COVID-19と呼ばれる命を脅かすウイルスによって引き起こされる新型肺炎が世界保健機関(WHO)の中国事務局に報告されたことに始まり、2020年1月31日、この未知の病は WHOによって公衆衛生の緊急事態として宣言された。この現象によるパニックと恐怖のため、公共の活動は徐々に制限されていった。マレーシアの首相は2020年3月18日から3月31日までの活動制限令(RMO)を発令し、2020年5月12日までの延長を決定、この活動制限令は、特定のいくつかのレッドゾーン(その大部分はクアラルンプールおよびスランゴール州)においては特に強化され、現時点でもなお継続中である。
このパンデミックの渦中においては、影響を受けている割合は女性の方が多い。国連人口基金(UNFPA)によると、
医療、社会分野の最前線において女性の占める割合は7割を超える[4]。その職種は、医者や看護師、ソーシャルワーカー、インフォーマルなものを含むケアワーカー、清掃員、小規模の食品ビジネスのオーナー、その他多くの生活に不可欠なサービスにわたっており、このコロナ禍においても、必要性が高い仕事である。
幅広い分野における女性の指導力や女性参画の高まりを我々が期待しているにもかかわらず、あらゆる場面において女性の権利がないがしろにされているという現実は非常に嘆かわしいものである。COVID-19は、まだ為政者やトップリーダーの注意があまり払われていないジェンダーの違いで影響が異なるという「危機」だともいえる。ケアワーカーの大部分が女性であるという特質を考えれば、コロナウイルスにさらされる可能性は女性の方がより高いのは当然であり、女性はメンタル・ヘルスや心理社会的なサポートを十分に受けるべきである。また、家庭内暴力(DV)などの問題が世界的に増加しており、あらゆるNGOや電話相談サービスからは、被害者による相談数が2倍、3倍になったとの報告もある。さらにこの危機において、リプロダクティブヘルスに関する医療は二の次に追いやられているのが現実だ。
危機的状況の悪化の中、女性の多くが行き場を失った状態で取り残されており、政府からのサポートシステムも中断または減少している。その他にも、性別役割分業に起因するジェンダー不平等のため、特に活動制限やロックダウンの期間において、多くの女性が無報酬のケアワーク(家事、育児、介護など)の負担をより多く強いられる事態となっている。さらに、女性の7割以上がインフォーマルセクターに従事しており、危機的状況の中で最低限の保護しか受けられない弱い立場に置かれている。女性の貧困率が男性と比べて25%高いという事実もまた、この危機においては女性が男性よりも厳しい影響を受けるということを証明するものである。
第9代国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、世界の人口のほぼ半数を置き去りにすることなくこのパンデミックと戦うため、ジェンダー・レンズ(ジェンダーに注目した視点)のアプローチをとることを世界に呼びかけた。政治、様々な問題の解決、意思決定の場における女性のリーダーシップと平等な参画が、このパンデミックにうまく対処する方策だと訴えたのである。したがって、この危機に対処すべき新たな指導力の価値を人々に教え、育むべき時は既に到来しているといえる。世界の指導者における女性の割合が7%にしか過ぎないにも関わらず、現在までに、この危機への対処において女性をリーダーに置くことの効果を、世界は目の当たりにしてきている。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、フィンランドのサンナ・マリン首相などがその例である。
彼女たちが示したリーダーシップによって、女性指導者のいかなる資質が、男性指導者より優れた成果をあげられたのか、という白熱した議論が生じた。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、全ての国民を安心させるため彼女らしい人間的な心のこもった対応で人々に寄り添った
[5]。これは前述の研究によって、女性の方が広く持ち合わせていることが明らかになった能力である。また彼女は、男性指導者よりもはるかに早い段階から断固たる行動を起こしている。旅行の禁止を発令し、疫病発生源の国々から訪れる観光客がニュージーランドへ入国することを阻止したのだ。この措置は、世界中の他の多くの国よりもはるかに早い段階から取られている。一方でドイツのアンゲラ・メルケル首相は、異なる方策を用いニュージーランドと同様に成功している。彼女自身が科学者であることから、専門的な知識を有する指導者として危機対処に利し、早い段階で成果をあげた
[6]。彼女の詳細かつ科学的な説明は世界中からの注目を集め、国民の納得を得、国民の未来を保証し、活動制限令に従うことの重要性を認識させた。また、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相が、子どもたちとのコミュニケーションの重要性を説いた
[7]ことも非常に印象的であった。彼女は、子供たちに対しては、怖いと感じても構わないということ、人々が一緒になってこの危機に備えなければならないことを伝えていたのだ。
これら3人の女性指導者において類似しているのが、危機に対処する一方で、人々との効果的な対話を行っているという点であることは注目に値する。これにより国民の政府に対する信頼が大きく高まり、そのことによって、講じられた戦略の早い段階での成功が確実となったのだ。また女性指導者たちは、より共同体的なアプローチをとって、男性指導者よりもうまく、問題を個人的なものとして扱った。多くの男性指導者がこのウイルスを打ち勝つべき戦争として扱い、誰かにその罪を押し付けようとする中で、女性指導者は、社会としてこの危機を乗り越えようという呼びかけを伴いながらより確実なアプローチをとり、それと同時に、弱い立場にあり社会から取り残された人々にも対処したのである。
今後、大恐慌が我々の身に訪れることが予想されている。不運かつ苦難な経済および社会的・心理的な打撃が私たちの行く手には待ち構えており、多くの人々にとって不安で先行きの見えない時期が到来する。そして今、伝統的で独裁的な戦略はこれまでにないほどに失敗し、既に脆弱な立場にある人々に対しては、不必要な圧力をもたらしているのだということを、我々は悟るのである。前述の女性たちは未来のリーダーシップを示すロールモデルのような存在であり、この度の世界的課題に人類としてどう対処し、今後どのように危機から脱出すべきかについて、またとない例を示しているといえる。