Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第394号(2017.01.05発行)

つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト

[KEYWORDS]パリ協定/環境・生命文明社会/経済的仕組みづくり
「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト副チーム長、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長◆中井徳太郎

脱炭素を掲げたパリ協定が発効し、社会構造の文明史的転換が求められる今、足元にある自然、森里川海とそこから生み出される恵みに立脚した社会を構築していくことが求められる。
つなげよう、支えよう森里川海プロジェクトは、森里川海のつながりの保全再生と恵みをひきだす取り組みが継続する仕組みづくりと、自然の恵みを意識しそれを支えていくためのライフスタイルや企業活動の変革を目標に様々な取り組みを進めている。

文明的転換期にある世界と日本

2016年11月にパリ協定が発効した。気候変動の問題に対し、産業革命前からの平均気温上昇を2度未満に抑えるため、世界の温室効果ガスの排出量を今世紀後半に実質ゼロにする目標を掲げた。各国は温室効果ガスの排出削減対策を策定し、5年ごとに見直して内容を強化する義務を負うことになる。産業革命以降、世界は化石燃料を始めとする地下資源由来のエネルギーを使って産業を興し、物質が世界を行き来するグローバルな経済社会を作り上げてきた。脱炭素を掲げたパリ協定は、その社会構造の変革を迫るものであり、まさに文明史的転換といえる。
日本も同様に、エネルギーを利用し、科学的知識と工業技術によって戦後の高度経済成長を実現し、物質的に豊かな暮らしを手にした。パリ協定批准にあたって日本が出した、2030年までに13年比で温室効果ガスの排出量を26%削減するとした国際的な約束、そして2050年までに80%削減するという目標の達成が求められている。
そうした未来の予見の中にあって、環境と経済と社会の課題を統合的に解決し、安全・安心を確保しながら、低炭素・資源循環・自然共生が同時に達成される真に持続可能な循環共生型の社会(環境・生命文明社会)への転換が求められている。この実現には、環境技術の発展が不可欠であるが、同時に必要なのが足元にある自然、森里川海とそこから生み出される恵みに立脚した社会を構築していくことである。

恵みをもたらす森里川海

私たちの暮らしは、自然の恵みに支えられている。山に降った雨や雪は森里川海を潤す。豊かな森は酸素と清らかな水を生み、大地に張った根は絡み合って土壌を安定に保つ。里では、水が田畑を潤し、脈々と続く営みによって地味豊かな安全で美味しい農作物が育まれる。水を集めて流れる川は、都市も含めた下流に暮らす人々の生活や産業を支えている。森と海は川や地下水系でつながり、土砂の移動により干潟・砂浜など魚介類のゆりかごが形成され、森から供給された栄養塩類や微量元素は、海の生態系を豊かにし、魚貝藻類を育む。そして、海はこれら全てのいのちを育む水を陸に循環させる源として、不断の役割を担っている。ヒトは、その大きな循環系の一部として生き、くらしを営んできた。
分を超えない範囲で利用し、適切に手をいれれば、森里川海は永遠に恵みを生み出してくれる。しかし、改めて見直したとき、森里川海はその質を劣化させ、その恵みも損なわれつつある。例えば海についてみてみると、漁獲量は減少が続いている。過剰な漁獲、気候変動による環境変化のほか、藻場や干潟など沿岸域の改変、土砂や栄養塩類などの供給阻害など森里川海とそのつながりが損なわれたことが要因と考えられている。2013年に閣議決定された海洋基本計画においても、政府が講ずべき施策に「陸域と一体的に行う沿岸域管理」が盛り込まれており、森里川海のつながりの確保は国家的課題である。

■地域循環共生圏

つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト

このような課題に対し、環境省では2014年12月にプロジェクトを立ち上げ、有識者を交えた勉強会や全国リレーフォーラムを実施してきた。頂いた多くの意見を踏まえ、環境省が事務局となってとりまとめたのが『森里川海をつなぎ、支えていくために(提言)』である。本提言では、森里川海のつながりの保全再生と恵みをひきだす取り組みが継続する仕組みづくりと、自然の恵みを意識しそれを支えていくためのライフスタイルや企業活動の変革を目標に掲げている。
継続する仕組みとしては、再生可能エネルギーの活用で地域経済を回す、個性ある風土づくりで交流人口の増加を図る、少量多品種で高付加価値化の一次産品づくりなどが挙げられる。いわば、経済性をともなった森里川海の「なりわい」の創造である。これらの取り組みは、安心・安全な衣食住の提供や、生態系を活用した防災・減災につながるものである。プロジェクトが目指しているのは、モノやお金だけではなく、自然とのふれあいの中で子どもを育て、家族や周囲の人々との絆を感じながら、心と体が満たされる暮らしが実感できる、人を包み込むような真の豊かさを描き出していくことにある。

今後の展開

提言を踏まえ、プロジェクトでは地域における仕組みづくりとして実証事業と、ライフスタイルや企業活動をシフトしていくための普及啓発に取り組んでいる。
実証事業は、公募で選ばれた全国10カ所において、流域など自然のまとまりで関係者が協働するためのプラットフォームづくり、地域創造ファンドの設立や市場メカニズムを活用した自立のための経済的仕組みづくり、プラットフォームや経済的仕組みを担う人材育成に取り組んでいただき、そのノウハウをとりまとめた全国展開のための活動指針を作成する予定である。
普及啓発については、「食」「健康」「美」「音楽」といった自分ゴト化できる切り口で森里川海の恵みを考えるイベントや、子どもたちの自然体験の場づくりに向けた読本の作成などに取り組んでいる。さらに、クリエイティヴな情報発信で本プロジェクトをサポートしていただくアンバサダーの任命を行うなど、多くの方の協力を得ながら大きなうねりを作っていきたいと考えている。
最新の知見とそれに基づく技術を使いながら、森里川海が連なる流域圏を俯瞰し、上流域と下流域、農山漁村と都市がしっかりとつながり、多様な世代や組織がそれを支え合う。森里川海の循環体系が健全に機能する地域づくり、国づくりを目指すことが、日本の力を高め、国際的にも誇り得るものとなる。日本の英知を結集して、自然を豊かに再生し、森里川海とそのつながりの恵みを引き出す社会へと転換する歯車を回していくこと。それは今を生きる私たちから将来世代への最善の贈り物となるはずである。(了)

  1. 「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクトの詳細については、ホームページ http://www.env.go.jp/nature/morisatokawaumi/index.htmlをご覧ください。

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