新型コロナウイルス流行下の米中関係

2020.4.30
王緝思:新型コロナウイルス流行下の米中関係
  本文は王緝思教授(北京大学国際関係学院)の「国家発展シリーズ」講座における講演に基づいて整理したものである。

概要:
1.新型コロナウイルスが発生した後、米国は中国に何を行い、米中関係がどのように変化したのか。
2.中国の対米政策とその姿勢にかかる個人的な解釈
3.米中関係の現状と動向
4.世界全体の形勢と米中関係の姿勢について


一、米国の対中政策の変化
 米国の対中政策には2017年から変化の兆しがあった。そしてトランプ政権になって以降、米国の対中政策は大きく変化した。個人的な見解だが、中米関係は2009年から徐々に悪い方向に進み始めていた。オバマ政権時代に既にその変化は起きていたのだが、それがトランプ登場後ほどには顕著でなかったに過ぎない。今日、中米間に存在する貿易摩擦、香港、台湾、人権、南シナ海、技術排除、知的財産権等の問題は、2017年にトランプが政権を握る前から既に始まっていた。 
 トランプは政権を握る前から台湾の指導者、蔡英文と電話で会談し、米国国内で多くの人々の反発を招き、中国もトランプの行為を強く抗議した。大統領になってからは逆にトランプ本人は台湾問題について曖昧な態度をとり、主に米国側が赤字になっている対中貿易を是正するために力を注いだ。このことはトランプの政策の特徴と符合している。即ちトランプは米国経済の振興に重点的に力を注ぎ、再び米国を強くすることに努めた。
  トランプと米国の国務長官、国防大臣、トランプ周辺の側近は皆中国を戦略相手、つまり戦略対象の「競合者」であり、所謂「修正主義国家」であると位置付けている。「修正主義国家」とは、現在の国際秩序を修正することを企図し、米国主導の国際秩序に不満を持っている国家であるという意味である。そして米国は中国に対し全政府を挙げて全方位的な長期競争戦略を取ると声明した。
  トランプ政権の最初の大きな事件は中国との間に発生した貿易摩擦であり、最後は貿易戦争へと発展した。今年初め、中米は第一段階の貿易協定を締結し、貿易上の報復宣告の応酬は一段落した。協定の主な内容は中国が今後二年以内に天然ガス、農産品、工業製品、金融サービス等2000億米ドルの米国製製品を購入すること、知的財産権の保護、強制的技術移転の停止、為替レート管理の緩和等であった。
  トランプは元々今年11月に米国大統領選後に第二段階の経済貿易交渉を行うつもりだったが、中米両国において新型コロナウイルスの深刻な流行が発生し、その結果、第二段階の交渉時期と交渉成果は更に不確定になった。言い換えれば、中米貿易紛争は今のところ収まっているが、問題が完全に解決された訳ではない。米国は第一段階の協定締結前に課した多くの対中報復関税を取り消していない。
  第二段階の交渉の焦点は、中国が国有企業に対して支出している補助金問題、中国市場への参入問題、外国企業による投資案件の審査基準問題、インターネットの安全問題等になるだろう。
  今年1月、新型コロナウイルスによる肺炎が爆発的に増加した。中国は元々両国共同で新型コロナウイルスに対抗し、多くの協力を行いたいと考えていた。しかし、米国による反中言動は鳴りをひそめるどころかかえって前より一層激しくなった。
  戦略面では、米国は引き続き中国への圧力を強めている。最近トランプはインドを訪問し、はっきりと名指しはしないまでも中国を批判した。更にインドのモディ首相と共同声明を発表し、インド太平洋地域の戦略的融合を強化、南シナ海における有意義な行動規則を確立し、地域の観光、航行、安全について支援を行うと表明した。これも明らかに中国を意識したものである。また米国は同時に中国の国連及びその他の国際機関における影響力を弱めようと努めている。例えば、最近米国は中国代表が世界知的所有権機関の事務局長に指名されることを妨害し、その目的を達成した。更に今年2月初め、米国のポンペイオ国務長官は全米知事協会で講演を行った際、米中競争は連邦政府の問題であるだけでなく、各州の問題でもあると語り、それぞれの州が連邦政府の指示に従い中国に対して警戒を強めるよう呼び掛けた。
