和人氏は、西之島にアオツラカツオドリやセグロアジサシの営巣を実見した。火山活動により鳥類の生息環境は劣化したが、それでもたくましく生きてきたカツオドリの生きざまにわれわれも勇気をあたえられ、感動した。鳥の棲むのが島であるとの語源説は示唆に富む。かつて、アホウドリを乱獲した歴史の舞台はまさに鳥島であった。日本にあるいくつもの鳥島(沖ノ鳥島、南鳥島、伊豆鳥島など)は海鳥の営巣地であったのだろう。日本のはるか南にある島じまの海鳥は日本の行く末を見守っている。酉年の今年を占う鳥たちにエールを送りたい。 (秋道)

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