Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第374号(2016.03.05発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆東日本大震災からまもなく5年を迎える。国による復興支援政策も一区切りとなる現段階で、これまでと今後を見据えておくことは必要不可欠であろう。本号では水産業の復興にかかわる3つのレポートを取り上げたが、この3本だけで三陸における水産業全体の動向を完全に掌握することはできない。しかし、本号を注意深く読んでみると、共通する課題と地域固有の課題があり、国や県が諸課題の重層性をいかに施策として反映させるかが焦眉の問題であることがみえてくる。
◆共通する課題とは何だろうか。気仙沼市長の菅原 茂氏、大船渡市長の戸田公明氏、東京海洋大学の濱田武士氏が実感としておもちの現状認識は、「人材不足」に帰着するといってよい。被災した水産加工場を解雇された人びとはふたたび元の場所にもどってくることがあまりないのが現状だ。水産業従事者への実質賃金のかさ上げは消費税の議論ばかり先行する中で、もっと真摯に対応すべき課題であろう。人材が再度、元にもどることは濱田氏が指摘するように、新たな販路と労働力の発掘しか期待できないのだろうか。海外労働者にしても、シリア難民の受け入れなど、大胆な構想があってもよい。
◆もとより、3.11がなくともわが国の水産業のかかえる問題は多々あった。魚価の低迷、漁民の高齢化・後継者不足などの慢性的な病巣をもっていた日本の漁業に、津波が追い打ちをかけたと言わざるを得ない。被災地に多方面での支援が最優先されるとしても、病巣の根絶ないし軽減には国全体としての政策提言なしに未来は見えてこないのではないか。日本の海洋政策は、ホットスポットとしての被災地にだけ対症療法的に向けられるべきではさらさらない。
◆大枠では、世界の漁業生産や海洋資源管理の問題がある一方、2004年に発生したインド洋大津波ののち、インド、スリランカ、タイ、インドネシアなどの国々の政府や国際援助機関が取った政策や行動計画と、それにたいする漁民の対応にもいま一度目を配っておくべきであろう。というより、現場の漁民の声をどのように施策に反映させるのか、心もとない面がある。
◆他方で、気仙沼と大船渡など大きな水産都市以外の、大多数をなす中小規模の漁村や放射線による後遺症をかかえる福島県下の漁村では、それぞれの浜や浦に特有の課題が山積している。漁業形態も、沿岸の磯漁、養殖業、沖合いでの中型漁業など、それぞれの漁業協同組合がかかえる問題群は多様である。
◆岩手県の大槌町には、南極海や和歌山県太地で問題を起こしてきたシーシェパードが不穏な動きをみせているとの情報が届いているという。かれらはイルカ突き棒漁への妨害を狙っているフシがある。福島が原発被害にさいなまれている一方で、若狭湾の高浜では原発が再稼働している。三陸の問題を地域固有のこととしてだけでなく、日本さらには世界の中の問題と位置づけ、この先の復旧・復興のグランド・デザインを国と地域が一体となってつぎの5年、10年の取り組みをいますぐに始めるべき段階にあるだろう。(秋道)

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