【イベント報告 】
マイクロファイナンスとインパクト評価 ~ジェンダー視点から考える~
              

(パネリスト)
ナターシャ・ガルチャ  

Impact Investment Exchange (IIX) 

革新的ファイナンス・ディレクター 

IIXにてアジア・大洋州と米国におけるジェンダー投資とインパクト評価を統括。同社の世界初シンガポール取引所上場債券「ウイメンズ・ライブリフッド・ボンド」のストラクチャリング、インパクト検証、IRを担当。非営利組織Shades of Happiness Foundationの共同創設者としてインドの低所得コミュニティの子供たちへのエンパワーメント活動にも取組む。オックスフォード大学にてMBAを取得。 

Impact Investment Exchange (IIX) 
https://iixglobal.com/

(パネリスト)
Cheriel Neo (シェリル・ネオ)
五常・アンド・カンパニー株式会社 インパクト評価担当

2014年、英国オックスフォード大学歴史学・文学科卒業、2015年、エジンバラ大学にて翻訳学の修士号取得。2015年から2018年まで、世界的なインパクト金融仲介組織である英国Social Finance UKに勤務。2018年より、難民を雇用する社会的企業であるProof Bakeryを創業し、同社社外取締役を務める。2020年2月より現職。

五常・アンド・カンパニー株式会社
https://gojo.co/landing-page-jp
(モデレーター)

松野文香(まつのあやか)
笹川平和財団 ジェンダーイノベーション事業グループ グループ長
アジア女性インパクト基金 
 
国連機関とJICA勤務を経て、2019年から現職。現在は外国人も含めた9人のチームリーダーとして、アジア女性の経済的エンパワメント促進のための事業実施とアジア女性インパクト基金の運営に取り組む。
 

社会的インパクト評価、マネジメントに関する国内外の最新動向を伝えることを目的として、(一財)社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI) が毎年開催する「Social Impact Day」https://simi.or.jp/info/7250)。2021年1月23, 25, 26日の3日間で、全13のセッションが開催された第三回Social Impact Dayは、延べ2000人以上がオンラインで参加する、一大イベントとなりました。 

「アジア女性インパクト基金」を運営する笹川平和財団・ジェンダーイノベーション事業グループは、ジェンダー視点のインパクト評価をテーマとしたセッションを実施。インパクト評価の最前線で取り組む二人のスピーカーを迎え、コストやデータ収集の課題、インパクト評価がもたらす女性のエンパワメント等、様々なトピックスをカバーする議論が、200人を超す聴衆が参加しました。 


ジェンダー投資は「賢い投資」 

セッションの口火を切ったのは、モデレーターである笹川平和財団・ジェンダーイノベーション事業グループの松野文香グループ長。笹川平和財団は重点目標の一つとして「女性のエンパワメント」 を掲げており、インパクト投資が注目されはじめて間もない2017年にジェンダー視点を投資戦略に組み込み、女性の経済的エンパワメントを推進するための「アジア女性インパクト基金」を設立し、ジェンダー投資を開始しました。女性に投資をすると、その効果は家庭・子供たち、コミュニティに広く波及していくことから、ジェンダー投資は「正しい投資であるだけでなく、賢い投資」と言われていることを紹介しました。 
 

【IIX(アイアイエックス)】 - コロナ禍でも独自の方法でデータ収集を継続 

真に「賢い投資」となるには、投資する側が責任をもってインパクト創出にコミットし、そのインパクトを把握いていく必要があります。インパクトを測定し、可視化し、評価し、活用していくの方法について、Impact Investment Exchange (IIX アイアイエックス) のナターシャ・ガルチャ氏が経験を共有しました。 

シンガポールに本社を置き、アジアを中心にジェンダー投資に取り組むIIXは、2017年、「ウイメンズ・ライブリフッド・ボンド」でジェンダー投資債権銘柄としては世界初となる上場をシンガポールの証券取引所で果たしています。ガルチャ氏は、「女性は貧困の犠牲者ではなく、持続可能な未来を切り開くアクターである」と話します。 

  「新型コロナウィルスの女性への影響については、多くの論文が書かれ、会議で議論されていますが、行動することこそが大事と考え、私たちはコロナ禍のなか、『ウイメンズ・ライブリフッド・ボンド』の第三号を立ち上げました。様々なポートフォリオを組み合わせることで、リスクを低減し、リターンを安定させており、18万人のアジアの女性たちに対して社会的インパクトを創出しています。」 

コロナ禍で移動が制限されるなか、インパクト投資のファンドマネージャーのなかには、インパクト評価を停止し事業の継続とキャッシュフローのモニタリングのみに注力するところも出てきていますが、IIXは独自の方法でインパクト評価を継続し、半年に一度の頻度で、証券報告書に加えて、インパクト報告書を発行し続けることを投資家に約束しています。 

 IIXが行うのは、スマートフォンを活用した遠隔でのデータ収集・分析です。IIXは、異なる地域やローン・サイズ、属性に応じてランダムに抽出した500人の女性顧客の  協力を得て、彼女たちのスマートフォンから標本データをリアルタイムで収集・分析しています。「IIX Value」と名付けられたこのシステムにより、女性や家族の生活の様子、貯蓄やローンの返済状況などのデータ収集の効率性は格段に向上しました。コロナ禍前はガルチャ氏自身、データ収集のために各国に出張し、多くの女性たちにインタビューをしていましたが、IIX Valueにより、シンガポールにいながら、女性たちの声を得て、投資プロセスに反映することができることを実感しており、コロナ終息後も活用していきたいと考えています。 

