Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第393号(2016.12.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長◆山形俊男

◆はや師走である。平安中期の歌人、春道列樹は〈昨日といひけふとくらして あすか川 流れてはやき月日なりけり〉としみじみ述懐した。当時も、人々はさまざまな出来事への対応に日々追われていたに違いない。去りゆく時の中、大切なことは学び得た叡智を明日に伝えることにある。
◆12月初旬に早稲田大学で日本海洋政策学会の第8回年次大会が開催された。統一テーマ「海洋立国日本の将来 ─ 第3期海洋基本計画の策定に向けて ─」の下で、小野寺五典衆議院議員と本財団の寺島紘士常務理事による基調講演に続き、7件の研究発表と9件のポスター発表が行われた。午後の部では「海のフロンティアを拓く ─ 日本型海域管理の将来像」のテーマでパネル・ディスカッションが活発に行われた。海洋基本法の制定以来、政策立案に貢献する海洋政策論が次第に深化しているのは喜ばしい。
◆生物、非生物両資源の開発と環境・生態系保全を両立させ、持続可能な社会を有限地球に実現していくには、科学データに基づく学際的な議論に加えて、様々な利害関係者も交えた社会変革が必要になる。学術面でも、これまでの分化した"科"学ではなく、統合的な手法の確立が不可欠である。国際科学会議(ICSU)と国際社会科学協議会(ISSC)も、統合に向けた話し合いを行っているが、分野や境界を超えた、広い意味での「生態学的アプローチ」が政策内容においても実施体制においても求められているといえる。パネル・ディスカッションで兼原敦子教授が力説された「生態学的アプローチ」には啓発されるところが多かった。
◆今号では、海洋温暖化や海洋酸性化が生態系に取り返しのつかない事態を招く前になすべきことについて、Alexandre Magnan、Jean-Pierre Gattuso両氏に解説していただいた。緩和、保全、適応、修復に関わる対策を状況に応じ、また様々な行政レベルで早急に進めることの重要さが力説されている。
◆森 隆行氏には海運関係のオピニオンを展開していただいた。中国経済の減速と部品の現地調達、販売、消費による世界の荷動きの減少とコンテナ船大型化に伴う船腹供給過剰により、わが国のコンテナ船業界も再編を迫られている。事業統合によるスケールメリットを生かし、荒波を乗り切るには社風の違いなど多くの問題を克服しなければならないという。発表された邦船3社の定期コンテナ船事業統合の行く末を見守る必要がありそうだ。
◆稲津大祐氏のオピニオンは津波防災に関するものである。高精度GPSを備えた船舶による海面高度測定が10センチメートルの精度で行えれば、津波予測システムにブレークスルーを興すことができる。これには海洋潮汐モデルの高度化に加えて、地球の形(ジオイド)のより正確な把握が必要である。衛星通信システムの整備も不可欠である。GPSには精密な時間測定でアインシュタインの相対性原理が活用されているが、海洋物理学なども含めた科学の進展により、稲津氏の画期的な計画が一日も早く実用化して欲しいものだ。 (山形)

第393号(2016.12.20発行)のその他の記事

ページトップ