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オーシャンニュースレター

第155号(2007.01.20発行)

第155号(2007.1.20 発行)

海洋性レクリエーションを通じた、青少年のこころとからだの育成をめざして

財)ブルーシー・アンド・グリーンランド財団 ネットワーク推進部次長◆遠藤卓男

四周を海に囲まれた日本の将来を担う子どもたちに、家庭・学校・行政を含め
「海や河川などは危険だから近づかないように」という考え方で、自然体験の場や機会を遠ざけている。
確かに危険な場所も多いが、海の環境や自然について考えるとき、子どもたちに必要なことは、
自分で身を守りながら海に親しみ、海の楽しさや厳しさ、美しさを知ることであり、
安全な場所やトラブルの対処法、冒険心やたくましさを教えることが大切である。

海洋性レクリエーション推進の歩み

1973年3月、笹川良一により財団法人ブルーシー・アンド・グリーンランド財団(略称:B&G財団)が創設され、日本の青い海と緑の国土を活用し、自然体験や海洋性スポーツなどを通して健全な青少年の育成を行うことを目的に、事業を実施してきた。

第1ステップとしては競艇からの収益金により、艇庫・プール・体育館などの施設を有する「B&G地域海洋センター」を全国480市町村に建設し、現在、年間1,100万人の利用を数えている。また、ヨット、カヌー、ローボートなどを全国に約17,000隻を配備、その指導者を約16,000人養成してきた。平成15年度からは、第2ステップに突入。市町村とともに海洋センターを拠点に「幼児から高齢者を対象とした各々の健康プログラムの提供と普及」などを実施している。

大型広域海洋センター「マリンピアザ オキナワ」

美しい海が目の前に広がるマリンピアザ オキナワ
http://www.m-piazza.com

これら事業の中から、とくにユニークな活動を展開している「マリンピアザ オキナワ」(沖縄県本部町)を紹介する。

「マリンピアザ オキナワ」は、1976年7月に海洋性スポーツの拠点となる実践活動の場として開設。その後、1998年7月に大型広域海洋センターとしてリニューアルオープン、2002年4月に地元本部町に無償譲渡、2003年から2年間でウェルネスセンター、ドルフィンラグーンなどを増設し、現在に至っている。

毎年実施している小中学生を対象とした「B&G海洋体験セミナー」や「B&G親子ふれあい体験セミナー」は、子どもたちに集団生活や海洋性スポーツを通じて"マナーやルール"を学ばせるとともに、親子のコミュニケーションを図ることを目的としている。これらには、「B&G海洋体験セミナー」に年間4回実施で400人、親子を対象とした「B&G親子ふれあい体験セミナー」に20組40人が参加、地域海洋センターに勤務する「B&G海洋性レクリエーション指導員の養成研修」(1カ月間)に約50人が参加している。マリンピアザ独自の活動としては、県内外を含め、年間約130校の小中高校生13,000人にマリンスポーツ体験を実施、修学旅行や体験活動の拠点となっている。

また、敷地から続く海には"ドルフィンラグーン"を設置し、「海」でイルカ7頭を飼育している。そのイルカたちのことを学ぶマリンピアザ・オリジナルプログラムとして「イルカプログラム」が独自に設けられている。内容はイルカたちの生態や食事、健康について学ぶ「ドルフィンケア体験」、イルカたちとのふれあいを通して、イルカについて学ぶ「ドルフィンスクール」などがある。

さらに、自閉症やうつ病など精神的な病やリハビリテーションなどを対象としたアニマルセラピーの一つである"ドルフィンセラピー(Dolphin Assisted Therapy=DAT)"を実施している。正しくは「イルカ介在療法」と呼ばれており、身体的あるいは精神的に病をもつ人たちの緊張や不安を緩和することが目的であるこの療法は、疾患の治療をするものではなく、症状の改善やQOL(Quality of Life)の向上を目指すものである。

マリンピアザ オキナワでは毎年小中学生を対象とした「海洋体験セミナー」などが行われている。

特徴としては、他の動物介在療法とは大きく違い、水に入ることにより、一般的には地上に比べリラックス効果があり、楽しみながらリハビリテーションができ、そして何より愛嬌があり、知能の高いイルカたちと一緒に遊んだり、泳いだりすることによる「精神心理的効果」が作用する。このようなイルカプログラムや海洋性レクリエーション、沖縄文化体験を含めると、マリンピアザ(もとぶ元気村)には個人客を含め年間約96,000人が訪れている。

平成10年度の旧文部省の「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」で、幼少期に自然体験が豊富な子どもほど、道徳観・正義感が充実しているという結果が出ており、児童生徒に対する体験学習の重要性が指摘されていることからも、海洋性レクリエーションを通じたB&G財団の活動は、これからますます重要になってくると考えている。

安全な水辺の提供と水に賢い子どもを育むシステムの構築

海洋性レクリエーションを推進するにあたり一番の問題点は、家庭や学校、行政機関が「水辺は危険だから近寄るな」を看板にしていることが挙げられる。四周を海に囲まれ、山間地が国土の70%を占め河川や湖沼の多いこの日本で、誠に残念なことである。日本と同じ島国のニュージーランドでは、家庭と地域・学校が一体となり、子どもたちに安全に楽しく海に親しませるプログラムを実践しており、一般的に「WaterWise(ウォーターワイズ)」と呼ばれている。自分で安全を確保し、水への自信をつけて、泳いだりヨットやカヌーを海や河川で楽しんでいる。子どもたちにとって、海や河川はかけがえのない遊び場であると同時に、自然から四季の変化など様々なことを学び、冒険心や自立心を養う場でもある。それを指導するのは、学校の年間を通してプログラムされたスポーツカリキュラムであり、地域のスポーツクラブと保護者が手伝い、行政がサポートする形態となっている。とくに学校では授業の中でプールを使い、ライフジャケットを着用しての救難訓練、ゴムボートが転覆した場合の措置方法などを練習し、実際の水遊びの際にトラブルが起きても慌てず対処できるように指導している。

今後、日本で今のように"危ないから近づくな"では、海や河川は子どもたちにとってますます"危険な近くて遠い場所"になっていくと思われる。日本の四周を囲む海を生かすという面からも行政が安全な水辺を構築し、学校や地域スポーツクラブが指導員を確保のうえ、保護者がサポートしていく「日本版WaterWise=水に賢い子どもの育成」ができる環境・システムを国や自治体が率先して作ることが今求められている。そして、海洋性レクリエーション活動の"場"を拡大し、子どもたちに海や河川をとおし、自然のすばらしさや冒険心、たくましさを育む機会を与え、生命の尊さを教えていくことが、これからの日本の将来を担う子どもたちには、重要なことではないだろうか。(了)

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