Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第379号(2016.05.20発行)

東京都内湾で約50年ぶりに「海水浴」復活

[KEYWORDS]認定NPO法人ふるさと東京を考える実行委員会/葛西海浜公園/都市の再開発
認定NPO法人ふるさと東京を考える実行委員会理事長◆関口雄三

東京都内湾の海水浴の復活に向けた行動を開始してから35年が経過した2012年の夏、ついに葛西海浜公園で海水浴を復活させ、「遊泳禁止」看板は「許可なき遊泳禁止」に変更となった。海水浴ができる東京湾を取り戻すことは東京湾を再生させることであり、それによって東京湾が豊かになり漁業が盛んになることでもある。

私を育てた東京湾

東京都内湾から「海水浴場」がなくなって早や半世紀が経ってしまった。
私の生まれは、東京湾奥の葛西である。そこは半農半漁の村、主要な産業は海苔養殖。私の生まれた家も海苔養殖と農業をやっていて、子どもの頃はよく手伝わされたものだ。近所の子どもたちも皆、働き手として学校に行く前にあさりの行商などをしていた。私も父親のベカ舟を借り、ゴカイを掘り、釣り人を舟に乗せ、自ら櫂を使って案内するという小遣い稼ぎをやったりしていた。私は自然の中で育ってきた。潮が満ちた時は泳ぎ、潮が引いたときは、潮干狩りや野球をしたものだ。そうしたなかで、「自分の身は自分で守れ」、さらには「自分のふるさとは自分で守れ」ということを体得したように思う。
そんな葛西の海も昭和30年代の高度経済成長期になるとどんどんと汚れていき、1962(昭和37)年には東京都内湾の漁業権が一斉に放棄されてしまった。「漁師がいなくなると海はダメになる」というのが私の体験からくる信念だが、漁業権放棄後は、さらに海は汚くなり、海水浴場も消滅してしまった。

約50年ぶりの海水浴復活までの道のり

私は、私たちの時代に失ったものは私たちの時代に取り戻し、次世代につなげるべきと考えており、東京都内湾の海水浴の復活に向け行動を起こすこととした。「海水浴ができる東京湾を取り戻す」ことは「東京湾を再生させる」ことであり、それによって「東京湾が豊かに」なり「漁業が盛んになる」ことでもある。しかも「豊かな海」があれば、それがある限り、漁師が世代を超えて生活でき、地域社会が成立することにつながる。豊かな海は、自立した地域を再生するために「かけがえのない場所」なのである。
1977年に東京都内湾の海水浴の復活に向けた行動を開始してから35年が経過した。何事に付け、失ってから取り戻すのは大変な労力が必要となる。私たちはさまざまな紆余曲折を経て、2012年夏、わずか2日間ではあるが、地元の葛西海浜公園で海水浴を行うことができ、これをきっかけに東京都の「遊泳禁止」看板の文言が、「許可なき遊泳禁止」に変更され、2013年には13日間、2014年は20日間と日数を増やして海水浴を実施し、多くの人々が訪れた。

■東京湾に海水浴が帰ってきた。2015年には20日間で約4万人もの人々が海水浴を楽しんだ

東京都も本腰

これを見ていた東京都もやっと本腰をあげ、2014年12月に策定された東京都の長期ビジョンにおいては、「2016年から葛西海浜公園で海水浴を実施する」ことを表明するまでになり、2015年は、「葛西海浜公園海水浴社会実験」を東京都と認定NPO法人ふるさと東京を考える実行委員会が事業連携して20日間実施し、約4万人もの人々が海水浴を楽しんだ。また、マスコミでも大きく取り上げられ、NHKをはじめとするテレビ番組で約30回放映され、主要五大新聞をはじめとする新聞雑誌に約20回掲載された。
2016年度は「葛西海浜公園海水浴社会実験」をさらに充実させ、33日間の実施を検討している。そして2017年度からは葛西海浜公園の海水浴が定着するよう東京都や東京都公園協会と力を合わせて頑張っている。
なお、私達は環境改善を目指した新たな活動である「里海里山連携プロジェクト(竹ひび1人1本活動)」を本年度から開始しており、「竹ひび」に多くのカキ(水質浄化能力を持つ)が生育することで海水浴場の生物相を豊かにするとともに水質浄化に寄与することを期待している。この活動は、まだ始まったばかりだが、やがてこれを大きなムーブメントとして盛り上げていきたいと考えている。

世界に広める

東京都内湾における海水浴の復活は、水質改善の象徴であり、今後日本の都市部をはじめ世界の都市近郊の再開発の一つの指標になっていくように思う。都市の再開発は、漁業利用やリゾート利用の分け隔てなく、また縦割り的発想もやめて、全体としてどう捉えるかが大切であり、「海水浴の復活」も都市のランドスケープデザインの一つとして存在するものと考えている。(了)

認定NPO法人ふるさと東京を考える実行委員会 http://www.furusato-tokyo.org/furusato%20tokyo%2020.html

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