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オーシャンニュースレター

第197号(2008.10.20発行)

第197号(2008.10.20 発行)

海事都市尾道--海のまちづくり

[KEYWORDS]海事都市/尾道市/人材育成
尾道市長◆平谷祐宏(ゆうこう)

尾道市は、国土交通省の推進する「海事地域人材確保連携事業」の枠組みの中で、中国運輸局を始め海に関わりの深い関係者の方々とともに、「海事都市尾道推進協議会」を設立し、地域に集積された海事産業、海にまつわる歴史遺産や文化、特色ある海事関係機関などの地域特性を活かした「海のまちづくり」を総合的に推進することにより、「海事都市尾道」の構築を目指す。

1.海事都市尾道

自然の良港を持つ尾道は、平安時代の嘉応元年(1169年)、備後大田庄(後、高野山領)公認の船津倉敷地、荘園米の積出港となって以来、対明貿易や北前船、内海航行船の寄港地として、中世、近世を通じて繁栄をとげてきました。明治31年(1898年)には広島市に次ぎ県内で2番目に市制を施行、平成20年(2008年)には市制施行110周年を迎えた歴史あるまちであります。平成17年(2005年)には御調町(みつぎちょう)・向島町(むかいしまちょう)と、平成18年(2006年)には因島市・瀬戸田町と合併し、人口約15万人の新生尾道市として市政の展開をしております。
現在、尾道市の島嶼部で生活する人は約6万人で、県内でも島嶼部の人口が最も多い市であります。本市の島嶼部を中心に大小約20の造船所とともに多数の舶用工業関係企業が操業しております。平成18年(2006年)の製造品出荷額は、4,884億円で、うち造船業・舶用工業は962億円、実に本市の約20%を占めている全国でも有数の海事産業のまちであります。
また、瀬戸内海の海運の拠点として海上交流の文化、古くから続く船大工・造船の歴史、全国的にも珍しい水軍の歴史遺産(水軍城跡等)などを持つ海洋文化都市ともいわれております。尾道は、「寺のまち」「坂のまち」「映画のまち」など様々な呼び方をされていますが、海事産業が都市力を支えてきたまちであり、海洋文化が都市形態をつくってきたまちであります。すなわち、「尾道が尾道として持続できる都市力づくり」のため、海事産業をまちづくりの施策の中に位置づけることが求められています。

2.持続のための課題と対策

現在、海事産業の抱えている最大の課題は人材確保であると強く言われています。合併をした旧因島市では、造船・舶用工業の次世代人材育成への強い危機感から地域の造船業界が共同で、「因島技術センター」を全国で最初に設立し、人材養成に取り組んできました。
この因島技術センターをモデルとして、今では各地に造船技能開発センター※1が設立されています。尾道市は人材育成のための施策としてこういったものを受け継いで、今年度よりさらなる取り組みを開始したいと考えております。また、次世代の人材確保のためには、青少年への海の魅力のPRを全市的に、より積極的に取り組む必要があると考えています。
今年度事業としては、造船所・進水式の見学等の実施、マリンスポーツの体験会、体験航海、海に関する講演会の開催、海辺の教室などを予定しています。この事業により、子供たちが海のすばらしさを体験し、海に関する仕事に興味を持ってほしいと思っております。
現在、教育現場においては、子供たちに職業意識をしっかり持たせるためのキャリア教育が重要視されている中で、尾道市においても、中学2年生全員(1,239名)に5日間の職場体験を実施しています。その体験職場の中に造船業・舶用工業・海運業の部門を積極的に加えたいと考えております。また、本市にはダイビング学科・海洋技術学科・海洋デュアルシステム学科を有し全国でも唯一と言える海の総合的な専修学校である財団法人尾道海技学院があり、近くには国立広島商船高等専門学校、国立弓削高等商船専門学校などが存在しています。これらの教育財産と連携しながら、本市のオリジナルの展開を長期・中期・短期的な計画の中で具体的に実施していきたいと考えています。初年度の取り組みであり、課題はたくさんあろうかと思いますがひとつひとつクリアしながら、できることから始めていきたいと考えています。
また同時に、国土交通省の推進する「海事地域人材確保連携事業」を海のまちづくりの中に位置づけて、国・県・海事関係者等と緊密に連携し、海事都市尾道の構築に向けた取り組みをしてまいります。

尾道水道の遠景。
尾道水道の遠景。
進水式を見学する子供たち。
進水式を見学する子供たち。


3.姉妹都市今治市との連携

尾道市は、今治市と古くからスポーツや観光振興の面を中心に姉妹都市として交流を深めてきました。今治市は、日本最大の海事都市ということで市政を展開されています。瀬戸内海を挟んだ尾道・今治地域の造船、外航船保有隻数等を全国における割合でみてみると、非常に高い率を占めております。またその一方で、尾道市と今治市の間には、世界一の斜長橋である多々良大橋が架かっております。世界二位のノルマンディー橋の架かるフランスのオンフルール市と尾道市とは友好都市であります。こうした繋がりや資源を活かして、海事産業以外にも観光産業として、もっとしまなみ海道※2を全国に発信していくことが、尾道市と今治市の双方が姉妹都市として発展する道であり、海事クラスターとして尾道にないものあるいは今治にないものをお互いが補完しあいながら、共に発信力を高めていくことが大切であると考えています。
日本一の海事産業地域であると同時にすばらしい観光資源であるしまなみ海道の魅力を全国に発信し、将来を担う子供たちが誇りを持てる地域にしていきたい。それが、先人たちの築いてきた尾道が将来にわたってさらに発展することにつながると考えています。(了)

※4 造船技能開発センター
平成11年に因島の地元産業界を中心に「因島技術センター」が開設された。その後平成16年度から、(社)日本中小型造船工業会が中心となり、国や日本財団の支援により、東日本地域で横浜に、東日本造船技能研修センター、四国地域で今治地域造船技術センター、九州地域で大分地域造船技術センター、長崎地域造船造機研修センター、中国地域で相生技能研修センターが開設され、運営されている。

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