【五常・アンド・カンパニー 】- 責任を持ってインパクトを実現するために 

誰もが自分の未来を決めることができる世界を目指し、途上国での事業向けマイクロファイナンス(少額融資)サービスを行う、五常・アンド・カンパニー(以下五常)で、インパクト評価を担当するシェリル・ネオ氏は、責任を持ってインパクトを実現するためには、インパクト評価は必須であると話します。 

「インパクト評価のメリットは3つあります。一つは、どのようなインパクトをもたらしたのか明確にできること、二つ目は、顧客のニーズは何か、顧客はどのようなサービスを望むのかを知ることで改善点が特定できること、三つめは、投資家を含むステークホルダーに成果を報告、関係者に透明性の高い情報によって、学びを共有することです。」とネオ氏は話します。 

一方で、マイクロファイナンスの前線である現場は、インパクト評価の実施を手放しで歓迎するわけではありません。現場のグループ会社のスタッフが「インパクト測定」という馴染みのない言葉を聞くと、コストの高いデータ分析をしなければならないのか、”余計な仕事”が増えるのではないのか等、色々な疑問を感じてしまうのは当然のこと。そのため、五常では、インパクト評価が”余計な仕事”ではなく、投資家の支持を得て資金調達力のアップにつながること、インパクト測定のコストを可能な限り抑えられることを丁寧に伝えることを心がけています。 五常の現場主義は、指標策定でも発揮されます。 

インパクト投資の世界で、IRIS+やIMP(インパクトの5次元)等の多数の基準やツールが導入されていますが、様々な基準には関連性があるものの、統一されていないこと、自分たちが本当に知りたいことに合致する指標が無いなど、かつてネオ氏は成果指標の選定に悩まされたといいます。 

結果、顧客の視点に立ち返り、顧客の夢をかなえるためのお金の出入りの流れに沿って、評価のフレームワークを構築し、そこから実用性と実現性がある指標をリストアップする方法にたどり着きました。たとえば、自分の事業を拡大するときの、短期的、長期的な金融サービスへのアクセス等の指標を、可能な限りIRIS+を取り入れる形で設定したのです。 

また、IIXと同様、五常ではデータのデジタル化にも力を入れています。現場ではローンオフィサーがタブレットを持ち歩き、顧客との打ち合わせの際にその場でデータを入力するようにしたり、各国のグループ会社からのデータを一元化して集めるデータレイクを立ち上げたりなどデータ収集の利便性を格段に向上させるほか、集めたデータを自動的に可視化し、五条やグループ会社の誰でも活用できるようにしています。 

インパクト測定の「コスト」を考える 

インパクト測定のコストについて、IIXのガルチャ氏は次のように話します。 
「コストを惜しんで、インパクト測定を実施しない、ということは、戦略的ではないと考えます。インパクト測定をすることで、現状をよりよく把握し、結果的には将来のリスクを下げることにつながります。 
現在、デジタル化により、インパクト測定のコストをかなり抑えることができるようになっています。」 

またガルチャ氏はインパクト測定には、その地域の文化や文脈の理解が重要であるという点も強調しました。「高いコンサルタント料を払って、海外からコンサルを呼び寄せる必要はありません。アジアのジェンダー投資の案件のインパクト測定はアジアの女性が行うこで、正確なデータを得ることができます。」 


こども世代、配偶者との関係性の変化を把握することの重要性 

インパクト測定にあたって、五常では、女性のエンパワメントの成果を測定するための指標を導入しています。ローンが、女性の顧客の家庭での役割にどのような影響を与えたか、家庭内でお金の決定権をもっているのだれか、女性の顧客の夢は何か、その夢の実現は、女性顧客の実現可能圏内にあるか、といったデータを集めることで、顧客全般に与えているインパクト、更にはの家族の背景、配偶者との関係を理解し、女性顧客のニーズを深く理解することを目指しているとネオ氏は話します。 

 

ジェンダー投資とインパクト評価の未来 

イベントの終盤では、 JICAの民間連携事業部長 原昌平氏から、世界の課題解決のためにJICAが取り組むジェンダー投資に関してご紹介いただきました。JICAは政府を通じた支援だけではなく、G7が2018年から実施している、「女性のためのファイナンスイニシアティブ:2X Challenge」という、ジェンダー平等推進のための投融資増加の共同イニシアティブにも参画しています。そうすることで、SDGs達成のために年間約2.5兆ドルの資金不足が指摘される中、JICA自らジェンダー投資を実践し、ジェンダー平等に対するインパクトを創出することで、民間からの資金動員を後押しているのです。 

 

インパクト評価の中心に人々の声を 

最後にネオ氏は次のように参加者に向けてインパクト評価への思いを伝えました。 

「インパクト評価の世界で次々に開発されている枠組みやツールを参照しながらも、大切なのは、人々がどのように暮らしているのか、ニーズは何なのか、事業がどのように人々にかかわっていることを質的に理解することが大事。全てはそこから始まります」 

ガルチャ氏も、ネオ氏と同様にかかわる人たちのことを知ることがインパクト評価の中心になるべきと次のように続けました。 

「私たちのが大事にするべきことは、女性たちを『不平等の被害者』ではなく、社会を築く担い手として尊重し、声を聴くことです。インパクト評価によってデータに基づくリスクとリターンのマネジメントを行う一方で、いつでも『人を中心(human centric)』にアプローチしていく必要があります。」 


笹川平和財団・ジェンダーイノベーション事業松野グループ長による、この日のイベントのご関係者、登壇者、参加者の皆様への謝辞とともに、財団の行うジェンダー投資にもインパクト評価を取り入れながら、関係者と学び続けていく意思表明でイベントは幕を閉じました。 

                                                         以上 

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