国際ワークショップ@テヘラン
「女性の起業家支援:日本とイランにおける現状および課題」
2018年5月14日
2018年5月14日(月)、公益財団法人・笹川平和財団(東京都港区、会長・田中伸男)は、イラン・テヘランのイラン国立図書館にて、イラン女性・家庭環境担当副大統領府、イラン外務省、イラン国立図書館との共催による国際ワークショップ「女性の起業家支援:日本とイランにおける現状および課題」を開催しました。ご登壇いただきました日本人の女性専門家の講演概要をご紹介します。

日本における女性起業家の現状

鹿住倫世 専修大学商学部教授

日本の女性起業家は全体の20%程度

 本日は、イランの皆さまに日本の女性起業家の実態と、女性の起業に対する政策的支援及び民間団体により支援についてご紹介したいと思います。日本では、新たに会社や事業を立ち上げた起業家の中で、女性がどれほど占めるのかを把握した統計はございませんが、関連するいくつかのデータを見ますと、たとえば、中小企業の社長の中で女性が占める割合は7.69%に過ぎません。またさらに規模の小さい個人事業等の新規開業者の中でも女性が占める割合は18.4%です。別の調査では、自営業者や小規模企業の創業者のうち、女性は25.2%を占めるという結果もあります。これらを総合すると、起業家の中で女性が占める割合は、20%ぐらいではないでしょうか。
 実は、日本は先進国の中でも、特に起業活動が活発ではない国です。世界61カ国の起業活動に関するデータを収集・分析する「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター」が2016年に調査した結果によれば、日本のTEA(総合起業活動指数:起業準備中あるいは起業して3年半以内の人が18~64歳人口100人当たり何人いるか)は5.3%でした。これは調査対象国の中でも最下位グループに入り、その中でも女性は、男性の半分以下です。
 また、日本の女性が起業の理由として挙げているのがワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現や年齢に関係なく働けるからということです。特に女性に多いのが、ヘアサロンやエステ等の個人向けサービス業です。また、小売業も女性に多いです。事業規模も、男性の経営企業に比べて、資本金、従業員数ともに少なく、成長率も高くありませんが、安定性はあります。

社会規範で制約の多い起業活動

 次に日本で女性が起業する際の制約です。まず、法律や制度面では、何ら制約はありません。ただ、残念ながら、社会規範では制約があるといえます。「世界ジェンダー・ギャップ報告書2017」によれば、日本のジェンダー・ギャップ指数は、世界の144カ国中114位でした。特に高位の職業に女性がつくことができない背景には、女性にはリーダーシップがない、女性は仕事より家庭や育児を優先すべきだといった性別役割分業感が影響しています。
 家族や個人においても、夫の親と同居している場合、妻である女性が家で仕事をすることに否定的な人もいます。女性本人の能力面でも、たとえば、進学する大学の専攻が文学部や家政学部等に偏っています。最近は理工系に進学する女性も増えてきましたが、社会科学系の女子学生は約34%なのに対して、理工系は14~27%の程度です。ビジネススキルの面でも、育児等を理由に早期退職する女性は、社内で十分な教育訓練を受ける機会を得られず、管理職に昇進することも困難です。

根強い性別役割分業感

 社会規範上の制約について、もう少し詳しく説明しましょう。性別役割分業感とは、家族の中では男性が外で働き、女性が家事や育児に専念するのが良いという考え方です。約50年前の高度経済成長期にあった時代の名残です。実は社会保障制度や税制もこのような性別役割分業感を肯定するような制度になっています。たとえば、夫の収入がある程度高ければ、妻の年間収入を100万円程度以下に抑えることで社会保障面の優遇を受け、夫の所得税も軽減されます。このような制度は、女性が能力を発揮して、高収入の職業につく意欲を低下させる一因にもなっています。
 また、育児についても女性が担うものと考えられているため、保育サービスの不足は女性の活躍機会を奪っています。こうした状況では、女性が高いビジネススキルを獲得するチャンスを失い、育児が終わってから再就職や起業をしようと思っても困難に直面することが多くなります。また、日本人はリスクを回避する傾向があり、特に女性にはこの傾向が強いといえます。借金したら、返済できないのではないか、という心配が先に立ち、事業投資をためらいます。
 さらに、女性がリーダーシップを発揮したり、上に立ったりすることに男性が納得していないようです。会社で女性が男性の上司になると、男性はストレスを感じることもあるようです。男性の多い金融機関、業界団体では、女性が起業して社長になることに抵抗感があるといえます。女性が提案する事業内容も男性の視点とは全く異なるため、男性には理解してもらえないケースもあります。
 このように性別役割分業感は、女性が職業経験を積み、ビジネス知識やマネージメントスキルを獲得するのを妨げます。企業や団体では、管理職に占める女性の割合は、15.4%に過ぎません。また、最初の子どもを出産した女性のうち、44%が離職しています。
 ここで強調したいのは、起業家教育が不足している点です。監査法人トーマツが2014年に実施した調査によれば、起業家教育に関する専攻学科等を設置している大学や大学院は、全体の14.2%に過ぎません。科目や講座を開講している大学や大学院も48.8%と半数以下です。特に理工系学部等では、起業家教育はほとんど行われておりません。そのため、文部科学省は、グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)を理工系学生のために2014年から実施しております。日本は、他の先進国と比較して起業家教育が遅れていると言わざるを得ません。この点では、イランが進んでおり、日本が学ぶべき点だと思います。

