Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第390号(2016.11.05発行)

編集後記

山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌

◆今年の夏、日本列島に多くの台風が襲来し、各地に甚大な被害をあたえた。台風の進路はさまざまであり、北海道から八重山諸島まで被害が広域に及んだ。台風の動きに応じた気象データをもとに地域ごとの対策が講じられるわけだが、海上の船舶では航行中に発生するさまざまな現象や異常はどうデータ処理されてきたのか。(株)シップデータセンター代表取締役社長の永留隆司氏は、船舶の運航に関わる大量データがともすれば個別の企業本位のやり方で扱われてきた点を見直した。そこでの提案が、個別の会社を超えたレベルで海上における船舶運航データを共有するシステムの開発である。情報の共有化を利害関係の枠を超えて進める意義は、この先の事業化の進展にかかっている。関係者の理解を促したいものだ。
◆情報共有化の問題は、海洋技術や海事産業だけの分野で見られる動きではない。伊豆諸島にある八丈島での海洋教育の取り組みにも、注目すべき点がある。黒潮の影響をまともに受ける火山島と聞いただけで、八丈島の海との強い結びつきを想定できる。島では、なんといっても小学校時代から海洋教育を実践できる強みがある。都立八丈高等学校校長の千葉勝吾氏は、いくつもの柱をたて海洋教育の実践を構想されておられる。来年度から定時制における海洋教育の学校設定科目を立ち上げるという挑戦は注目すべきである。海洋教育は多分野にわたるので、理数系だけでなく歴史や文化の問題を取り込んだ総合的な科目の実現をぜひとも期待したい。というのは、八丈島は黒潮の強い影響下にあり、沖縄をはじめ九州や四国、紀州などとの関係が重層的にあるからである。交流の海、共有する海として、八丈島の海洋文化を次世代につなぐ教育の爆発力を期待したい。
◆おなじ島嶼であっても、ポリネシアのサンゴ礁島であるプカプカ環礁の話となると島の抱える問題は大きく異なる。この環礁で発掘調査を手掛けてこられた慶應義塾大学文学部の山口 徹氏によると、過去に低平な州島を襲ったサイクロンや津波を受けて、島の資源を回復するためにモトゥとよばれる共有地を設ける試みがあった。これを環礁におけるレジリエンスの典型とみる。おなじクック諸島にあるラロトンガ島などの大きな火山島では、島の中央部から山腹、海岸、サンゴ礁にいたる領域を一括して管理するタペレとよばれる土地制度があり、津波やサイクロンにたいする復興のありようも異なる。海岸部が被災しても、山側へと避難できる制度があるからだ。実際、ポリネシアのサモアを2009年に襲った地震津波により、人びとは破壊された沿岸部から山側へと避難・移住した。そのことを可能にしたのは山と陸の一体的な土地所有制度があったからだ。プカプカの事例はサモアの例とは異なっており、温暖化と海面上昇が進行する現代、島民がどのような生存戦略を生み出すか、注目に値する。本号で、共有の考え方を情報・教育・生存戦略から捉えることの重要性を学ぶことができた。 (秋道)

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