Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第368号(2015.12.05発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆ウィンドチャレンジャー計画。風を使った海の新時代の到来だ。ここ数十年、多くの人工衛星が打ち上げられ、地球上にさまざまな情報を送ってきた。人工衛星打ち上げには巨額の投資を要するが、風力で巨大な貨物を輸送するシステムは帆船時代の再来を告げる省エネ型の試みだ。帆の画期的な工夫で帆船のイメージが革命的に変わった。東京大学の大内一之氏の意気込みをとてもたくましくおもう。
◆人工衛星が地球の海や大気のグローバルな情報を観測できたとしても、水深2~3mの浅瀬のミクロな情報はわからない。地上の人間にとっても同様で、すぐ近くの浅海とその様子については知らないうえ、意外と関心も低い。国土交通省の国土技術政策総合研究所に所属する岡田知也氏は、東京湾を例として浅場の海が生物にとってもつ重要な意義に注目された。しかも、陸から海に至る移行領域を面として総合的に把握する視点は斬新で、東京湾のように都市化、港湾化が進み、人工海岸がほとんどを占める場では人間活動が生物生産に与える影響を知るバロメーターとなる。東京湾がきれいになったとするだけで、環境評価がおわるのではない。瀬戸内海のように、海はきれいになったが貧栄養で豊かでなくなった例もある。
◆水深数メートルの海ならまだしも、1,000m以上の深海における生き物を陸上の水槽で飼育して広く公開するような発想はかつてなかった。水温4℃以下で水圧も高く、深海底の200℃以上の熱水を出す熱水鉱床付近に生息する生き物を夏なら30℃、1気圧の世界に無事引き上げるまでの技術と、飼育する技術はたやすくはない。飼育のさいには、水槽の酸素を減らし、その分二酸化炭素を増やし、硫化水素を発生させる深海とおなじ条件で飼育する必要がある。新江ノ島水族館で深海生物に出会えるのも世界初の技術のおかげだ。北里大学海洋生命科学部の三宅裕志氏をはじめとするチームによる技術開発に拍手をおくりたい。(秋道)

第368号(2015.12.05発行)のその他の記事

ページトップ