アンケートから見える日本の女性起業家の姿

 次に、今回、日本とイランで行われた女性起業家に対するアンケート調査の結果について、ご説明します。この調査は、サセックス大学の河合憲史准教授と私が共同で作成したもので、日本側の調査は、昨年10月に実施し、309件の有効回答を得ています。まず、回答者の属性についてですが、40代と50代の回答者が多く、平均年齢は48.42歳でした。回答者の婚姻状況は、約半数が既婚者で、約30%が独身でした。最終学歴は、大卒が32%、高卒が24%、専門学校卒が22%です。現在48歳の方が18歳だった当時の女性の大学進学率は36.2%でした。この調査の回答者の大学や短大進学率は47.6%だったので、比較的高学歴の女性だといえます。また、家事や育児の負担を確認するため、同居している子どもの有無を尋ねたところ、約半数が子どもと同居していると回答していました。
 次に、回答者の事業形態を尋ねたところ、11%が会社で、残りの89%が個人事業でした。事業分野はサービス業が最も多く、55.66%を占めております。サービス業も美容関係だけでなく、料理教室、フラワーアレンジメント教室、カウンセリング、家事代行サービス、飲食店と非常に多様です。次にその他を除けば、小売業が11.65%と後に続き、IT関連は4.53%でした。
 回答者のうち、起業家教育を受けたことのある方は、わずか4.85%しかおらず、彼女たちが高校や大学に通っていた時代には、ほとんど起業家教育が行われていなかったということが考えられます。次に起業動機ですが、最も多かったのは、ワーク・ライフ・バランスの実現でした。これは、男性起業家と異なる女性起業家の特徴といえます。働く時間や場所を自由に決められ、仕事の合間に家事や私的な用事も済ますことができます。女性にとっての起業の魅力は、自由度の高い働き方を実現できる点だと思います。また、ビジネススキルを磨きたいという理由も、57%にのぼっており、起業はビジネススキルを得る機会にもなっています。
 先行研究等では、起業家は、「不確実性に対する耐性」や「強い達成意欲」、「自己効力感」を持っているとされていますが、今回の調査でも、そのように自己評価している方が多かったです。一方、起業家としてのやる気と意志はあるのですが、ビジネススキル不足を自覚しているためか、事業運営に対する自信は、相対的に低かったです。
 また、事業運営等に関して家族からのサポートやアドバイスを受けたことのある方は、約20%にとどまっています。日本では、会社等に雇用されている人の割合が増加しており、家族に企業や経営について知識がないことが背景にあるようです。同時に、起業に対する家族からの資金的支援や人脈の紹介といった支援もあまり受けていないことがわかります。
 女性の起業に対する社会的認知については、特徴的な結果が見られます。日本では、地域コミュニティで、ある程度の女性の起業が受け入れられていますが、日本の社会全体、あるいは金融機関や業界団体では、まだ受け入れられているとはいえません。そのため、女性が起業する際、必要な支援を受けられない可能性があります。国や地方自治体、公的機関からの支援を活用した経験も尋ねました。出資や融資、債務保証といった資金的支援の制度は数多く提供されていますが、本調査の回答者は数%しか活用していないことがわかりました。もちろん、女性の起業規模が小さいので、資金的支援をあまり必要としていないということも背景にあります。
 以上、日本の女性起業家に対するアンケート調査の結果からわかったことは、女性起業家は、同年代の女性よりは比較的高学歴で、回答者の約半数が既婚、同居する子どもを持っている方でした。業種としては、サービス業が最も多く、業種には偏りがあります。起業の動機は、「ワーク・ライフ・バランス」の実現が最も多く、忍耐力や強い達成意欲を持っていますが、事業運営に対する自信は低いようです。また、地域のコミュニティでは、女性の起業が受け入れられていますが、金融業界や業界団体ではそうではありません。家族のサポートもあまり受けておらず、資金面における公的支援策もほとんど活用されておりません。日本の女性起業家の現状は、以上のような状況です。
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