Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第390号(2016.11.05発行)

八丈島の海洋教育への取り組み

[KEYWORDS]島しょ/海洋教育/高校
都立八丈高等学校校長◆千葉勝吾

伊豆諸島最南端の八丈島にある都立八丈高等学校は、いっそうの海洋教育の充実に向けての取り組みを始めている。
今年度本校は、「海洋教育パイオニアスクールプログラム」(日本財団・東京大学海洋アライアンス・笹川平和財団海洋政策研究所共催)に指定された。これまで体系的におこなわれてきた地域に密着した海洋教育にグローバルな視点を加え、八丈島の海から世界の海洋に視野を広げることを目指している。

本校の概要と八丈島について

都立八丈高等学校

本校は、1948年に東京都立園芸高等学校の八丈分校として開校し、1950年に単独校として独立し、現在では全日制課程普通科と併合科(園芸科・家政科)、および定時制過程普通科を設置しています。学校規模は1学年全日制普通科3クラス併合科1クラス、定時制普通科1クラスであり、東京都島しょ部(伊豆諸島、小笠原諸島)において、伊豆諸島最南端の八丈島に設置されている最大規模の基幹校です。現在、生徒は3学年合計で153名(全・定)在籍していますが、少子高齢化と島民の人口減少の影響から、年々、入学者は減少しており生徒数の確保が学校の重要課題となっています。
八丈島は東京の南280kmの太平洋上に位置する火山島であり、伊豆諸島のなかでは、面積・人口ともに大島に次ぐ2番目で、約73平方キロメートル、約7,800人となっています。東京からは大型船で11時間、航空機で1時間ほどのアクセスで、気候が黒潮の影響により温暖なので常春の島といわれています。産業は観光業と農業漁業が主要産業で、観光は海水浴やダイビング、釣りなどのマリンレジャーのほか、トレッキング、島内名所観光などがあり、島内に8カ所ある温泉巡りなども盛んです。
産業は、漁業については黒潮の流路の中にあるため、魚種・漁獲量ともに豊富ですが、小型漁船での操業が中心なので規模は大きくありません。農業は園芸が有名で観葉植物を中心に日本屈指の出荷量を誇っています。それらの植物は江戸時代から少しずつ持ち込まれ栽培されたものですが、ヤシ類など海流により漂着し、根づいたものもあります。とくにフェニックス・ロベロニーの切り葉の出荷量は日本有数となっています。

八丈島の海洋教育について

島内には小学校3校、中学校3校が設置されていますが、周囲を海に囲まれた離島のため、海に親しむ教育は高校入学以前からおこなわれています。具体的には海開きといった海にかかわるイベント参加、遠泳など体育行事、海浜清掃、漁協や水産試験場での体験学習といった海洋教育が小学校から中学校まで一貫して実施されています。小学校では児童全員に八丈島に関する副読本が配布されて、郷土教育も積極的に取り組まれており、そのなかで八丈島と海洋との関係は、自然や文化、産業と密接な関係にあることが教えられます。さらに、小中学校の授業には保護者や地域住民も積極的に参加しており、夏季休暇中のプールや海水浴場の監視や指導を住民ぐるみで運営しています。
また学外においても、島内のビジターセンターでは、八丈島の海岸の生物や黒潮の影響について自然科学的な内容の展示や教育活動をおこなっています。また、郷土資料館では八丈島と小笠原諸島などの海洋文化との交流を中心に海洋文化の伝播といった内容の展示をおこなっており、社会教育としての海洋教育も充実し、島の特色となっています。
本校には、島の3校ある中学校の卒業生が入学してくるので、これまでは小中学校での郷土教育をベースとしながらも、卒業後、内地に就職進学しても頑張れる教育を柱に教育活動をおこなってきました。海洋教育については学校設定の選択科目に「海洋文化」が設置されていますが、全員には必ずしも体系的に実施されていませんでした。ボランティア活動としては海浜清掃が年数回おこなわれてきましたが、意識的には街路の清掃活動と変わらず、とくに海洋教育の視点をもつものではありませんでした。

海洋教育充実の取り組み

今年度本校は、「海洋教育パイオニアスクールプログラム」(日本財団・東京大学海洋アライアンス・笹川平和財団海洋政策研究所共催)に応募し、指定されたことにより海洋教育充実に向けての取り組みを始めています。その目的は八丈島の小中学校で体系的におこなわれてきた地域に密着した海洋教育にグローバルな視点を加えて、八丈島の海から世界の海洋に視野を広げるというものです。
具体的には以下の取り組みを検討し実施していくこととしております。

本校による漂流物調査の様子

海浜清掃から漂着物調査へ(全日制)
これまで本校でおこなってきた海浜清掃について、世界的な漂着物調査のネットワークへの参加を今年度7月実施分から実施しました。これは世界的なネットワークでクリーンアップ活動をおこなっている団体「JEAN」のプログラムに参加するもので、伊豆諸島では初めての実施となりました。
理数研究校としての取り組み(全日制)
本校は2015年度から東京都教育委員会より理数研究校に指定され、理数研究の振興と理数好きの生徒のすそ野を広げる取り組みをおこなっています。そのなかで海洋気候や海洋生物の研究をテーマに生徒が取り組んでおり成果が期待されます。
「海」をテーマとした芸術祭参加(定時制)
本校定時制は島しょには数少ない夜間定時制高校ですが、海洋教育はこれまでほとんど取り組まれていなかったので、今年度の取り組みとして、定時制通信制芸術祭に「海」をテーマとした絵画・写真・書の作品を3名の生徒がエントリーし、そのうち1名が大会に参加することとなりました。
海洋に関する学校設定科目の構築(定時制)
来年度実施に向けて海洋系科目を学校設定の選択科目として設置を目的にカリキュラム作りをすすめています。夜間定時制の高校での海洋系科目の設置は希少であり、さまざまな課題を抱えたり就学就労する生徒が、興味を持って学べる海洋系科目を設置する意味は大きいと考えています。

おわりに

今年度、東京都教育委員会と八丈町はホームステイ形式により、内地の中学生が単身で島に住み、本校に通学する制度を策定し、生徒募集をおこなうことを決定しています。本校の最大の魅力は園芸科をはじめとする質量とも充実した教育環境です。しかし、内地にも本校以上に設備が充実し専門科教員が多い高校もあるので、志願者数を増やすにはプラスアルファの魅力が必要だと思われます。その点で、本校の一層の海洋教育の充実は大きな意味があると考えており、精力的に取り組みを進めたいと思っています。(了)

  1. 海洋教育パイオニアスクールプログラム/pioneerschool/
    全国の国・公・私立の小・中学校等で実施される「海を題材として行われる学習全般」に対し必要な資金を提供する制度

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