Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第384号(2016.08.05 発行)

地域との連携による夢のある水産・海洋教育を目指して~イノベーションによる新商品開発物語~

[KEYWORDS]愛知丸/6次産業化/スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)
愛知県立三谷水産高等学校校長◆丸﨑敏夫

愛知県立三谷水産高等学校は、将来の地域産業を担う人材の育成という観点から、地域との連携による実践的教育を行ってきた。
イノベーションによる新商品開発などを推進し、夢のある水産・海洋教育を目指した取り組みを紹介するとともに、文部科学省からスーパー・プロフェッショナル・ハイスクールの指定を受けたことで、地域社会との連携をさらに充実させ、魅力ある教育活動を推進する。

はじめに

愛知県立三谷(みや)水産高等学校は水産科として学ぶ5分野(漁業・機関・通信・増殖・製造)の全ての学科(コースを含む)を設置する水産高校である。開校以来76年、約一万名の卒業生(本科)・修了生(専攻科)は、水産・海洋関連産業を中心に地域社会や日本内外で活躍している。将来の地域産業を担う人材の育成という観点から、水産高校には地域産業や地域社会との連携・交流を通じた実践的教育が求められている。本校は実習船「愛知丸」の漁業実習で漁獲したカツオの流通・販路に関する研究を地元企業と連携して行い、イノベーションによる新商品開発を行った。この実践やその後の新たな新商品開発物語を通して、夢のある水産・海洋教育の実現を目指す本校の取り組みを紹介する。

「愛知丸ごはん」の誕生

カツオ一本釣り実習開発商品を持つ生徒たち

本校実習船「愛知丸」は乗船実習の一環として「カツオ一本釣り実習」を行っている。この生徒が釣ったカツオを地元で水揚げし、加工・販売するという6次産業化について学ぶ機会を得るために、本校の水産食品科は(株)平松食品と連携して、平成23年度から本格的な協働開発をスタートさせた。工場の見学や研修等のインターシップを行う中で試作を重ね、生徒の斬新なアイディアを活かした新食感のジュレタイプのつくだ煮「愛知丸ごはん」が完成した。
この商品は高校生が実際に釣ったカツオを原料とし、揺れる実習船で食べやすいようにジュレ状タイプにしたことや、保存性を高めるために瓶詰め加工とするなど、従来の佃煮の概念を払拭する発想が評判となり、多くのメディアに取り上げられた。また、モンドセレクション※1では2014年から3年連続して金賞を受賞した。高校生の協働開発商品が3年連続で金賞を受賞したのは日本初の快挙である。生徒たちはこの取り組みを通して、自ら課題を見つけその解決のために努力するという学びの姿勢を身に付け、達成感を得るとともに大きな自信をもった。平成24年度にはカツオの魚肉をせんべい生地に練りこんだ「愛知丸せんべい」を(有)石黒商店と協働開発した。この商品では包装ラベルも生徒がデザインした。平成25年度は「愛知丸シリーズ」第3弾として、ヤマサちくわ(株)との協働開発で「愛知丸マグロッケ」が商品化された。カツオ一本釣り実習で混獲されるキメジを材料としたメンチカツ風の新商品である。平成26年度には、地元で多く水揚げされるメヒカリを使った新商品開発に取り組んだ。メヒカリは深海魚で脂肪含有量が高く練り製品には向かないが、試作を重ねた結果、ボール状にしたすり身に野菜を加え油で揚げた「メヒコロボール」が完成した。いずれの商品も生徒の命名である。協働開発に関わった生徒たちは連携した会社に就職し、会社においても高い評価を得るようになったが、このことは本校が地域産業を担う人材の育成のために実践的教育を行ってきた成果である。

地域社会との連携

  1. (1)アワビ陸上養殖プロジェクト
    本校海洋資源科は「がまごおり産学官ネットワーク会議」との連携により、クロアワビの完全閉鎖型陸上養殖技術の開発を目指している。最先端の養殖技術の習得や雇用の創出等が期待できる。
  2. (2)農商工等連携事業
    「愛知丸ごはん」で連携した(株)平松食品と三谷漁協が中核となる連携事業に、本校と水産試験場が連携参加者として関わる、未(低)利用魚貝類の有効活用を目指した新商品開発の取り組みである。ここでは学科を超えた生徒の協働による活動や、水産試験場の研究員による高い専門的知見を得ることで、充実した教育活動を実現している。
  3. 干潟の生物資源調査

  4. (3)三河湾環境再生に関する取り組み
    愛知県が平成24年度からスタートさせた『三河湾環境再生プロジェクト-よみがえれ! 生きものの里"三河湾"-』という取り組みに、本校は当初から積極的に参加してきた。また、海洋資源科はアマモ場再生の取り組みとして、平成20年度から水産試験場や地元の漁協等と連携しながら、アマモ場のモニタリング調査からアマモ種子の洗浄・選別作業、ゾステラマット法※2等による播種から発芽・生育に至る研究に取り組んでいる。さらに、水源涵養の取り組みとして、地元の漁協青年部や森林管理事務所等の指導を受けながら、植物プランクトンの繁殖を促進させる広葉樹の成長促進のため段戸山(だんどさん)国有林でシロモジの伐採作業等を行っている。
  5. (4)実習船「愛知丸」の有効活用
    本校の実習船「愛知丸」(総トン数299トン)は、三河湾の環境再生を考える多目的航海を、さまざまな校種や年齢層を対象にして以下の通り実施している。海洋環境学習講座(教員対象)、東三河海洋環境探求講座(高校生対象)、夏休み海洋学習講座(小学生対象)、海洋調査実習講座(高大連携事業)、三河湾環境学習会(親子)。

スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)への道

わが国は四方を海に囲まれ、太古より海と密接なかかわりをもって生活してきた。水産・海洋教育は、安全・安心で高栄養価な水産物をもたらす水産業や、貿易物流の大部分を占める海運業に加えて、6次産業化の取り組みや、海洋資源の開発等に有益な人材を輩出する無限の可能性を秘めている。本校のイノベーションによる新商品開発物語は、多くのメディア発信も相まって本校の知名度向上に多大な貢献をしてきた。新たに連携を希望する企業も増え、地域連携の取り組みは今後もますます期待されている。
本校は今までの取り組みをさらに発展させ、マルチコプタ(ドローン)による海洋調査(リモートセンシング技術を活用)や、ウナギの完全養殖化に向けた基礎研究、小型海洋調査用ロボットの開発などに挑戦するため、文部科学省より平成28年度スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール※3事業の指定を受けた。このSPH事業を進めることで、地域社会に必要とされる人材作りをさらに充実させ、夢のある水産・海洋教育の実現を目指して力強く前進する。(了)

  1. ※1モンドセレクション=食品・化粧品・健康を中心とした製品の技術的水準を審査する民間団体で、与えられる認証。1961年ブリュッセルに設立。本認証は定められた技術水準を満たした商品には全て認証が与えられる。
  2. ※2ゾステラマット法=アマモ種子を天然繊維マットと金網で挟み込んだ基盤を使っての播種法
  3. ※3スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール事業(SPH)=文部科学省で、専門高校等において、大学・研究機関・企業等との連携強化等により、社会の変化や産業動向等に対応した、高度な知識・技能を身に付け、社会の第一線で活躍できる専門的職業人の育成を図る事業。平成26年度より実施。
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