Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第291号(2012.09.20発行)

第291号(2012.09.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆昨年の東日本大震災で最も大きな被害を受けた三陸地方では、リアス式海岸が顕著に発達している。リアス式のリアはもともとスペイン語である。スペイン北西部のポルトガル国境に近いガリシア地方には多くの入江がある。ヴィゴ入江(Ria de Vigo)、ノイア入江(Ria de Noia)がその典型である。狭い入江に押し寄せた津波は、その高さを増して一気に谷をかけ上がった。
◆海は人間に災禍をもたらすとともに、数々の恩恵をあたえてきた。本誌で愛媛大学の山内晧平さんは愛媛県南西部の南予地域で水産業を核とした地域イノベーションによる地域将来構想とその意義についてふれられている。宇和海で全国一の規模の海面養殖業がおこなわれているのには、リアス式海岸の存在が大きな要因となっている。かつてこの地域では、フグ養殖に使用されたホルマリンの影響が養殖真珠貝の大量へい死につながったとして問題視されたことがあった。愛媛県で全国初の禁止条例が制定され、水産庁から通達がでるなど、現在ではホルマリン使用は影をひそめ、宇和海の愛南町ではフグの陸上養殖が成功していると聞く。
◆東京大学三崎臨海実験所のある三浦半島一帯にもリアス式海岸がみられ、多様な海の景観がひろがっている。この実験所に勤める東京大学の日野綾子さんは、同大学が進める分野横断型の海洋研究と人材育成を目指す拠点の紹介をされている。2007年に着手された「海洋アライアンス」では、海洋教育を大きな目玉として活動が続けられている。このなかで、地元の三浦市教育委員会との連携が功を奏しており、新たな地域連携のモデルともなりうる。開かれた海洋研究の進展を今後ともに望みたい。
◆相模湾に面する三崎の実験所沖の大陸棚から湾中央部まで、いく筋もの海底谷が相模トラフ(=海底盆地)へとつながっている。人類は深海への好奇心とその魅力から潜水船を開発してきた。日本では戦後だけでも、北海道大学の「くろしおII号」、「よみうり号」などの潜水船が活躍した。昭和57年には「しんかい2000」がはじめて相模湾での調査を実施した。平成元年には「しんかい6500」が着水し、水深6,527mに到達した。
◆新日本海事(株)に属し、潜水艇「はくよう」の艇長である菊永睦郎さんは、昭和46年に完成した「はくよう」の潜航回数が7,900回以上に及ぶことを誇りとしてその軌跡を振り返っておられる。ちなみに、ほかの潜水船の潜航回数は数百回から1千回程度である。菊永さんは「はくよう」の潜航深度が300mと浅く、数千メートルの深海を目指すものではないとしたうえで、小回りのきく機動性と安全管理を通じて多様な内容の調査が可能であったことに言及されている。この点は注目すべきであり、より深い深海を目指す調査研究や今や主流となった無人による海底探査とは異なる、浅い海での目視による海底調査の利点を今後ともに大いに活用すべきではないだろうか。また、三陸地方の水産業や海底ガレキの撤去をふくんで、今後の災害復興を実現するうえで、「はくよう」のような潜水艇が威力を発揮すると確信してやまない。(秋道)

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