  新型コロナウイルスの流行以後、米国政府は中国に対して何度も態度を変えているだけでなく、前後で矛盾した対応を取っている。最初トランプは中国の新型コロナウイルス対策は透明性が高くオープンであるとして賞賛し、ペンス副大統領も中米両国は協力して対応していると話していた。その後、態度が徐々に変化し、トランプは演説の中で新型コロナ肺炎ウイルスを「中国ウイルス」と呼んで、米軍がウイルスを中国に持ち込んだとする説に反論した。現在、米国は多方面で中国を標的としてデマを飛ばすことを画策し、新型コロナウイルスに関してだけでも中国に対する多くの誹謗中傷を行っている。
  この状況にも関わらず、中国と米国はまだ一部で互いに協力し合っている。例えば、米国の感染防止センターもWHOに加わり中国代表団の視察に参加している。「ニューヨークタイムズ」の記者は中国の対策方法を肯定し、米国は中国に学ぶべきだと中国を賞賛した。
  いずれにせよ、中米間の目下の外交関連の情報には少し混乱がある。全体的に見て両国関係は新型コロナウイルスの爆発によって好転するどころか、却って悪化しているのである。
  今後、引き続きトランプ政権と米国議会は貿易問題、技術競争問題、インターネットの安全性の問題、台湾問題、香港問題、チベット問題、新彊問題等多くの問題に関して新たな政策を実行し、各分野で協調を高めて中国に全面的な圧力を掛けるだろう。
  貿易面では、2月末に新型コロナウイルスの流行が深刻になった際、米国の通商代表部は中国から輸入されるマスク、医療用手袋等数十種類の医療用品の関税を免除した。これは中国にとっていいことだったが、その後米国は、これら以外にも中国から医薬品、薬品の原料、医療機器を輸入する必要があることに気付いた。これは米国にとっては面白くないことで、米国は将来的に中国から制約を受けることを懸念し、中国製の医療品や薬品への依存度を減らし、自国生産品或いは海外の他地域で生産された製品を購入することを決め、中国を排除しようとしている。
  技術競争の面では、ファーウェイへの圧力を継続している。孟晩舟女史はまだカナダにいるが、米国はカナダから孟女史の身柄の引き渡しを受け、米国内で裁判を行う考えを諦めていない。米国は、外交、司法、行政等様々な手段によってファーウェイに圧力をかけて排除しようとしている。トランプ政権の官僚は、ミュンヘン安全保障会議等多くの場面で、ファーウェイが国家の安全と民主政治に危害を加えているとアピールし、英国等西側同盟国が5Gネットワークを構築する中でファーウェイの設備を使用することを阻止しようと画策している。米国内では5G関連産業の育成方法が課題になっているが、米国財務省は最近海外投資家の審査に新たな規則を加えた。他にも非常に多くの分野で協調政策が取られているが、その目的は中国の監視能力、制御能力、軍事力を強化するために米国の技術が使われないようにすることなのである。
  台湾問題でも、米国の動きは止まらない。今年1月、蔡英文が台湾の指導者として再選を果たした。これに対してポンペイオ国務長官は声明を出し、蔡英文の再選を祝い、蔡英文が米台関係と両岸関係において指導力を発揮することを容認した。更に米台は民主的価値を共有していると強調してみせた。新型コロナウイルスの流行後、米国は台湾をWHOの会議に少なくともオブザーバーの立場で参加させるべきだと主張し、台湾の国際的地位を高めようとしている。
  南シナ海の問題でも、やはり米国は圧力をかけ続けている。米国海軍の偵察機が南シナ海上空で偵察飛行を行った他、印太(即ちインド―太平洋地域)戦略を強化して、ベトナム、フィリピン等中国と南シナ海を巡って争っている国々を支援することによって中国に新たな圧力を加えているのである。
