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オーシャンニュースレター

第301号(2013.02.20発行)

第301号(2013.02.20 発行)

情勢の変化に対応した新たな船員養成課程

[KEYWORDS] 日本人船員の減少/海技の伝承/船員の確保・育成
独立行政法人海技教育機構海技大学校校長◆加藤 学

外航海運においては混乗の進展、内航海運においては高齢化の進展と後継者不足が進み、日本人船員が著しく減少している。
また、海運業界が船員教育に求めるニーズの変化等、船員教育を取り巻く情勢は大きく変化してきている中で、優秀な日本人船員を確保・育成し、将来の海技者の確保に繋げていくことが重要である。

船員を取り巻く状況の変化

四面を海に囲まれたわが国においては、貿易量の99%以上、国内貨物輸送量の39.5%を海運が担っており、海運は国民生活・経済を支える上で大きな役割を果たしている。そして、海運は、船舶の運航に従事する船員および陸上でこれを管理・支援する海技者により支えられており、船員(海技士)※の確保・育成はわが国にとって極めて重要な課題である。
船員についてみると、わが国の船員数(外国人船員を除き、予備員を含む)は、ピーク時の昭和49年には約27.8万人となって以降、減少傾向にあり、平成23年の船員数は約6.7万人となっている。特に減少傾向が著しいのは外航日本人船員であり、わが国商船隊に乗り組む船員の97%が外国人船員ということもあり、ピーク時の約5.7万人から平成23年には約2,400人となっている。一方、内航船員については、高齢化の進展と後継者不足が進み、50歳以上の内航船員(旅客船を除く)が占める割合は、半数以上の56.6%となっている。
外航海運における船員の役割は、運航技術者であると同時に、外国人船員の管理や陸上における運航管理、安全管理、教育訓練等を担っていくことがこれまでにも増して重要となってきている。また、内航海運においては、著しい高齢化に加え、今後は外航海運や漁船分野からの経験豊富な船員の参入が見込めないことから、後継者難と即戦力となる船員不足が深刻化するとともに、運輸安全マネージメント制度の導入により、安全運航、環境保全などのためのより高度な船舶管理能力が求められるようになっている。
船員は、豊富な海上の実務経験を経て、高度な海技知識や技能を備えた技術者である「海技士」となり、その技術、経験を活かして陸上における船員、船舶及び運航の管理等をはじめとして、水先、造船、保険、港湾など広く海事関係の重要な役割を担い、わが国の海事社会を支えているが、船員が著しく減少していることから、このままでは「海技士」の確保についても困難となることが懸念される。このような状況から、船員教育分野においては、平成20年7月に交通政策審議会海事分科会から答申された『日本船舶及び船員の確保に関する基本方針』および平成24年3月に取りまとめられた『船員(海技士)の確保・育成に関する検討会報告』等により、船員確保・育成のための様々な取り組みが進められてきた。

新人船員に求められる資質・技能等

船員を取り巻く状況の変化に対応して、外航海運事業者は新人船員に対して、船舶の操船および機関に関する基礎的な知識・技能並びに船内業務および船内生活への適応力・耐えうる精神力、基本的なコミュニケーション能力、基礎的な英語力、探求心等を求めている。一方、内航海運業者は新人船員に対して、内航船を単独で安全に運航する知識・能力、責任感、判断力、積極性、協調性等を求めているが、事業者の立場により、船員教育訓練に求める点が異なっている。すなわち、自社内でOJT等の訓練を行うことができる大手内航海運事業者は、基礎に重点を置いた教育を求めているのに対して、業界の多くを占める中小内航海運事業者は、運航コストの制約、小型船舶での少人数による運航という事情から、即戦力として単独で安全に運航する知識・能力を求めている。

国の施策、海運業界のニーズに対応した新たな教育課程

■船舶職員への道

船舶職員になるためには、主として外航船舶職員(三級海技士)を輩出している商船系の大学および商船系高等専門学校、内航船舶職員(四級海技士)を養成している(独)海技教育機構の学校等を卒業し、国家資格である海技免状を取得する必要がある。
海技教育機構は、全国に中卒者を対象として高等普通教育と航海・機関の専門教育を行い、船舶職員を養成する海上技術学校4校(定員合計120名)、高卒者を対象として航海・機関の専門教育を行い、船舶職員を養成する海上技術短期大学校3校(定員合計130名)、海上経験のある船員およびこれから船員になろうとする者に対し、船舶の運航に関する高度な学術および技能を教授する海技大学校(海上技術コース定員40名)を有し、新人船員の養成と船員の再教育を行うわが国で最大の内航船員養成機関である。
独立行政法人化後、国の施策や海運業界のニーズである「後継者不足」「海技の伝承」「新人船員に求める能力等」に対応した海技大学校でのいくつかの取り組みを紹介する。
船員法の改正(2012年1月1日施行)により航海当直を担当する乗組員のうち少なくとも一人は、六級海技士の資格またはこれより上級の海技免状を有する者でなければならなくなったことから、平成19年度に「海技士コース(六級航海専修)」を海技大学校に開設した。「六級航海専修」は、船員教育機関以外の高等学校を卒業した者、もしくはこれと同等と認められる者を対象に内航船舶職員となるための教育を実施する課程で内航船員の新たな供給源となっている。
外航日本人船員の減少に伴い、水先人の後継者不足に対応するため、平成18年度に水先法が改正され、水先人資格要件が緩和されるとともに、平成19年度からは一級から三級までの級別免許制度が導入され、その業務範囲等が定められた。これらの改正を受け、登録水先人養成施設に登録し、水先教育をスタートさせた。
一部の外航海運事業者は、外航日本人船員の供給源である商船系大学・高等専門学校のみならず、一般大学卒業者も採用対象に入れて優秀な人材を幅広く模索したことから、船員教育機関以外の大学・短大等を卒業して海運会社に雇用されている者を対象に、船舶職員となるために必要な教育訓練を施す海上技術コース(航海専攻・機関専攻)を開設した。
内航海運の中長期的な船員不足が危惧されているなか、内航の新人船員供給源は、海技教育機構以外に、水産系高等学校、主として外航船舶職員を輩出している大学(商船系、水産系、私立)や商船系高等専門学校からも供給されてきている。
とはいえ、内航海運界における高齢化の進展と後継者不足を踏まえ、わが国で最大の内航船員養成機関として、これからも優秀かつ即戦力となる船員を育成し、安定的・安全な海上輸送の確保に貢献していきたいと考えている。

※ 船の免許はモーターボートなどの小型船(20トン未満)の「小型船舶操縦免許」と、20トン以上の船舶用に必要な「海技免状」に大きく分かれ、国家資格として「海技免状」を取得した者が、船員(海技士)となる。 海技免状は、船員の職種により更に「航海」と「機関」に分かれ、船の大きさや航行海域などによって、一級から六級までの種類がある。詳細は、「船の学校」のホームページ(http://www.船の学校.jp/index.html)を参照下さい。

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