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オーシャンニューズレター

第137号(2006.04.20発行)

第137号(2006.04.20 発行)

海事クラスター再生による海事都市神戸の再生

海洋政策研究財団研究員◆韓鍾吉 Han, Jong-Kil

神戸は、港を中心に海運、造船、港湾などの集積ができ上がり、ダイナミックな海事産業クラスターを形成し、東アジアの海事産業の中心地としての地域優位性を確保してきたが、現在では海事産業が神戸の地域経済に及ぼす影響は低下しており、クラスター効果が弱くなっている。
関西の海事クラスターに関する現状分析と地域の海事専門家を対象にした意識調査をもとに、海事クラスターの再生に必要な対策を考えてみたい。

海事クラスターとは何か

海事クラスターは、海運・造船・港湾などの海事産業が集合し、企業や大学および研究機関、公共機関の集積により有機的な情報交換、資源の共有などが行われ、革新が起こりやすい環境が創造される地域である。海事クラスター論は1990年代後半から、既存の海運政策の代案として諸外国で積極的に採用されているが、日本での関心と政策的な努力は、ほとんどないのが現状である。本稿は、関西の海事クラスターに関する現状分析と地域の海事専門家を対象にした意識調査をもとに、海事クラスターの再生に必要な対策を明らかにするのが目的である。調査は、海洋政策研究財団が神戸大学海事科学部石田憲治教授の協力を得て、2005年7月から一カ月間、産官学の海事専門家(海事経歴20年から54年)、44人から回答を得た結果である。

神戸地域の海事クラスターを取り巻く環境

神戸は、港を中心に海運、造船、港湾などの集積ができ上がり、ダイナミックな海事産業クラスターを形成し、東アジアの海事産業の中心地としての地域優位性を確保できた。しかし、海事産業が神戸の地域経済に及ぼす影響は低下している。2001年現在、神戸市の海事産業の名目GDPは全産業の10.7%といまだに大きな影響を有しているが、1980年の12.3%に比べ、低下している。海運港湾関連部門は1960年代、約5.9万人の雇用者数が、2001年現在は1.7万人となっている。港湾の場合、1980年にはコンテナ取扱量で、世界4位として東アジア最大の港(147万TEU)であったが、2003年度には、世界31位(205万TEU)と、停滞している。したがって、背後市場の大幅な縮小、東アジアのハブ港湾の地位から転落した港湾の位相変化、域内企業の神戸港に対する帰属意識の低下、海事産業イメージの低下などの理由で、神戸の海事クラスター効果が弱くなっている。

関西海事クラスターの現況と発展方向に関する専門家意識調査の結果

?クラスター効果:関西は国際取引よりは、国内取引が中心となり、個別業界の枠を超えた交流が行われないので先端情報や異業種情報の収集が困難で、海事都市としての国際的なイメージも生かされず、有能な若者を海事産業に誘引することもできないなどクラスター効果が低い。

?クラスター構造:クラスター効果が低いのは、海運・造船・港湾のようなリーディング産業に活力がなく、さまざまな参入障壁が存在し、新規事業の立ち上げも困難なクラスター構造であるからである。

神戸港全景

?関西海事クラスターの競争力:海事企業部門の場合、関西は国内の東京に比べて造船と舶用企業部門は競争力があり、韓国の釜山に比べると、海運と港運部門は劣るが、他の部門は同レベルであるとみた。上海に比べても、すべての部門で同レベルにあると答えた。海事クラスターインフラの場合、東京に比べてはすべての部門において劣るが、釜山には都市インフラ、教育、知識の蓄積などがやや優位にあると答え、上海には、教育と知識の蓄積が優位にあるとみた。つまり、競争地域と差別された海事クラスターの構築には、神戸が優位にある都市インフラ、教育と知識を適切に調和させる必要があるといえる。

?関西海事クラスターの競争力低下の要因:クラスター効果が希薄で、競争地域に比べて競争力が劣る原因として、地元企業の本社機能の東京移転が最も多く、関西の海事社会を先導する企業の不在、地域の海事産業に対する認識低下も挙げられた。そして、海運・造船・港湾などの産業間協力の不在、業界の枠を超えた情報交流の場の不在、釜山・上海などの競争地域の台頭、自治体など行政当局の不適切な対応、世界レベルの海事研究機関の不在なども15人以上の専門家がクラスター効果弱化の要因として挙げた。

?関西海事クラスターの構築方向と再構築に必要な対策:関西海事クラスターの組織体制は、地理的近接性、規模の経済性、多様性の確保、人材プールの確保などを理由に、神戸と大阪を包括する関西海事クラスターを組織すべきであるとこたえた。そして、国内外の競争地域と差別化を図る特化の方向としては、海事関連知識を軸にした知識集約型クラスター(20人)、神戸と大阪港などの港湾インフラを中心にした港湾クラスター(20人)を選択した。

そして、関西海事クラスターの再構築に必要な対策としてあげられたのは、(a)海事クラスター委員会の設置、(b)異業種間の人材および情報交流の場の設置、(c)国内外への情報発信、(d)第二船籍など海事特区の指定、となった。つまり、地域レベルで海事クラスターの再構築に本格的に取り組むために、産官学共同の民間組織である関西海事クラスター委員会を設置し、さまざまな対策を講ずる必要があるといえる。

知識集約海事クラスターの構築と課題:
Asia Maritime Business and Knowledge Hub

海事都市神戸の再生なしに神戸の発展を論ずることはできない。それには、港湾設備のみに依存しないで他地域に比べ優位にある都市インフラと海事専門知識の蓄積を生かした「知識集約型海事クラスター」を構築すべきである。スーパー中枢港湾※などハードウェアの確保も重要であるが、海事ビジネス特区の設置、世界海事大学のアジア太平洋キャンパス誘致などで、神戸をアジアでもっとも海事ビジネスがしやすい都市、海事関連情報を得やすい都市に変貌させることも考えるべきである。海運港湾政策に都市地域政策の視点を加味し、アジア海事ビジネスと海事知識のハブ(HUB)を目標に中長期的な戦略の樹立を検討すべきではないか。そのためには、「関西海事クラスター」の構築について関連する産官学の関係者間で意思統一を行うのが先決課題であろう。

今、海事都市神戸の再生に足りないのは設備ではなく戦略である。神戸をはじめとする日本各地域からそれぞれ特色ある海事都市の再生に向け、早急な対応を期待したい。(了)

※ スーパー中枢港湾=指定特定重要港湾。わが国のコンテナ港湾の国際競走力を重点的に強化するため、国土交通省が打ち出した重点施策で、アジア主要港湾を凌ぐコスト・サービスの実現を図るため国際港湾の中から指定・育成する。平成15年度スタートの次期港湾整備長期計画の最大の柱である。

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