  香港問題については、米国は昨年「香港人権民主主義法案」を可決し、中国の内政に干渉を企んでいる。また香港の民主化運動を2020年のノーベル平和賞の候補に挙げている。
  チベット問題については、米国は「2019年チベット政策及びチベット支援法案」を可決し、公に中国の内政に干渉している。特に将来のチベット仏教の指導者となるダライラマ十五世の継承権問題に関して、中国政府の見解を無視し、チベット人が被継承者を自主的に選ぶよう鼓舞している。
  人的文化交流面では、米国は中国人留学生を様々な手段で監視している。ハーバード大学の化学分野の教授は罪を着せられ連邦捜査局によって起訴された。2月18日には米国国務院が新華社、中国国際放送局、中国国際電視台、「チャイナ・デイリー」、「人民日報」の五つの中国メディアを外交使節団の適用範囲に分類し、これらが中国政府代表と同等であるとして活動を規制した。これに対抗して中国は2月19日に「ウォールストリートジャーナル」の三名の外国人記者の記者証を取り上げると発表した。3月2日、米国国務省は更に上記五社の中国メディアの中国籍従業員の数を100人以下まで減らし、3月6日までに詳細な名簿を提出するように要求、これに対し中国は「ウォールストリートジャーナル」、「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」の三社の中国駐在記者の記者証を取り上げるという対抗措置を取った。
  更に米国のシンクタンクやメディア等は中国の政策に関する報告、論文、評論を次々に発表したが、その論調は米国の対中政策と呼応するもので、中には中国に対してもっと強い政策をとるべきだと米国政府に訴えるものもあった。多くの大統領候補者も中国の言論を攻撃し、バイデンははっきりと「私が当選したら、中国に対して強硬な措置を取る。特に米国の同盟関係を強化し共同で中国に対抗する」と明言している。これは米国が同盟国、パートナーと共に中国の国際影響力を牽制しようとしていることを意味する。
  今年の米国大統領選挙では対中政策が過去に比べてより注目される課題になっている。もちろん米国大統領選挙の焦点は、経済成長の鈍化、突然現れた金融危機といった国内問題だ。その他にも社会的不平等、移民問題、衛生・医療問題、教育問題等の従来からの問題もあって、焦点は外交問題ではない。外交関係に話が及んだ場合のみ、対中政策はその中で最大の課題となるのである。
  現在、誰が次期米国大統領になるのか、各分野で意見が分かれている。2020年3月までは米国経済は比較的良好で、民間調査の結果も比較的トランプに有利であった。現在新型コロナウイルスが米国で爆発的に増え、それがトランプにとって大きな圧力になり、感染者数と死亡者数が増加すると、トランプの新型コロナウイルスへの対応は明らかに変化した。反対派はこれを批判している。ニューヨーク州知事はトランプの「中国ウイルス」という発言を無責任だと非難し、このような発言は、ニューヨーク州にいる多くの中国人、中国系米国人、アジア人に対する人種差別を更に助長させるものであり、米国にとってもニューヨーク州にとっても決してよいことではないとコメントした。新型コロナウイルス流行の拡大に伴い、トランプは益々大きな圧力を受けている。トランプの対抗馬が共和党内にはいないとしても、民主党の候補者、バイデンとの競争は存在する。
  誰が次期大統領になったら中国にとってより有利になるか。私は候補者によって異なる利益と弊害があると考える。
