Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第384号(2016.08.05発行)

瀬戸内国際芸術祭、アートによる地域再生の試み

[KEYWORDS]瀬戸内/海の復権/現代アート
瀬戸内国際芸術祭実行委員会会長、香川県知事◆浜田恵造

瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内の島々などを舞台に、アートを通して地域の活力を取り戻し、再生をめざす活動である。
島々では、世界から集うアーティストと、ボランティアや島の人々との協働により、そこでしか見ることのできない奇跡のような数々の作品が生まれ、地域の伝統文化や美しい自然が、その輝きを取り戻している。
瀬戸内の魅力を世界に発信し、世界と瀬戸内・香川をアートでつなぐ芸術祭を多くの方々に体感してほしい。

テーマは「海の復権」

■瀬戸内国際芸術祭メインビジュアル

瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内の島々を舞台に2010年に始まり、3年に1度のトリエンナーレ方式で開催されるアートフェスティバルであり、今年で3回目の開催となります。
古くから、人や物が行き交う海の自由な止まり木として、にぎわいを見せていた瀬戸内の島々ですが、近代化や効率、利便性を求める時代の流れの中で、人口は減少し、高齢化が進み、活力が失われてきました。「海の復権」とは、ともすれば忘れられてきた瀬戸内の島々を現代アートの力を借りて、島のお年寄りの笑顔を願い、瀬戸内海が地球上の全ての地域の「希望の海」となることをめざす、壮大な地域再生の取り組みです。

あるものを活かし新しい価値を生みだす

アート作品の制作に当たっては、現代アートの特徴である
・「土地の魅力を引き出す(作品を通して、その場所の魅力に気づく)」
・「作品が地域・人々の共有物になる(作家以外の島民や一般の人が、作品の制作に参加できる)」
を活かし、一から新しいものを創るのではなく、島の空家など、そこに遺されているものを積極的に活用する「あるものを活かし新しい価値を生みだす」という方針のもと、作品制作を行っています。
世界から集う200組を超えるアーティストと、1,000人を超えるボランティアや島の人々との協働により、そこでしか見ることのできない奇跡のような数々の作品が生まれ、瀬戸内の島々の魅力を世界に向けて発信することに繋がりました。

■瀬戸内国際芸術祭2016ホームページ:http://setouchi-artfest.jp/
■瀬戸内国際芸術祭会場

五十嵐靖晃「そらあみ〈島めぐり〉」

変わり始めた島々と地域

地域を元気にするためは、まず、多くの方々に島々に訪れてもらうことが重要であり、2010年の第1回の開催では93万人、前回2013年の2回目の開催では107万人もの来場者をお迎えすることができました。
さらに、交流人口の拡大は、定住人口、すなわち移住者の増加にも繋がっています。人口200人に満たない男木島では、芸術祭が契機となって、ここ数年の間で、子育て世代を中心に30名余りの移住者があり、2年前に休校中であった小中学校が、今年からは保育所も、再開することになりました。また、芸術祭最大の島、小豆島の人口は3万人程ですが、島には2015年度だけで300名を超える方々が移住するなど、芸術祭の活動が、少しずつではありますが、着実に地域に根付いてきていることを感じています。
芸術祭は、島々を巡る滞在型の催しであり、前回の来場者アンケート調査によると、60%以上が県外からの来場者で、その平均滞在日数が2.5日、約半数が2泊以上であるなど、香川の観光の歴史の中で特筆すべき高い数字となっています。
とくに今回の春会期の調査では、海外からの来場者の割合が約13%(前回約2%)と大幅に増加しており、日本全体のインバウンドの増加の影響もあると思いますが、アートが持つ国境を越えた普遍性と、「世界の宝石」とも称される瀬戸内海の景観等が持つ固有性とが見事に融合した芸術祭の魅力が海外の方々にも受け入れられ、香川県が積極的に進めている高松空港の国際化(現在、ソウル、上海、台北、香港に直行便が就航)も大きな弾みとなっているものと考えています。
こうした芸術祭の経済波及効果は、前回で約132億円と推計されています。また、国内外で1,600件を超えるメディアでの報道は、広告費換算で約33億円と推計されているなど、会場地の島しょ部に限らず、香川県全体に効果が広がっています。
芸術祭の開催による地域再生の取り組みは、ツーリズムの面からも高く評価されており、昨年9月には、瀬戸内の島々の魅力をアートという切り口で発信してブランド化に成功し、今後も持続性・発展性が期待できることなどを理由に、世界最大級の旅のイベント『ツーリズムEXPOジャパン』(主催:(公財)日本観光振興協会、(一社)日本旅行業会)の第1回ジャパン・ツーリズム・アワードで、最優秀賞である大賞をいただくなど、反響や効果が多方面に広がってきています。
芸術祭は、世界から集う来場者にとって、船で島々を巡り、瀬戸内の魅力を体感しながら、世界と瀬戸内・香川が直接に交流する場所です。皆様にも、ぜひ、実際に島々を訪れていただきたいと思います。きっと、お気に入りの作品や風景、そして素敵な出会いがあると思います。(了)

第384号(2016.08.05発行)のその他の記事

ページトップ