Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第374号(2016.03.05発行)

大船渡市における水産業の復興と今後の展望

[KEYWORDS] 水産のまち/市民と行政の協働/課題克服
岩手県大船渡市長◆戸田公明

三陸漁場に面した岩手県の南部に位置する大船渡市は、古くから漁業を基幹産業として栄えてきた水産のまちです。
東北地方太平洋沖地震と津波により市の沿岸部は壊滅的な被害を受けましたが、国内はもとより世界中の皆様から多大な支援を受け、大船渡市は震災の痛手から立ち上がり、復興への歩みを進めております。
今後は、震災前からある課題を克服し、より力強い水産のまちを目指しています。

三陸の海が育んだ水産のまち大船渡

岩手県の南部に位置する大船渡市は、リアス海岸がもたらす天然の良港を擁し、「霧白き港の朝、夢破る汽笛の響き」などと歌われた、文字通り大きな船が渡るまちであり、世界三大漁場の一つである三陸漁場に面した好環境のもと、古くから豊かな海の恵みによって栄えてきた水産のまちです。
当市の沿岸においては岩礁域が発達し、アワビ、ウニ等の磯資源に恵まれていることから、採介藻漁業※1が広く行われ、入江では静かで穏やかな漁場環境を活用してカキ、ホタテガイ、ホヤなどの養殖が行われています。ホタテガイやカキなども市場では高い評価を得ており、その中でも、中華料理の高級食材として有名な干しアワビは、当市主要産地の一つである吉浜(よしはま)地区の名を冠して吉浜鮑(キッピンアワビ)と呼ばれ、本場中国、香港で珍重されています。アワビやヒラメ、サケなどの放流を行うなど、資源増殖にも努め、つくり育てる漁業を推進しています。当市の外洋では、ワカメ養殖が行われており、三陸ワカメとして全国的なブランドを確立しています。このように三陸漁場の豊富な魚種の水揚げに支えられて、水産加工業も盛んであり、冷凍水産加工業は当市の食品製造業の基幹を成しています。
こうして、漁業、水産加工業、流通業等が互いに支えあい発展することで、大船渡市は水産拠点都市としての地位を確立してきました。

震災からの復興を目指して

■現在の魚市場(水揚げ)

■震災直後の魚市場

水産業を礎として発展を続けてきた大船渡市ですが、2011(平成23)年3月、東北地方太平洋沖地震により生じた津波が、沿岸部に壊滅的な被害をもたらしました。市民の皆さんの尊い生命と築き上げられてきた財産が津波により失われた、まさに未曾有の大災害でした。
水産のまちである当市にとって、水産業は漁業を基盤とし、水産加工業、流通業などさまざまな業種が関連して成り立っていますが、それらの業種の連携が絶たれただけでなく、漁船、漁具、漁場、加工場や働き手、商品の販売先など水産業を支える資産や資源に被害を生じたことは、水産業の復旧にあたって大きな痛手となりました。
しかし、基幹産業である水産業の復興なくして本市の復興はなし得ないことから、市内各漁業協同組合をはじめ、関係機関・団体と一丸となって、水産業の早期復興に全力で取り組みました。
まず、漁業の基盤となる漁港の復旧工事を行い、国や県の支援を活用し、漁船や養殖施設、作業場、荷さばき所等整備を行いました。現在は沿岸部の安全を確保するために、防潮堤の整備等を進めています。既に、市内の漁港施設は復旧が進み、使用可能となりました。建設中に被災した大船渡市魚市場も、2014(平成26)年4月に高度衛生管理に対応した新たな魚市場として完成し、営業を行っております。おかげをもちまして、平成26年度には、大船渡市魚市場の水揚げ量は52,861トン、水揚げ額で70億4,200万円とほぼ震災前の水準に回復したところです。
そのほかに、「がんばる養殖」「がんばる漁業」※2といった復興支援策も頂きながら、漁業生産が本格化してきており、水産加工業においても多くの事業所が復興交付金を活用した施設整備を行い、事業を再開しております。

水産のまち大船渡の目指すもの

大船渡市魚市場の水揚げは震災前の水準に回復したところでありますが、水産業を取り巻く環境につきましては、水産資源の減少や魚価の低迷、担い手不足などの問題を抱え、まだまだ厳しい状況です。
そのような現状を打開するため、現在策定を進めている当市の総合計画後期基本計画では、7つある施策の大綱のうち、豊かな市民生活を実現する産業の振興を第一とし、その1番目に水産業の振興を定めました。震災以前から水産業が抱える課題を解決し、地域活力を担う水産業の振興を図るため、漁業資源の確保、漁業経営の安定支援、担い手の育成・確保、漁港・漁業集落の基盤整備、水産加工・流通機能の強化の5つの基本事業に取り組むこととしています。
これらの施策を通じて、震災前からの課題を克服し、より力強い水産業の復興を目指します。また、今後も、当市が持続的に発展していくためには、地域経済の活力を維持していくことが必要です。震災からの復興で増加した需要が少なくなっていくなか、民間の実力経済に徐々にバトンタッチしていくために、民間事業所の頑張りを行政として支援していきます。そのため、当市総合計画の施策の大綱を横断する重点プロジェクトとして、新たに『大船渡市まち・ひと・しごと創生総合戦略』を策定しました。
将来を見据え、人口減少にできるだけ歯止めをかけ、元気な郷土をつくるために、働く場の創出、交流人口の増大、結婚・妊娠・出産・子育てが安心してできる環境の構築に努めます。大船渡を生涯暮らし続けられる地域とするため、市としましては産学官金労言に及ぶ市民・事業所の皆さんとしっかり連携しながら取り組んでいきます。
結びに、震災で被害を受けた当市に対しまして、国内外の皆様より各般に渡るご支援をいただいておりますことに、この場をお借りしまして深く感謝いたします。
今後とも、水産のまち大船渡にご注目いただくとともに、大船渡におこしいただいて、新たに歩み始めたまちの姿をご覧いただき、豊かな海の幸を味わっていただきますようお願い申し上げます。(了)

※1 素潜りで採捕したり、漁船から箱メガネを用いて海産物を探しカギなどで採捕する漁法
※2 がんばる養殖復興支援事業、がんばる漁業復興支援事業=漁業・養殖業復興支援事業の一環として、水産庁の定めに基づき、特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構より、地域復興協議会によって選定した組合等に助成金を交付するもの。

第374号(2016.03.05発行)のその他の記事

ページトップ