  もしトランプが再選を果たした場合、トランプは貿易問題において中国に対して圧力を掛け続けるだろう。なおかつトランプの側近は中国に対して皆よい印象を持っていない。連邦捜査局、中央情報局等の国家機関内部でも反中国勢力は大きな力を持っている。トランプが中国はよくやっていると評価し、中国国家主席とは良い友人だと言っているが、トランプが任期中に中国に対して行った施策は決してよい影響をもたらしていない。中国について言えば、トランプが再選を果たせば必ず新しい政策をとるだろう。2017年にトランプが当選した際はすぐに反中政策を発表した。比較的よい点を挙げれば、ここ数年、トランプは主に経済と貿易の問題で中国と張り合っており、南シナ海問題、台湾問題、香港問題、人権問題、新彊問題等については大きな関心を寄せていない。更に言えば極端な反中勢力を抑え込み、経済と貿易の問題を処理した後にその他の問題を解決すると表明している。
  バイデンが当選したら、中国の内政問題、南シナ海の問題、国際問題において、トランプより更に度を越した対応をする可能性がある。特に所謂中国の脅威に対して他国と連携し共同で対抗する可能性は極めて高い。一方、バイデンは中国と非常に付き合いが長いため、トランプより中国を理解している。バイデン自身も中国が米国にとって最大の脅威だとは考えていない。それらは比較的良い事だ。更にバイデンの側近にはオバマ政権時代の外交官が多くおり、中国に対する理解はトランプよりも遥かに深い。
  要するに、誰が次期米国大統領に当選したとしても、対中政策には利益と弊害があり、総じて誰が当選しても対中関係は改善しない。米国政府は対中戦略を強化し続けており、更に米国内与野党の中国に対するマイナスイメージを強くしようとするだろう。いずれにせよ私達は今後数年、米国の対中政策を楽観視することはできない。
 
二、中国の対米政策と対応
 今年3月16日、中国共産党中央政治局委員、中央外事工作委員会弁公室主任、楊潔篪は要請に応じて米国国務長官のポンペイオと電話会談した。楊潔篪は、「米国の一部のロビイストが絶えず我が国と我が国の国防努力を中傷し、我が国に汚名を着せ、我が国の国民を憤慨させている。これに対して我が国は断固反対し、厳しく非難する。我が国の顔に泥を塗ろうとする如何なる中傷も思い通りにはならず、我が国の利益を損なう全ての行為は断固とした反撃に遭うことを米国に厳しく忠告する。中米両国の国民と世界各国の人々の共同の利益と要望を前提とする立場に立ち、中国や国際社会との話し合いと協力を強化することによって、中国と共に世界の公共衛生の安全を維持することを米国に対して強く求める」と語った。ポンペイオは、米国軍がウイルスを拡散させたと中国が米国を名指しで非難しているのは、米国に汚名を着せる行為であり、非常に不満であると表明した。中米双方にとってこの電話会談は不愉快なものに終わり、互いに相手が両国関係と両国の国家利益を損ねていると非難し合う結果になった。
  ここ二年間、特に新型コロナウイルスが拡大した期間に、中国政府、中国のシンクタンク、メディア、世論の米国に対する対応は全て明らかに変化した。それより前の長期間にわたって、中国では中米関係は最も重要な関係であると見なされ、米国に対しては爪を隠して対応をすべきだとする考え方が浸透していた。現在、この考え方はもう世論の主流から外れ、その代わりに中国は米国と真っ向から対峙し、恐れずに力を見せつけるべきだという意見が主流になっている。様々な文芸作品、映像作品、評論やエッセイにもそれは現れ、極端な例ではもう二度と米国には期待しないとするものまである。
  広報活動においては、中華文化を発揚し、中国式管理や統治による成功経験を発信し、世界の潮流を中国のやり方でリードできるという自信を向上させ、それらが中国にとってプラスのエネルギーとなり、その流れが主流になった。例えば今回の新型コロナウイルスへの対応が全体として非常に成功しているという評価を発信し、中国が世界の対応基準を打ち立てたと発表した。また中国はイタリア、パキスタン等の国への支援を開始した。
  ある時期から、米国による反中言動に対する中国政府と国民の容認度は著しく低下した。例えば昨年12月、米国NBAに所属するロケッツのダリルGMがSNS上で不当な発言をしたことに対し、中国は制裁として米国NBAの多くの試合放送を中止した。米国が中国の5つのメディアを「外交使節団」の適用範囲としたことに対しては、今年2月「ウォールストリートジャーナル」の三名の北京駐在記者の記者証を取り上げた。米国の「中国ウイルス」論については、外交部のスポークスマン、趙立堅が米国の疾病管理予防センターの責任者の話を引用して反論し、米国はまだ中国が納得できる説明をしていないと述べた。
