第3グループ(社会イノベーション推進担当)
【イベント報告】
日本における新しい資本主義と北欧ビジョン:男女平等と労働参画、そしてワークライフバランス
~ アイスランド共和国 グズニ・ヨハネソン大統領と少子化対策、男女共同参画担当 小倉將信内閣府特命担当大臣が登壇
2022.12.21
【基調講演を行う グズニ・ヨハネソン アイスランド 大統領】
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、2022年12月5日、北欧諸国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー)の駐日大使館と共催し、テーマ「日本における新しい資本主義と北欧のビジョン:男女平等と労働参画、そしてライフワークバランス」として、世界女性会議(WAW!)の公式サイド イベントを開催しました。アイスランドよりグズニ・ヨハネソン大統領、日本政府からは小倉將信内閣府特命担当大臣をお迎えし、「北欧の視点」と「日本の視点」として、両国のジェンダー平等への取り組みについて基調講演をしていただきました。続いて、両地域の女性の労働参画における課題と解決策について、北欧と日本の有識者の方々によるパネルディスカッションが行われました。 低い出生率、人口減少といった共通の課題を抱える両地域において、女性の労働参画は、国や企業の発展と繁栄に欠かせないこと、そのために平等や公正さに対するコミットメント、それを推進する政策や施策について、と様々な側面から議論が行われました。笹川平和財団の会場とオンラインをつなぎハイブリッドで行われたシンポジウムには、約350名の参加と視聴があり、テーマへ関心の高さが伺えました。
ー 歓迎のあいさつと開会の辞
【笹川平和財団 角南理事長の歓迎の挨拶】
【開会の辞を述べるヤースケライネン フィンランド大使】
歓迎の挨拶を行った笹川平和財団の角南篤理事長は、日本のジェンダー・ギャップの遅れを指摘しつつ、その解消のため、多様性を組織の活力として取り入れることの重要さを強調し、笹川平和財団が組織の内外において女性のエンパワメントに資する事業やダイバーシティ アンド インクルージョン(D&I)に取り組み、多様性を推進していることを紹介しました。
開会の辞を述べたタンヤ・ヤースケライネン駐日フィンランド大使は、北欧地域を世界で最も持続可能で統合された地域にする「北欧ビジョン2030」に触れ、北欧モデルの根底に、男女平等をはじめとし、社会に公正さを浸透させていくことが、国の発展と繁栄につながるという信念を強調しました。この信念こそが、貧しかった時代を経て現在の繁栄と幸福な社会を築いた礎であるとしています。
開会の辞を述べたタンヤ・ヤースケライネン駐日フィンランド大使は、北欧地域を世界で最も持続可能で統合された地域にする「北欧ビジョン2030」に触れ、北欧モデルの根底に、男女平等をはじめとし、社会に公正さを浸透させていくことが、国の発展と繁栄につながるという信念を強調しました。この信念こそが、貧しかった時代を経て現在の繁栄と幸福な社会を築いた礎であるとしています。
ー アイスランド ヨハネソン大統領による基調講演 「北欧の視点」
【アイスランドの男女平等の歩みについて話すヨハネソン大統領】
続いて行われた基調講演では、アイスランドのグズニ・ヨハネソン大統領が、北欧における現在までのジェンダー平等の歩みを語りました。アイスランドは、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数において、13年間首位を保ち続けているジェンダー平等最先進国です。そして、ヨハネソン大統領自身も5児の父として育児休暇を5回取得した経験を持ち、ジェンダー平等を推進するムーブメント「HeForShe」のアライアンスメンバーでもあり、積極的なジェンダー平等推進者として知られています。今では、ジェンダー平等の優等生のアイスランドですが、かつてそうでなかった時代が何世紀にもわたり続いていたこと、70年代に処遇改善を求めて立ち上がった女性たちによる総ストライキが改善への転換となったことが語られました。その後も、1980年に誕生した初の女性アイスランド大統領でさえ、女性差別的な発言や偏見に晒されるなど、アイスランドの女性たちはジェンダー平等への長い歩みを経て、平等の権利を獲得してきました。ヨハネソン大統領は、「女性の地位が向上することで、男性が不利な立場に置かれるというのは違う。女性参画による経済的な発展により、みんなが恩恵を受けるようになる」と強調しました。
ー 小倉將信内閣府特命担当大臣による基調講演 「日本の視点」
【新しい資本主義と女性の経済的自立について講演を行う小倉大臣】
一方、ジェンダー平等の後進性が指摘される日本も手をこまねいているわけではありません。岸田政権の掲げる新しい資本主義の政策において、女性の経済的自立はその中核とされています。小倉將信内閣府特命担当大臣の基調講演では、日本における女性の経済的自立のための重点項目として、男女の賃金格差の解消、女性の家事労働の負担の軽減、意思決定過程への女性の登用が挙げられ、その目標に対する様々な取り組みが紹介されました。
