Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第357号(2015.06.20発行)

第357号(2015.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆東京都の5月の平均気温は1982年の記録を更新し、気象庁の観測開始以来の最高値となった。太平洋高気圧がいつものようには成長せず、日本列島は北の高気圧に覆われて好天が続いたためである。1982年と同様にエルニーニョ現象が発生しているのが遠因になっている。季節予測によれば、この夏ごろに比較的強い現象に成長するようだ。その影響で日本列島上に梅雨前線が停滞するならば、不順な夏が予想される。これからの季節は集中豪雨などに注意が必要である。一方で、口永良部島新岳の噴火や小笠原西方沖の巨大深発地震もあり、頻発する天変地異といかに共生していくかに私たちの叡智が問われている。口永良部島における適切な避難に見られたように、ソフト面における不断の準備が重要である。
◆今号では森 隆行氏に内航船舶の海外売船について取り上げていただいた。内航海運が生活インフラとして不可欠なアジアの国々にとって、日本の中古船へのニーズは高い。毎年150~160隻が売却されて、中古市場は活況を呈しているようだ。これには内航総連と独立行政法人JRTTの橋渡し役が功を奏してきた。JRTTは内航船事業者の新船建造と同時に中古船売買も支援することで、安定した経営に大きな貢献をしてきた。こうした成功を更に国際展開して、途上国における船舶管理や運航面での支援も強化していくことは、国際社会の安全・安心と持続可能な発展に貢献することになる。中古船売買という切り口からも、わが国の進むべき道が見えてきた。
◆「海をテーマとしたまちおこし」が函館市で本格化している。産官学の連携により、昨年6月に旧函館ドック跡地に国際水産・海洋総合研究センターが発足した。伏谷伸宏氏にはその活動の様子について解説していただいた。練習船、調査船の母港や研究棟を備え、レンタルラボでは海藻研究や機器開発等が行われ、市民と共に海洋教育活動も活発に展開されている。こうした試みが各地に広がり、成功体験を共有していくことが望まれる。
◆最後のオピニオンは卯田宗平氏によるもので、宇治川の鵜飼についてである。わが国の鵜飼は奈良時代にまで遡れるようである。これまで千数百年にわたって野生のウミウを捕獲し、利用してきたのである。新古今和歌集に「鵜飼舟 あわれとぞ見る もののふの 八十宇治川の 夕闇の空」という歌がある。これを詠んだ慈円は「一芸あるものをば下部までも召し置きて、不便にせさせ給ひければ・・・」と徒然草に描かれているような慈愛溢れる人物だったようだ。彼にあわれと感じさせたのは故無きことではない。しかし、昨年、野禽に初めてヒナが誕生し、順調に成長しているという。中国のカワウによる鵜飼のように、ウミウの家禽化への道が拓けたのである。折しも、追い込み漁により捕獲されたイルカが水族館で馴化され、利用されていることが大きな問題になった。伝統文化と新しい価値観との共生をどう進めるかは、難しい問題である。命あるものと文化の持続可能性、そして資源の利活用とのバランスに絶えず配慮していく過程にこそ答があるのではないだろうか。(山形)

第357号(2015.06.20発行)のその他の記事

ページトップ