  類似の件が起これば、これらがモデルとなり、米国による攻撃を中国が容認することはもうない。中米間の情報戦争、世論における論争、外交戦争は益々激しさを増し、今や後戻りすることが難しくなっている。
  経済、技術、人的文化交流の分野においても、中米両国の相手国に対する信頼度は全て下降している。中国は対米貿易、投資、金融、技術等の分野で、自主刷新を強調する姿勢を強めている。私達は貿易や技術において中米両国が互いを排除することを望まないが、それに対応するために考え方と物資の両面で準備をしておかなければならない。中国が必要とするものは、5G関連部品だけでなく航空用モーターやその他の製品も自国で製造するべきだ。米国人も警戒を強めている。例えば米国は現在多くの中国製の医療製品や薬品を輸入しているが、中国への依存度を減らしたいと考えているのだ。
  新型コロナウイルスの拡大した期間に、中国から大使館員、領事館員を最初に帰国させた国は米国であり、中国国民に対して全面的な制限措置を最初に行ったのも米国であり、米国は絶えず恐怖を煽り、悪い見本を提示しているとして外交部のスポークスマンが厳しく米国を非難した。2月24日、米国側の態度と措置を踏まえて、中国文化観光部は、決して米国を旅行しないように中国人旅行客に対して注意喚起した。中米両国間の意見の相違と反感はもうこのようなレベルにまで悪化しているのである。
  総体的に言って、41年の中米両国国交の歴史の中で私達の米国に対する不信と反感は既に過去に例がないほど高まっている。
  一方、中ロ関係は新たな時代を迎え、全面的な戦略的協力パートナーの関係へと発展し、両国の政治的信頼度は過去にないほど高まっている。また中国は発展途上国との関係を更に重視し、「国際統一戦線」の概念を新たに確立し、国連やWHOのような国連付属機関への関与を強め、その成果を上げている。米国がまだ参加していない国際機構、例えばBRICs、上海協力機構、アジアインフラ投資銀行等で中国はリーダーの役割を果たし、「一帯一路」の建設等を積極的に進めている。
  米国が対中政策を大きく転換し、中国がそれを認識して戦略、考え方、具体策を変更し、競争、闘争の方向へ断固として舵を切ったことをこれら全てが明らかにしている。米国に対する幻想を捨て去り、非常に危険な挑戦に対する備えを行い、恐れず、巧みに戦い、競争意識を高めなければならないと中国は総じて強調している。
  対米外交はまだ表面上穏やかで、「協調、協力、安定を基調とする中米関係」を堅持している。新型コロナウイルスの発生以降、習近平国家主席とトランプ大統領は電話で会談し、両国の協力の必要性を表明している。
 
三、中米関係についての総合的判断
 ここ数年の中米両国の経済、軍事の実力を比較してみると、中国が益々有利になっていることがわかる。両国共に政治情勢に明らかな変化が現れているが、米国の政治は非常に偏っている。つまり民主党と共和党の論争は熾烈を極め、アイデンティティ政治が前面に押し出されている。中国は中国共産党による指導の一元化が強まり、党の体制強化が進み、反腐敗闘争等に対して更に力を注ぎ、イデオロギーの取り締まりとネット規制を以前に比べて厳格化した。これらによって中米両国の社会体制、価値観、国益の矛盾が益々鮮明になっている。
  貿易戦争は中米関係の悪化の兆候に過ぎず、根本的原因ではない。貿易戦争がその他の分野における衝突を今のところ見えなくしているだけである。
