Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第372号(2016.02.05発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆都内文京区本郷3丁目の「赤門」といえば、東京大学の入口にある有名な門である。赤門を入って右奥に赤レンガの古色蒼然とした3階建て(地下1階)の研究棟がある。これが理学部2号館である。その2階に動物学教室があり、本誌でM・ガルブレイスさんが紹介したA・オーストンの研究仲間であった箕作佳吉、飯島 魁両教授が研究を続けた場所となっている。オーストンは赤門をくぐったのか。知る由もないが、オーストンの海洋生物に関する博物学への興味と標本収集にかけた情熱は相当なものであったと感じ入った。明治期における日本の博物学への貢献を学ぶとともに、オーストン収集の標本はいまも世界のどこかに生きていることを知った。地味だが貴重な成果だ。
◆博物学は英語でいえば、ナチュラル・ヒストリー、つまり自然史の研究を指す。
◆博物館もいまでは相当さま変わりした。赤門から東大キャンパスを対角線で結んだ奥の場所に東京大学出版会がある。同出版会の企画のひとつに、『ナチュラルヒストリーシリーズ』があり、1983年以来これまで40冊の単行本が出版されている。聞くところによると、このシリーズも来年の3月で終わりになるという。恐竜や深海生物への興味がすたれたとは思わないが、魚類や貝類、甲殻類だけでなく、多様な海の生き物への興味を若い人たちに引き継いでもらいたいものだ。
◆水族館は「生きた博物学」を学べる格好の場である。葛西臨海水族園で海洋生物の展示・普及活動にまい進されている天野未知さんは、一貫した現場主義の重要性を投げかけておられる。バーチャルな情報があふれるなか、自然を肌で感じ、見て、ふれる活動こそが原点にあるべきとする主張はもっともである。水族館が子どもたちの自然をみる眼を育てるハブとしての機能をもつことはこれまでも指摘されているが、天野さんらの活動の持続性とますますの広がりを期待したい。
◆自然を学ぶ教育は、未来の地球を考える心と知恵を育むに相違ないが、ほどなく東日本大震災から5年を迎える。建物や道路、住宅、防潮堤など、工学的な側面の復興は着実に進展しているようだが、長期的な展望に立った減災と避難活動などに関しては自治体はどう取り組んでいるのか。地震や津波への備えを軽視してはなるまい。東北大学災害科学国際研究所の保田真理さんは、子どもたち自らが考えて災禍に対応する判断力をもてるような教育を進めるべきと主張する。減災ポケット「結」プロジェクトではハンカチをツールとしてじかに子どもたちとふれあい、「自分の身は自分で守る」をモットーに子どもたちと対話を進めてきた。年齢と経験だけでわが身が生かされるとはかぎらないことを思い知ったいま、未来に向けた活動にエールを送りたい。(秋道)

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