【W20活動レポート】第九回:草の根女性のリーダーシップが世界と地域をつなぐ ~ 地域女性のエンパワーメントとジェンダー平等 ~
G20の公式市民エンゲージメントグループとして、女性のエンパワーメントについて政策提言を行うW20。W20活動レポート第九回は、地方の女性のエンパワメントを通じたしなやかに強い地域社会と国を超えたつながりについて。
2018年のG7シャルルボアサミットにてG7の開発金融機関(以下、DFI)によって設立された女性のためのファイナンスイニシアティブである2X Challengeは、DFI自らの資金提供を呼び水に民間の投資を促進することで、女性への投資の量および効果を倍増させるという目標を掲げています。
She Loves Tech Global Summit
パネルディスカッションには、松野グループ長のほか、2X Collaborative のco-Chairで英国政府の開発金融機関CDCのDirector, Value Creationであるジェン・ブラスウェル氏、2X Collaborative のVice President, Investments, Private Equity & Venture Capitalであるジェシカ・エスピノーザ氏が登壇しました。
また、モデレーターは ADB Ventures の投資スペシャリストであるジョグヌ・パティ氏が務めました。
セッション登壇者(左上から松野文香グループ長、エスピノーザ氏。左下からパティ氏、ブラスウェル氏)
パティ氏は最初に、2X Challengeが2018年から2020年の間に目標であった30億ドルの2倍以上の総額70億ドルをコミットし、さらに個人投資家から30億ドルを動員したことに触れ、2X Challengeの成果および2X Challengeの将来の展望について、エスピノーザ氏とブラスウェル氏にコメントを求めました。
エスピノーザ氏は最初に、2X Challengeが2018年にどのように始まったのかを説明しました。
2018年当時、ジェンダー投資に関する業界標準はまだ存在しなかったため、まず女性の起業家精神、女性のリーダーシップ、質の高い雇用、女性の生活を実質的に向上させる製品やサービスなど、バリューチェーンに沿ったさまざまな分野に着目し、2X基準を共同で策定したと説明しました。これらの基準は、ジェンダー投資のグローバルな業界標準となり、今日では、2X Challengeや2X Collaborationのメンバー以外にも、多くの業界関係者が利用していると述べました。
また将来の展望に関し、エスピノーザ氏は、今後民間投資家や完全な機関投資家を呼び込むことで、150億ドルを上回ることができるとし、2XChallengeを促進する団体として2X Collaborationを設立し、ジェンダー投資のグローバルな業界団体として、年金基金、ファミリーオフィス、財団、保険会社などを巻き込んでいく予定であると説明しました。加えて、ジェンダーと環境に関する投資機会やケア経済に関する投資など、新しいタイプの投資を検討したいと述べました。
ブラスウェル氏は、今後の展望として、2X Challengeの新しいイニシアティブである2X Igniteを説明しました。
このイニシアティブは、ファンド組成などのオリジネーションを促進することで、現在または従来、資本の移動があまり速くない場所に資本を移動させ、これまで投資できなかった経済分野に参入する試みだと述べました。また、パイプラインに入ってきたビジネスチャンスや投資機会を把握するために、ポートフォリオにも目を配りながら、経営陣と協力して、女性がリーダーシップを発揮できるようにビジネスを変革し、さまざまなネットワークや専門家を利用して役員を募集したり、女性向けの商品やサービスを設計する計画を明らかにしました。
続いて、パティ氏は、松野グループ長に対して、当財団によるジェンダー投資の取り組みを聞きました。
松野グループ長は、日本も2X Challengeに貢献をしており、笹川平和財団は日本の民間資金動員の一翼を担っていると述べました。具体的な事例紹介として、当財団が2017年に立ち上げたアジア女性インパクト基金(AWIF) を説明し、またその中でASEANを始めとするアジア地域において女性のエンパワーメントを支援するマイクロファイナンス機関への資金提供を行うJAWEF(JAPAN ASEAN Women Empowerment Fund)に30百万米ドルの出資を行ったと述べました。また、直接女性企業家への投資は行っていないものの、女性起業家への投資を増加させるよう、技術協力プロジェクトを通じて東南アジアにおけるエコシステム構築支援を行っていると説明しました。