  中国側の応戦の備えは初めのうちは受動的だったが、2019年秋以降、中国は主体性を強めて闘争の必要性を訴え、米国側が盛大に世論を煽り反中攻撃を仕掛けてくることに対して、絶えず反撃している。新型コロナウイルス発生以後は両国高官の往来が更に減少し、「間接的な応酬」が主となった。新型コロナウイルスの予防管理のために直接的な対面を避ける必要があり、それが両国による水面下の交渉を難しくしている。このことは衝突緩和にとって不利に働く。
  両国の観光、人的文化交流、科学技術協力の各分野は一様に停滞している。過去には政府高官と政府代表者が個人的に相手国の政府高官或いは代表と対話する、いわゆる「二極対話」が、意思疎通の機能をある程度果たしていたが、現在は行われていない。シンクタンクの相互訪問も減っている。政治的配慮と移動手段の障害という二つの原因が重なり、少なくとも短期的にはこのような対話が再開する見込みは全く立たない。
  中米の国交樹立後に何度か発生した危機と比べて、このところの中米関係の悪化は、長期的で分野が広く、非常に感情的で両国民に深く根を下ろしている。今回の中米関係の危機は突発的なものではなく、長期的に悪化の一途を辿る性質のものだ。闘争は軍事、貿易、人権、台湾、香港、チベット、新彊の広範囲に及び、更には今回の新型コロナウイルスのこともあり、ほとんど全ての分野に関わっているのだ。両国民の意識の変化もマイナスの方向に動き始めている。
  今後、中米関係における矛盾は続き、日増しに緊張が高まるだろう。妥協する余地と引き返す可能性は益々少なくなる。中米両国は全面的な競争から全面的な対立に向かい、いわゆる「トゥキディデスの罠」に陥る可能性を排除することができない。
  この趨勢がこのまま続く場合、主要になる戦略は「新冷戦」を避けることではない。当時の米国とソ連の関係と比較してみよう。中米関係がもし全面的な対立関係に移行した場合、米国とソ連の対立に比べてその代償は遥かに大きい。当時の米国とソ連は相互に断絶し、経済交流も文化交流も行っておらず、科学技術交流ももちろんなかった。単に、そちらには関わらないから、こちらにも構わないでくれという隔絶した競争関係にあり、競争は軍備拡張競争と世界各地における勢力争いの範囲に限定されていた。今の米中両国が、一旦、全面的対立に向かえば、密接に結びついている経済、文化、社会面での交流等は引き裂かれざるを得なくなり、いわゆる「排除」或いは「離婚」という複雑な関係になってしまう。影響はより大きく、両国は敵対し合う敵のような存在になる。
  元々米国は中国に対して期待を抱いていた。中国が一層開放され、一層自由化が進むことを望んでいた。中国も全体的に中米関係は悪化しても決して最悪の状態になることはないと考えていた。非常に多くの中国人留学生や中国人の学者が米国に行き、両国間でたくさんの技術交流、経済貿易協力が行われ、政治においては衝突を避け、対立せず、互いに尊重し、ウィンウィンの新しい大国関係を構築する努力をしていた。このことは実は中国も中米関係に期待を抱いていたことを意味する。しかし、もうこの期待は基本的に消え去った。目まぐるしく世論は変化し、心の「傷」が表面化し始めている。
  比較してみれば、米ソ両国は元々双方共に期待を抱いていなかったし、初めから関係を改善しようとは思っていなかったが、それと違って中米両国は互いに大きな期待を抱いていて、今は互いに失望している。この痛みは米ソ冷戦の痛みよりも重く、長く続き、より受け入れ難い。
  今の米国では、アジア系米国人を差別したり恐れたりするなど人種主義とポピュリズムが顕在化し始めている。政治要因が加わり、中国系米国人や華僑、更には中国人留学生まで疎外したり差別したりすることが現実のことになった。一般の中国人が普遍的な中国文化に対する優越感と民族的優越感を益々高めていることも米国人は不満に思っている。
  新型コロナウイルスが拡大する中で、中国人はマスクを着用し、西洋人はマスクを着用しない。これは文化と生活習慣の違いに過ぎず、政治問題ではないが、ここにも民族主義の要素が紛れ込んでいる。
