Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第379号(2016.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)◆山形俊男

◆つぎつぎに大陸から東進する高気圧に覆われ、晴れ渡る青空と若葉の対照が美しい。しかし、南の洋上にはすでに東西に伸びる前線が形成されている。この前線は次第に北上を開始して、いずれ列島ではつゆ空の日が多くなるだろう。緑あふれる大地に貴重な水をもたらす季節の到来である。年々歳々、過ぎゆく時を惜しみ、新しい季節の訪れにときめくことができるのはなんと幸せなことか。
◆一方で、天変地異は突然に襲ってくる。特に、地震は日常の幸せさえも一瞬にして奪い去る。壇ノ浦の戦いの4ヶ月後に都を襲った文治地震について、鴨 長明が「山はくづれて河を埋(うづ)み、海は傾(かたぶ)きて陸地(ろくじ)をひたせり。土裂けて水涌き出で、巌(いはほ)割れて谷にまろび入る。・・・恐れのなかに恐るべかりけるは、只(ただ)地震(なゐ)なりけりとこそ覚え侍りしか」と記述している通りである。
◆東日本大震災から5年余、今度は九州地方の大地震が甚大な災害を引き起こした。異常気象を起こすエルニーニョ現象などは、今では1年前からほぼ確実に予測できる。地震などの地球物理現象についても、ニュートリノやミューオンなどを活用して地中のスキャンを可能にする素粒子地球科学、光格子時計で時空間の歪みを測定する相対論的地球科学など、革新的な科学の展開に期待したい。
◆今号では、タンザニアのKyewalyanga氏に、海洋温暖化の影響を克服して海藻養殖産業を成功に導いた先進的な事例について、Msuya氏とともに紹介していただいた。学術、政府、生産、販売・貿易に関わる異分野の人たちが顔を合わせて海藻業界の問題点を検討し、解決策を考える「シーウィード・クラスター・イニシアチブ」の導入が効果的だったという。海洋資源利用への努力が、沿岸利用者間の対立を防ぐ政策、価格維持のための施策、生産に従事する女性の社会的地位の向上など、持続可能な社会形成にまで展開しているのは素晴らしい。
◆根本敏則氏には、成長著しいインド経済を牽引する自動車産業に着目し、物流の抱える課題を解説していただいた。広大な国土に分散するクラスター間の部品調達にはソフト面での物流体制の効率化とともにハード面でのインフラの整備が不可欠ということである。インド政府は学術面でのインフラの整備にも力を入れている。熱帯気候研究所が導入したスーパーコンピュータは地球シミュレータを凌ぐ性能を持つ。インドが経済面でも文化面でも世界の巨象として登場する日は近い。
◆つゆが明ければ、いよいよ海水浴の季節が来る。しかし、東京湾奥から海水浴場が消えて久しい。関口雄三氏は東京湾に豊かな海を取り戻すための象徴的な活動として海水浴場の復活に力を注いできた。努力が実り、東京都がこの夏に葛西海浜公園で海水浴を実施することを宣言するまでになった。市民団体と行政サイドとの連携、内湾利用者間の垣根を外した連携など、ここにおいてもステークホールダー間の交流と熱意をもったリーダーの存在の重要性が読みとれる。葛西海浜公園ではしゃぐ子どもたちの歓声が聞こえてくるようだ。 (山形)

ページトップ