特に、男女の賃金格差は最重要課題とされ、今夏、301人以上の常時雇用従業員を抱える企業に対して、男女間の賃金差異に関する情報開示が義務化されています。女性の労働参画の障壁となっている、長時間労働や転勤といった日本特有の労働慣行の是正、男性の育児休業の促進に関して施策として進めていくこと、また、「ビジネスでの意思決定プロセス」に女性の関与が低いこと(上場企業における女性役員の割合が9%、女性起業家の開業率5%)を指摘し、意思決定プロセスへの女性登用を積極的に後押しすると、小倉大臣は日本政府の方針を説明しました。
特に、男女の賃金格差は最重要課題とされ、今夏、301人以上の常時雇用従業員を抱える企業に対して、男女間の賃金差異に関する情報開示が義務化されています。女性の労働参画の障壁となっている、長時間労働や転勤といった日本特有の労働慣行の是正、男性の育児休業の促進に関して施策として進めていくこと、また、「ビジネスでの意思決定プロセス」に女性の関与が低いこと(上場企業における女性役員の割合が9%、女性起業家の開業率5%)を指摘し、意思決定プロセスへの女性登用を積極的に後押しすると、小倉大臣は日本政府の方針を説明しました。
ー パネル1:「日本と北欧の労働市場における女性の参画 - 土台づくり」
パネルディスカッションの前半では、「日本と北欧の労働市場における女性参画-土台づくり」と題し、女性の労働参画、男女平等を実現するためにどのような政策が必要なのかについて、現状と課題を紐解きながら、具体的な政策面の議論が進められました。
モデレーター: ロイター通信日本支局長 豊田祐基子氏
パネリスト : - ノルウェー社会調査研究所 労働福祉研究部長 ヒャシュティ・ミシエ・オストバッケン氏
- RIETI 客員研究員、シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授 山口一男 氏
- 女性政策研究家 三井マリ子氏
モデレーター: ロイター通信日本支局長 豊田祐基子氏
パネリスト : - ノルウェー社会調査研究所 労働福祉研究部長 ヒャシュティ・ミシエ・オストバッケン氏
- RIETI 客員研究員、シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授 山口一男 氏
- 女性政策研究家 三井マリ子氏
【女性の労働参画がノルウェーの経済成長を後押ししたと語るオフトバッケン氏】
ノルウェー社会調査研究所のオストバッケン氏の調査によると、ノルウェーの国の富の75%は労働、つまり人材によって支えられています。労働力の半数を占める女性の社会参画はノルウェーの経済成長、社会の繁栄に不可欠であったことが示されました。オストバッケン氏は、70年代から現在に至るまでのノルウェーの経済成長の10%が、女性の労働参画によるものと分析しています。同氏は「北欧の経済成長にとって労働力とその質は、大変重要であり、効率的に労働が提供できるようにならなければ、富を維持してくことはできない。」と、女性の労働力と女性の労働を支える体制の重要さを強調しました。
【日本のジェンダー平等の障壁を解説する山口教授】
【北欧と日本を繋いで行われたパネルディスカッション】
シカゴ大学の山口特別社会学教授は、日本のジェンダー・ギャップの背景に、職場、教育、家庭、社会の複層的な要因があることを指摘しました。新卒一斉採用、終身雇用制、長時間労働といった日本特有の労働慣行は、女性の出産と子育て後の再就職を困難にしていると言います。また、日本のジェンダー平等の後進性として特に指摘される男女の賃金格差の要因として、女性の管理職比率が低いことがあります。これは、長時間労働へコミットメントができない女性は昇進への道が閉ざされやすいこと、加えて家庭の家事分担が女性に偏っていることが、女性がキャリアを積んでいく際の足枷になっているからだ、と山口教授は解説します。
別の観点では、STEM分野(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)におけるジェンダーセグレゲーション(男女分離)の問題も取り上げられました。他の先進諸国に比べ、日本の女子学生のSTEM分野への進学率が低いままである背景に、日本の女子児童や生徒がSTEM分野への進路選択や高度な専門職としてキャリアを夢として描きにくい状況があることを指摘します。山口教授は「男女格差は、日本の社会システムの多くの側面に深く根差している。家庭、学校、雇用制度、昇進制度などにおいて、不平等の機会をひとつひとつ取り除き、社会システムを変えていかなくてはならない。」と述べました。
