Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第389号(2016.10.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長◆山形俊男

◆寒露の節気を過ぎても列島付近には秋霖前線が停滞して、なかなか爽やかな秋の日和にならない。台風が6個も上陸したこともあって、日照不足は野菜の生育まで妨げている。西太平洋熱帯域の水温がこの時期になって上昇し、対流活動を活発化させていることが東アジアの季節を不順なものにしているようだ。西大西洋熱帯域の水温も高く、カリブ海のハイチでは大型ハリケーン「マシュー」が多くの死者を出すなど猛威を奮った。異常気象や極端現象はもはや世界各地で日常茶飯事であり、各国は地球気候への危機感を共有するようになっている。このような折、地球温暖化対策を進める国際的な枠組みである「パリ協定」は締約国が74カ国を数え、その温室効果気体排出量が世界全体の55%以上に達したことから、いよいよ11月4日に発効する。わが国も締結に向けて手続きを急がねばならない。
◆今号最初のオピニオンは海洋立国推進功労者表彰を受けられた小宮山 宏氏によるものである。海洋基本法制定を機に高まった海洋政策学の確立に向けた動きや海洋基本計画の策定を幅広い意見を入れて効果的に行う仕組みの導入などについて解説していただいた。いよいよ第3期海洋基本計画の準備が始まる時期でもあり、こうした先達の叡智をおおいに活かしていきたいものである。
◆次のオピニオンは、使い捨てカイロを再利用した「鉄炭団子」の話である。これが溶出する鉄イオンがヘドロを浄化することから、ユニークなプロジェクトを展開している佐々木 剛氏によるものである。佐々木氏は開発した「鉄炭ヘドロ電池」を教材にして、都内港区の運河で中学生の海洋環境教育を実証的に進めてこられた。今ではニホンウナギが実験フィールドで確認できるまでになったという。隅田川下流、深川にある運河「小名木(おなぎ)川」では、行き交う舟の賑わいの中で嘗てはウナギがたくさんとれたという。江戸前とはここのウナギが元祖のようである。文字通りの「江戸前ウナギ」と水辺の賑わいが戻る日が待ち遠しい。
◆昭和の高度成長期を境に、人々の生活スタイルや産業形態が大きく変化したが、輸送手段も例外ではなく、物資輸送に大きな役割を果たしてきた運河と岸壁の倉庫群は見捨てられ、寂れゆく一方であった。しかし、小泉武衡氏は水辺の空間の魅力に早くから着目し、さまざまな法的問題を克服して、ウォーターフロントブームの開花に貢献された。小泉氏のオピニオンを読んで、その素晴らしい情熱とたゆまぬ開拓者魂に感銘をうけた読者も多いのではないだろうか。 (山形)

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