  短期的に中米関係が急変するとは考えにくい。まず、第一段階として経済貿易協定により経済貿易面での摩擦は一時的に緩和された。次に、相手国との突発的な重大事態の発生を避けるよう互いに努力すべきだというムードを両国が自国内において醸成している。今中国は、新型コロナウイルスに勝利し、今年中に全面的に「小康社会」を実現するという公約を達成するために全力を注いでおり、既に就業、生産、就学の再開日程を示している。米国は新型コロナウイルス対策に追われており、一方、政界では大統領選挙と両党の応酬に忙しい。更に新型コロナウイルスが米国を含む世界中の国に蔓延し、その行方は予断を許さない状況の中、米中の対立を煽る勢力の企みは実現しづらい。従って、中米関係の状態は良くないものの、断交したり全面的に悪化して衝突したりするまでには至らないだろう。但し、将来的にはこれらが急変する可能性は当然排除できない。
 
四、国際情勢とその他の国の中米関係に対する対応
 中米関係は世界の大国同士の関係と国際関係全体にとって重要な要素でもある。世界の他の地域の政治経済動向の観点から見ると、ロシアに新しい変化が現れ、プーチンは2036年まで政権を握る可能性がある。欧州各国では右派民族主義、ポピュリズムが勢いを増している。中東は混乱し、韓国と日本は自国内のことで忙しい。アセアン各国もやはり国内のことを処理するので一杯である。例えばマレーシアの首相はまた交代した。チリ等南米の国でも不安定な局面が相次いで現れている。
  以前から世界情勢は分断化、多元化が進んでいたが、それに新型コロナウイルス流行の影響が加わり、世界各地で問題が発生しており、世界経済全体は下降し、衰退する危険すらある。
  中米関係については、両国以外の多くの国がどちらか一方に与してもう一方に対抗したいとは思っていない。だから私は現在の世界が二極体制になっているとは考えていない。米国側の力は既に以前ほど強くはなく、米国と欧州各国との結束もトランプ政権の期間中に明らかに弱まった。中国は高いGDPの伸びと開放型経済、特に「一路一帯」により大きく世界に貢献している。しかし、中国がいずれかの一国を無理に引き入れて米国と対抗しようとしても、それはまた非常に難しい。現在中国の国際的地位は高まってはいるが、中国が米国と交戦するための国際戦線を張る野望を持つことは不可能だ。
 
結論:
 新型コロナウイルスの流行は中米関係に大きな打撃を与えた。両国関係の悪化のスピードは加速し、政府間交渉はほとんど凍結されている状態である。戦略の相互不信は日増しに深刻になり、国内における互いの国に対する反感は前例がないほど強い。今後、中米が第一段階の貿易協定を実行する難易度は更に高くなる。経済排除と技術排除が徐々に進み、既に逆戻りするのが難しい状況だ。各分野の交流もやはり一段と縮小するだろう。現在中米関係は20世紀、1970年代初めに関係改善して以来、最も困難な状況にある。この状況がどれくらいの期間が続くか、どこまで悪化するかは共に予断を許さない。

王 緝思

 北京大学国際戦略研究院院長、同国際関係学院教授。1948年生まれ。北京大学国際政治学部卒業、同修士課程修了。1983年より、北京大学国際政治学院で教鞭を取る。1991~2005年中国社会科学院アメリカ研究所研究員、副所長、所長を歴任。2001~2009年中国共産党中央党学校国際戦略研究所所長を兼任。2005~2013年北京大学国際関係学院院長。現在中華米国学会名誉会長。
単著:
『国際政治の理性と思考』(北京大学出版社、2006年)、『大国関係――中米は分かれるか、それとも歩み寄るか』(中信出版社、2015年)、『大国戦略――国際戦略の探究と思考』(中信出版社、2016年)
共著:
『日米中トライアングル』(岩波書店、2010年)、『多元性と統一性の併存――30年来世界政治の変遷』(社会科学文献出版社、2011年)、など多数

 
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