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中東地域 新着情報 中東・イスラムグループ

「難民女性起業家」という言葉が問いかけるもの

笹川平和財団 中東・イスラムユニット 青尾謙/ラティゴーン・ノーラセーターポーン/近内みゆき


公開日:2026.10.16

ガザからの女性「起業家」?

ガザからの女性2人による木枠と刺繍

皆さんは「起業家」と聞くとどのようなイメージを持っていますか。例えば、新しいサービスやテクノロジーを駆使しながら豊富な資金で自分の会社を立ち上げた人、などといったイメージではないでしょうか。私たちは今年、トルコやヨルダン、エジプトといった中東の各国において調査活動を行う中で、難民の境遇にある複数の「女性起業家」に出会いました。どんな技術を使って、どんな会社を経営しているのだろう、レストランを開業したのかな――。そんな興味を抱きつつ、いざインタビューをしてみると、そういう人もいないことはないのですが、多くの場合「事業内容」は手工芸や木工、料理、服飾、写真撮影で、思わず(えっ、それ「起業」と言うの?)と思ってしまいました。むしろ、「趣味」や「内職」に分類されそうなもので、稼ぎは月に3万円~5万円程度。当初のイノベーティブでリッチな「起業家」のイメージは大きく崩れました。

「起業家」を生む背景

世界では、4,000万人を超える難民がいると推計されています[1]。難民を受け入れている国々で、こうした「起業家」はどのような背景で生まれるのでしょうか。難民の多くは居住国による一時保護、場合によっては難民としての法的地位すら認められない「黙認」でしかないという不安定な立場にいます。したがって企業の設立や登記、銀行からの借り入れや政府からの支援等について、多くの制約を受けています。
 
また、彼女たちの多くは、ムスリムの女性として家族の世話の責任を負っており、子どもや高齢者、病人や障害を持った家族のそばから離れるわけにはいかない事情がある人も多くいます。さらに、ムスリム社会では、「外で稼ぐのは男、家を守るのは女」という価値観が根強く残っています。難民となり、仕事もなく、稼ぎ手である男性を失ってしまったような場合は、女性が一家の稼ぎ主とならざるを得ません。こうした社会を生きる女性にとって、「起業」は「必要に迫られて」始める、という面が強く、家でもできる小さな商売(Home Based Business)は、合理的な選択肢となるのです。
 
[1] UNHCR (2026) Global Trends Reportによれば、2025年末で世界には4,160万人の難民がおり、更に6,870万人の国内避難民がいると推計されている。

家族を支える誇り

ガザからの女性たちの工夫と誇りがこもった商品

 一家の「大黒柱」として自分が作ったものや、そこに込められた工夫について話す女性たちは、表情に暗さはなく、むしろ楽しげです。「起業」により自分の作った商品がお客さんに喜ばれ、家族を支えているという自らの役割への誇りとともに、新たに自分の才能を開花させているのでしょう。

カイロで出会った難民の女性の中には、母国で高い教育を受け、安定した仕事に就きながらも、戦争により祖国を離れ、やむなく料理や手工芸を通じて生活の糧を得ている人や、家具工房が全て失われながらも、その腕を活かして額縁等の木工細工で暮らしているという女性もいました。その人たちの安定した暮らしを奪ってしまう戦争や災害の理不尽さを感じざるを得ません。

ガザからカイロに来たAさん(40代・写真右)は、今の生活を以下のように話してくれました。
 ガザでは大学の英語学科とMBA(経営大学院)を修了し、弁護士事務所でマネージャーとして働いていました。娘がエジプトに嫁ぎましたが、子供を産むときに亡くなってしまったため、わたしが孫の面倒をみるため、夫をガザに残しカイロに来ました。
 
 ガザ戦争で父と姉妹は殉教しました(筆者注:亡くしたということ)。悲しみをまぎらわすために何かしたいと思い、フェイスブックのページを開設し、(日常的に食される平焼きパン)「マナーイーシュ」や「タブーン」を販売しはじめました。もともと料理は得意だったのですが、特に全粒粉パンは口コミで広まり、近所の人が次々に買いに来てくれるようになりました。アプリを使って注文を受け付けると、エジプト人の男性がデリバリーをしてくれます。販売は軌道に乗り、将来は設備投資をして人も雇い、自分の腕を生かしたレストランを開業したいと思っていますが、今は小さい孫との時間を大切にしたいと思っています。

Aさん自慢のマナーイーシュ(右)が入ったお弁当

整然とした話し方で流ちょうな英語を操るAさん。Aさんがわたしたちに作ってくれたお弁当(写真)は、新鮮な野菜をふんだんに使い、控えめな味付けながら香り高く、味わいのあるものでした。

彼女らの話を聞いていると、あたり前のことですが、「難民」という人がいるわけではなく、普通の人が何らかの理由で難民に「なってしまう」、または「されてしまう」のだということを、嫌でも理解させられます。彼女らが備える優れた才能を家族や地域、ひいては母国のために活かす道を見つけられればと思うとともに、そうした悲劇を生む戦争そのものをなくす方法を考えなくてはと感じます。SPFの職員として、そのためにできることを考えていきたいと思います。

カイロ市の光景


中東地域 中東・イスラム事業
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