ジェンダー投資は世界的にも活発になり、ネットワーク組織も組成されていますが、このような流れにピンクウォッシング(真の意図がないにもかかわらず、上辺を取り繕ってごまかすこと)のリスクはないのかとパティ氏はパネリストに問いかけました。
この問いに対し、ブラスウェル氏は、多くの投資家や機関投資家が、この分野に資金が流れているのを見て、安易に流行に乗ってしまうと問題視しました。これを防ぐために、次の段階では、市場で独自に確立された保証認証メカニズムを開発し、企業が意味のある取り組みをしているのか審査を受けられるようにする必要があると述べました。また、真の意味のあるジェンダー投資のためには、実際の成果を示すために必要なデータを確保することが重要だと述べました。
エスピノーザ氏も、データに基づいたソリューションは、ジェンダー投資を推進する上で非常に重要だとし、2X Challengeが開発したアドバイザー製品である「ジェンダー・スマート・オポチュニティー・アセスメント」を紹介しました。これは、投資先の金融機関が市場機会やベンチマーキングを正確に把握し、データに基づいた方法で、女性起業家やジェンダー・スマート・ビジネスに資金が行き渡るようにするための製品とのことです。
これに対し松野グループ長は、ジェンダー投資を行うのであれば、ファンドマネージャーは、女性のエンパワーメントとジェンダー平等を支援するという明確な意図を持っていなければならず、それは、広告、ソーシング、デューデリジェンス、そしてモニタリングと評価に至るまで、統合されていなければならないとしました。また、データに基づいたソリューションの重要性に関し同意し、当財団が実施したリーン・データ・アプローチを用いた、ミャンマーにおける調査を紹介しました。この調査では、ミャンマーの2つのマイクロファイナンス機関の約400人の顧客を対象に電話調査を行い、当財団が出資をしたファンドから融資を受けたマイクロファイナンス機関が提供する小規模融資が、具体的にどのように使われているのか、また、女性たちの日常生活や企業活動にどのような影響を与えているのかを再定義しようとしたと説明しました。
次に、パティ氏はCOVID-19の影響を考慮に入れて、各機関の戦略がどのように変化したのかについて各パネリストに意見を求めました。
これに関し、松野グループ長は、基本的に戦略は変わっていないものの、COVID-19により、テクノロジーをビジネスに取り入れる動きが加速されるようになったと述べました。一方、デジタルデバイドや格差が拡大し、女性がこうした機会にアクセスできていないことが問題だとし、女性が取り残されないように、さらに努力続けたいと述べました。
このテクノロジーの点について、エスピノーザ氏は、開発金融の分野でも、技術的な分野が大きくクローズアップされていると述べました。世界的に見ても、デジタルによる男女間の大きな格差があることが分かっているものの、同時に、新興のハイテク企業は、女性が設立した女性主導の企業であることが少なくなく、男性が設立した企業であっても、賃金の公平性を当然視している場合が多いと指摘しました。したがって、この分野には多くのチャンスがあり、ファンドマネジメントの分野でも、もっと多様性を重視することで、アーリーステージの女性主導の技術系ビジネスに投資するVCが増えることが望ましいと述べました。
セッションを閉じるにあたり、パティ氏は各パネリストにジェンダー投資を加速させるために何が必要かを聞きました。
これに対し、ブラスウェル氏は、ジェンダー投資を迅速に進めるためには、ステークホルダーが協働することが重要で、コラボレーションしながら、認証を行うためのシステムの構築等、統一された方法をエコシステム全体で考えていくことが求められていると述べました。
続いてエスピノーザ氏は、SDG5のジェンダー平等は、他のすべてのSDGsの前提条件であり、触媒でもあるため、気候変動ファイナンス等、あらゆる種類の商品やアセットクラスにおいてジェンダーを主流にすることが重要だと述べました。
松野グループ長は、女性に投資することは、単に正しいことではなく、賢いことだというビジネスケースを積み上げていく必要があると述べ、財務的なリターンと社会的なインパクトの両方を達成できるというエビデンスが何よりも必要だと主張しました。