Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第379号(2016.05.20 発行)

タンザニアの海藻養殖発展の推移~気候変動の影響の克服と課題~

[KEYWORDS]スピノサム/クラスター・イニシアチブ・モデル/気候変動
ダルエスサラーム大学海洋科学研究所◆Margareth S. KYEWALYANGA
ダルエスサラーム大学海洋科学研究所◆Flower E. MSUYA

タンザニアでは1930年代から海藻養殖は重要な産物となってきたが、近年、気候変動の影響によって海藻生産者の収入が不安定になっている。ザンジバルでは現在、シーウィード・クラスター・イニシアチブと呼ばれる大学・各種研究所などの学術機関、政府諸機関、そして海藻生産者や買い付け業者等事業者らの三者から成るプラットフォームができ、生産者と協力して海藻の増産を目指している。

タンザニアの海藻養殖の始まり

■タンザニアにおける海藻養殖地

タンザニアでは、1930年代から海藻は経済的に重要な産物である。当初は、海浜の住民が野生種を収穫し、欧米に向けて輸出していた。1950年代には、乾燥海藻約4千トンが主としてフランス、アメリカ、デンマークに輸出され、以後海藻が重要な輸出品となるが、70年代に入ると天然の海藻が枯渇した。これを受けて70年代末から80年代にかけて、ケト・ムシゲニ教授を先駆者としてダルエスサラーム大学の研究者らが新たな品種を探し始めた。80年代半ばにフィリピンより2種の海藻を輸入して開始され、1989年には二つの種、Kappaphycus alverazii(和名:キリンサイ、一般的にはコットニー)およびEucheuma denticulutum(スピノサム)の養殖が始まった。スピノサムに比べてコットニーのほうが工業的用途が広く※、価格もおよそ2倍で取引されるところから、コットニーがより好まれている。8年後には、タンザニアの沿岸地域全体に広がり、生産量は2008年には7千トン、2015年には1万3千トンにまで伸びた。

海藻養殖の利益

1989年に始まった海藻養殖は、タンザニア沿岸で当初から生産者に経済的利益をもたらした。人々は養殖で得た収入によって食料の確保、子供の教育、医療費、日用品の購入、家屋の修復・新築、小規模企業の立ち上げなどができるようになった。ここで注目したいのは、生産者の約70%が女性である点である。家計所得への貢献が女性に大きな自信を与えた。中には、タンザニア沿岸の社会の文化、伝統からすれば異例ではあるが、女性がほぼ唯一の家計の担い手となっているケースもある。こうした結果、社会の中での女性に対する認識、さらには女性を尊重する意識が高まり、女性の地位の向上につながっている。
海藻産業は個人の利益にとどまらず、国の経済にも貢献している。例えば、ザンジバルでは、海藻が、観光、香辛料(丁子:クローブ)の輸出に次いで三番目に重要な外貨の稼ぎ手であり、水産輸出の90%以上を占めている。世界全体で見ればタンザニアは、フィリピン、インドネシアに次ぐ三番目のスピノサム生産国となっている。生産者の数は約2万6千人、生産量は、気候変化による影響で生産量が減少する前の2012年には、乾燥海藻にして年間1万5千トンを超えた。輸出先は、フランス、アメリカ、中国、チリ、スペイン、デンマークである。

気候変動・変化の影響

■左)深水養殖の現場に向かう人々
■右)浅水養殖の現場

コットニーとスピノサムは、タンザニアに導入された当初、成長速度も生産量も同程度であったが、2000年代初頭になると、コットニーに海面温度の上昇、着生植物の繁茂などの環境変化の影響が現れ始め、アイスアイス病により大量死した。スピノサムは成長を続けたが、やがて微細藻類、大型藻類、特に毒性を持つシアノバクテリアが着生するなど、環境条件の悪化の影響を受けるに至った。海藻枯死の結果、生産高と生産者が減少し、品種の転換や養殖地の移動が起きた。最近になって、着生生物による皮膚のかゆみという健康被害が生産者に発生している。医師の治療が必要となり数ヶ月間養殖場で仕事ができなくなるほど重篤な例もある。気候変化がもたらす生産者の重大な被害は今も続いている。スピノサムがキロ当たり0.3ドルで取引されるのに対してコットニーは0.6ドルと、価格は二倍だが、現在ではコットニーはもはや生産ができなくなり、場所によってはスピノサム養殖にも被害が出ている。こうした問題によって収穫量が足りないと多くの生産者が訴えている。

生活向上のための革新的解決法

ザンジバルでは現在、F.E.Msuyaが主導するシーウィード・クラスター・イニシアチブ(以下SCI)と呼ばれる「三重螺旋」態勢、即ち、大学・各種研究所などの学術機関、政府諸機関、そして海藻生産者、買い付け業者等を含む事業者らの三者から成るプラットフォームができ、生産者と協力して海藻の増産を目指している。この仕組みを通して生産者は、それぞれが抱える問題を伝え、適切な解決法を求めることができる。また、SCIは、得られた研究成果を直接生産者に還元する。従って生産者が問題点をSCIに対して報告すると、研究者側が解決法を提供するのである。例えばコットニーでは、深水域での養殖が指導され、通年生産が可能になり、スピノサムでは、付加価値を高める研究に力を入れ、乾燥海藻のままで出荷するよりも高く売れるようになった。
生産者に対して、石鹸、マッサージオイルやクッキー、ケーキ等の食品に利用できる粉末海藻を作る技術、また、生あるいは乾燥の海藻を用いてジュース、ジャム、シチュー、サラダなどの食品を作る技術が伝授された。さらに、商品包装、市場開拓、また国内外の展示会に出展して製品を販売するための指導も行うなど、過去10年SCIは、生産者の所得向上を支援してきた。その良い例がスピノサム粉末の価格である。スピノサムは、乾燥海藻のままでは1キロ0.3 USドルであるが、粉末では1キロ6 USドルで売れるのである。こうした経済的利益にとどまらず、SCIの創立・主導者F.E.Msuyaが述べるように、「SCIができてから、生産者同士が養殖や日常生活の問題を携帯電話で相談し、どのような問題を研究機関に持ち込むかを話し合っている」のである。

将来に向けて

クラスター・イニシアチブ・モデルには多くの利点があるが、最大の利点は「科学と行政をつなげた」ことである。ザンジバルでは、SCIが存在することによって、生産者、研究者、政府関係者、さらには販売業者、輸出業者らが互いに顔を合せて海藻業界の懸案事項を討議し、解決法を見出すことができる。これにより、生産者と他の沿岸利用者とが対立しないように、既存の政策が変更された。また、生産者が廃業に追い込まれるまでに価格が低下することを防ぐための施策も講じられた。さらに生産者がSCIを通して容易に研究者らと接触し、さまざまな問題について相談し、直ちに解決法を得ることができる仕組みになっている。人々の生活向上のために、また、沿岸および海洋資源の持続可能な利用のために、こうしたクラスター・イニシアチブ・モデルが国内外の、特に沿岸地域のコミュニティにおいて導入されることが望まれる。(了)

コットニーおよびスピノサムより、カラギーナンが生成され、食品・工業用の造粘剤、安定剤として使用される。
本稿は英語で寄稿いただいた原文を翻訳・まとめたものです。原文は /opri/projects/information/newsletter/backnumber/2016/379_1.html でご覧いただけます。
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