Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第370号(2016.01.05発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌
謹賀新年

◆2016年の新年を迎えた。おもえば、昨年いろいろなことが起こった。パリでの同時多発テロが地球環境問題と無縁ではないとの指摘がある。直後のCOP21では地球温暖化の課題に向けたCO2排出削減に関する議論がなされた。最終段階のパリ協定では参加国すべてにCO2削減への取り組みが義務化された。「爆買い」が流行語となったが、背景にある中国の経済発展と北京市の異常なPM2.5値とは無関係ではあるまい。米海洋大気局(NOAA)の発表では、2015年に発生したエルニーニョは過去最大級であり、今後もつづくという。マーシャル諸島の低平なサンゴ礁島が高波で飲み込まれそうになる映像をみたが、2011年の津波を想起させる恐怖そのものの印象を与えた。
◆この先、暗澹とした思いだけで新年をおくりたくはない。一歩、二歩と前進したい。2015年11月、日本財団会長の笹川陽平氏は国際海事機関(IMO)の国際海事賞受賞式でのスピーチで、地球が抱える多様で複雑な海の諸問題に対処するために、とりわけ海洋管理に関する新しい「海の未来のデザイン」にむけたグローバルな組織の立ち上げを提起されている。これは日本が率先して実現すべき意義があり、本年度あるいはそれ以降の最重要の課題として取り組むべきであろう。官民産学の連携を主導するのはだれか。引っ込み思案で、新規事業はやりたくないとする後向きの姿勢はもはや許されないのではないか。2015年のテロやCOP21での発言の背景には、貧困と干ばつにあえぐ地域の人びとと子どもの姿がある。
◆IMOの主宰する「世界海の日」のパラレルイベントが2005年以来、世界各地で開催されている。2015年7月には日本が中心となり、日本独自の第20回目となる「海の日」と抱き合わせた記念すべき会が横浜であった。イベントの実施にご尽力された国土交通省海事局の河村俊信課長はじめ関係者各位に拍手を送りたい。このイベントの成果として提唱された『横浜宣言』では、海事人材の育成・啓発・連携に関する高度化の推進が謳われている。また、海洋への理解を促進するための海事遺産の顕彰に関する条項がある。ユネスコの世界遺産や世界ジオパーク、FAOによる世界農業遺産などの例はあるが、このさい、海の遺産保全と顕彰を世界レベルで進める舞台作りの契機としてはどうか。
◆東京藝術大学教授でアーティストの日比野克彦氏が各地で取り組まれている、海を知り、つながる「種船プロジェクト」の創造性にあふれた海洋教育の着想におもわず感嘆する。朝顔の種をきっかけとして、日本の海がつながることは何と素晴らしいことか。舞鶴にあるレンガ倉庫から、新しい海のつながりと海への理解の拡大は、大きく膨らんで今年も希望に満ちた年になる予感をあたえていただいた。(秋道)

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