Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第388号(2016.10.05発行)

洋上風況マップ~NEDOにおける海洋再生可能エネルギーの取り組み~

[KEYWORDS]風況データ/洋上風力発電/再生可能エネルギー
(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部風力・海洋グループプロジェクトマネージャー◆伊藤正治

政府の方針のもと再生可能エネルギーの最大限の導入拡大が目指されている。
NEDOでは洋上風力発電の産業競争力の強化するための研究開発を推進しており、洋上風力発電の開発に必要な情報を一元化した精度の高い洋上風況マップを作成するプロジェクトをスタートした。
精度の高い風況シミュレーションによって、洋上風力発電の開発リスクを軽減し、速やかな導入促進を目指している。

はじめに

政府の策定したエネルギー基本計画やエネルギーミックスにおいては、再生可能エネルギーは最大限の導入拡大が目指されています。日本における再生可能エネルギーは、固定価格買取制度により、太陽光を中心に急速に普及しましたが、これに伴う系統接続※1が不足してしまう問題など、いくつかの課題も顕在化しています。
NEDOはこれらの課題の解決、さらには、再生可能エネルギーを長期安定的かつ自立的な電源とするため、風力発電においては、低コスト化、環境アセスメント対応、出力安定化等さまざまな技術的課題に取り組んでおり、とくに洋上風力発電の国内外の市場拡大をにらんだ、産業競争力の強化するための研究開発を推進しています。

洋上風況マップの必要性

NEDOはこれまで、全国風況調査(1990~93年度)により、初期の全国の風力発電用風況マップを作成し、有望地域の抽出、風力発電可能量等の推定を行っています。さらにわが国のように起伏が激しく複雑な地形に適用可能な、非線形解析による風況観測モデルの局所的風況予測モデル(LAWEPS:Loacal Area Wind Energy Prediction System)を2002年度に開発しました。以来、NEDOホームページ上で公開していますが、風力発電開発に係わるさまざまな場面で活用されています※2
しかし、これは陸上風力発電を対象にした風況マップであり、洋上風力発電の導入には、洋上に特化した精度の高い風況シミュレーションが必要とされています。洋上風力発電は一般的に陸上風力発電に比較して2倍前後の設置コストがかかり、かつ、スケールメリットを生かすために大規模な事業となるため、プレ開発段階においてとくに事業性を評価するために詳細な風況データが求められます。
今後の洋上風力発電の開発リスクを軽減し、速やかな導入促進を目指して、開発に必要な情報を一元化した精度の高い洋上風況マップを作成するプロジェクト「洋上風況観測システム実証研究(洋上風況マップ)」(2015〜2016年度)をスタートしました。

洋上風況マップについて

洋上風況マップの中核をなすのは、やはり風況シミュレーションの精度です。このプロジェクトでは国内外の風力発電の分野で実績のある、メソスケール気象モデルWRF※3による風況シミュレーションを実施することにより、日本全域の離岸距離30km以内の沿岸海域に対して最終的に500m格子の空間解像度で整備します。併せて30km以遠の外洋海域(排他的経済水域内)に対しても、人工衛星観測値を利用することにより、外洋風況データを連続的に整備します。

    ■図1 WRF500m計算領域の配置

  1. 1)風況シミュレーションの特色
    風況シミュレーションの精度としては、実測年平均風速に対して±5%以内を目標としています。シミュレーションモデルの水平解像度は500mとし、鉛直層は地表から100hPa面(高度約16km)の間に40層を配置し、高度約1km以下には密に9層を配置しています。ひとつの計算領域は約100km四方とし、百数十領域で日本列島全体をカバーします(図1参照)。
    その計算精度を上げるために、入力する標高および土地利用データでは高解像度のものを使用し、客観解析データ(数値予測値に観測値をブレンドした最も確からしい格子点データ)は気象庁・メソ客観解析値(空間解像度:5km格子、時間解像度:3時間毎)を利用します。また、最近の研究成果によれば、洋上風況シミュレーションの精度は下面境界としての海面水温データに大きく影響を受けることがわかっており、そのため高精度な海面水温データの利用は不可欠なため、産業技術総合研究所・神戸大学が特別開発したMOSST(MODIS-based Sea Surface Temperature)データを使用しています。
    このようにWRFによる風況シミュレーションは外部入力データのみならず、ユーザーが任意に設定できる各種パラメータの設定が計算精度に影響を与えるため、既存の観測データを利用して、日本沿岸の洋上風況シミュレーションに必要な計算条件の最適化を行っています。なお、WRFにより、直近20年(1995年-2014年)の10km格子の長期計算を行い、①500m格子計算期間(3年)の決定、②長期変動の解析に利用、③衛星観測風速の高度補正に利用しています。
  2. ■図2 洋上風況マップhttp://dcm04.gis.survey.ne.jp/Nedo_Webgis/top.html

  3. 2)洋上風況マップの構成要素
    風況以外の自然環境・社会環境情報については、本プロジェクトに洋上風況マップ策定技術委員会を設置し、掲載要素を定めています。現在、NEDOホームページから「洋上風況マップ」(図2参照)を見ることができますので、各種情報のイメージがわかると思います。

終わりに

NEDO銚子沖洋上風力発電実証研究

欧州では洋上風力発電が商用化されてすでに15年経過しています。日本ではNEDOによる沖合の洋上風力実証研究が数年前にスタートしたばかりで、今後、商用化に移行するためには、さらなる開発リスクやコスト低減が課題となっています。特に海域については、さまざまな自然条件・社会条件を考慮することが求められています。
洋上風力発電を計画する上で必要な種々の情報を一元化したマップの作成は、国内で初めての試みで、洋上風力発電事業者の事業化を検討する際の基礎情報に加え、ファイナンスや保険などさまざまな場面で活用されることを期待しています。(了)

  1. ※1系統接続:太陽光発電や風力発電などで発電した電力を、電力会社から受電する電力と接続する設備等
  2. ※2NEDO「局所的風況予測モデル」http://app8.infoc.nedo.go.jp/nedo/top/top.html
  3. ※3Advanced Research WRF(the Weather Research and Forecasting model);米国大気研究センター(NCAR)と米国環境予測センター(NCEP)が中心となって開発している非静力学・完全圧縮性のメソスケール気象モデル。

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