別の観点では、STEM分野(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)におけるジェンダーセグレゲーション(男女分離)の問題も取り上げられました。他の先進諸国に比べ、日本の女子学生のSTEM分野への進学率が低いままである背景に、日本の女子児童や生徒がSTEM分野への進路選択や高度な専門職としてキャリアを夢として描きにくい状況があることを指摘します。山口教授は「男女格差は、日本の社会システムの多くの側面に深く根差している。家庭、学校、雇用制度、昇進制度などにおいて、不平等の機会をひとつひとつ取り除き、社会システムを変えていかなくてはならない。」と述べました。
【日本の女性非正規雇用の問題を指摘する三井氏】
日本における女性の非正規雇用の状況についても、厳しい指摘がなされました。北欧と日本の女性の労働環境を調査してきた女性政策研究家 三井マリ子氏は、日本の女性非正規雇用者数 2,000万人以上は、全体の54%を占めること、賃金においても男性の正職員の賃金100に対して、女性の正規雇用者は72、女性の非正規雇用者は42と、日本の女性非正規雇用者の実態を数値で示し、喫緊の課題であることを訴えました。新しい資本主義のために職場の男女平等は不可欠であり、そのために雇用機会均等法をより法的拘束力のあるものにしていく必要性を強調しました。
ー パネル2:「機能するポリシーとは? 北欧と日本における男女平等とワークライフバランスの推進」
後半のパネルディスカッションでは、「機能するポリシーとは?北欧と日本における男女平等とワークライフバランスの推進」と題して、日本との北欧の共通課題、政策面、産業政策において、日本が北欧から学ぶことが出来ることは何かを探る議論が行われました。
モデレーター: ロイター通信日本支局長 豊田祐基子氏
パネリスト : - デンマーク国会議員および元デンマーク平等大臣 カレン・エレマン氏
- MPower Partners ゼネラル・パートナー、新しい資本主義実現会議 有識者、
OEDC(経済協力開発機構)東京センター元所長 村上由美子氏
- 早稲田大学 政治経済学術院教授 福島淑彦 氏
モデレーター: ロイター通信日本支局長 豊田祐基子氏
パネリスト : - デンマーク国会議員および元デンマーク平等大臣 カレン・エレマン氏
- MPower Partners ゼネラル・パートナー、新しい資本主義実現会議 有識者、
OEDC(経済協力開発機構)東京センター元所長 村上由美子氏
- 早稲田大学 政治経済学術院教授 福島淑彦 氏
【北欧のワークライフバランス課題について話すエレマン氏】
後半のパネルディスカッションの口火を切った次期北欧閣僚理事会事務局長 カレン・エレマン氏は、北欧と日本の両地域で出生率が低い、または減少していることに触れ、出生率の回復には国民の幸せに注目することが重要と説きました。保育システム自体が確率されている北欧では、親の関心事は保育園、保育士の質に移行しています。出生率の向上と持続可能な労働力を確保するためにも、ワークライフバランスの整備は最重要であり、その一歩として、質の高い保育システム、父親の育児休暇制度の法整備は鍵だと述べました。
【経済的インセンティブについて語る 福島教授】
長年スウェーデンと日本の労働経済学の研究を行ってきた福島淑彦 早稲田大学政治経済学術院教授は、労働力の需要と供給の両方に経済的なインセンティブを働かせることが、法整備よりも効果があるという見解を示しました。60年-70年代専業主婦が多かったスウェーデンでは、女性たちは税制改革により促され労働市場へと参画していきました。所得税が世帯ごとに課税される日本の税制度、夫の収入に依存する年金制度は、女性側から労働参画が進んでいかない主たる要因である、と福島教授は指摘します。それを引き継いだエレマン氏は、「家事労働をアウトソースした場合の費用を、税控除の対象とするといったような税改正の積み重ねが大事だ。女性の労働参画へのインセンティブになり社会を変えていく。」と議論を後押ししました。
【新しい経済のドライバーと女性活用について話す村上氏】
一方で、女性を重要な人的資本として、企業の成長、国の経済の発展に積極的に活用しようとする、社会的なマインドのシフトも起こっています。「新しい資本主義実現会議」の有識者メンバーである、村上由美子氏は以下のように解説します。「新しい経済のドライバーは、製造業から知識ベース、テクノロジーベースの情報技術産業へ移行しているが、日本は過去20年間でそのシフトに失敗した。新しい情報技術産業の後押しをするのは、人、人的資本だ。そのうちの50%である女性をいかに活用していくかを考え、手を打てる企業が勝ち組に入る。そして、企業はどれだけ女性を登用しているかといった人的資本の情報開示を通して、投資家に評価され、これにより企業の選別化が進むというサイクルが始まるだろう。政府はそういった流れを後押しする法規制の導入を検討している。」また、村上氏は企業や国家が競争力を高めるために、労働市場の流動性、リスクリングなどを通した人的資本への投資の重要性にも言及しました。
笹川平和財団ジェンダーイノベーション事業グループは、ジェンダー平等推進のために本セミナーの共催をはじめ、ジェンダー平等に向けての啓発活動や情報開示を促進する調査報告を実施しています。