Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第303号(2013.03.20発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆スマートフォンが巷にあふれるなか、行きたい場所を地図アプリで検索することは日常茶飯事となった。陸上ではランドマーク(目標物)を目視して自分の位置を知ることができるが、画像の平面図をみてもビルの高さまでわかるわけではない。同じことを海に当てはめれば、海上の位置関係の情報だけではナビには不十分だ。重大な事故を防ぐうえでも、水深や水中の障害物の位置確認は船舶の航行上不可欠である。海図はそのためのものであり、陸地における地図とはちがう。(一財)日本水路協会の西田英男氏が強調されているのはまさにこの点にある。3.11の津波で被災した三陸の釜石で、近代日本で最初に自前の海図「陸中國釜石港之圖」が明治5年に作成された。その記念碑が釜石大観音のある広場に平成6年建設された。記念碑は昨年、被災地に寄るさいに宿泊した宿のすぐ横にあったようだが気がつかなかった。高台にある広場からは釜石湾を眼下に望むことができる。海図が作成された明治初年から釜石港は大きく変貌した。今回の津波からの復興にさいして、海図は地盤沈下をふくめて大きく書き換えられるのだろうか。
◆「東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる」。石川啄木の歌集『一握の砂』の一作品である。愛知県の伊良湖岬から静岡県の浜名湖にいたる海岸には通称、表浜とよばれる砂浜海岸がつづいている。表浜には太平洋から産卵のためにアカウミガメがやってくる。日本の海岸は戦後、大規模な攪乱と改変を経てきた。そのことによりアカウミガメの上陸が阻害され、生き物の生命(いのち)が絶たれた。表浜ネットワークはウミガメ保護を進める特定非営利活動法人であり、代表の田中雄二氏を含めた有志らがウミガメ保全活動を精力的におこなっている。注目すべきは、対象であるウミガメだけを保全すればよいという観点からではなく、砂浜全体を保全するという包括的な立場にたった活動を続けておられる点だ。田中氏も触れておられるように、海岸の砂がウミガメの産卵行動に果たす役割はきわめて大きく、この点を子どもたちへの海洋教育にぜひとも取り入れていただきたい。「東海の浜辺の砂の障壁にわれ泣きぬれて子亀を憂ふ」。わたしの駄作であるが、産卵後にふ化した子ガメが障害物のために海にもどれないことを案ずる親ガメの気持ちに想いを馳せざるをえない。
◆アカウミガメを食べる日本人はおそらくほとんどないだろう。しかし、日常の食で消費される魚介類の種類は数多い。その大半を輸入に頼る日本では地産地消と食の安全・安心の重要性が指摘されているが、その声は未来をになう子どもたちに十分届いているのだろうか。食育がさけばれ出した少し前の状況から3.11のあと、日本の海の幸を考える機運は高まっている。福井県小浜市食のまちづくり課の中田典子氏は行政の立場から、子どもを対象とするだけでなく生涯食育という観点からユニークな活動を展開されている。サバ、グジ(アマダイ)、ヘシコ(サバの糠(ぬか)漬け)など、若狭の海の幸はおじさんの食育にもかかせない食材ですね。(秋道)

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