コロナ禍で最前線に立つ女性達

スランゴール州女性エンパワメント研究所* 代表
Siti Kamariah Binti Ahmad Subki

2020.6.5
2020年は女性の年となるだろう。あらゆる意思決定の場に女性が参加し、女性自身の生活にとって何がベストであるかを決め、指導者として、女性が日々の暮らしに影響を与えるような舵取りを行えるようになるべきである。数十年にわたり、北アフリカから太平洋地域、アジアからヨーロッパまでの広い範囲において、慈善活動や様々な事業を通した女性の経済的・社会的地位の向上や、貧困の根底にある女性の状況の改善に関する議論が行われてきた。そうした議論は聞こえこそ良いものの、意思決定の中心にいるのが男性である限りは、大きな格差を乗り越えるために十分と言えるものではなかった。しかし今や女性は、無力で末端のコミュニティとして議論されるべき対象ではなく、世界の運命を決定づけるような力を持った、有能で適格な指導者としてたたえられるべき対象なのである。「未来は女性にあり」とは、現代の世界を実によく表した言葉だ。

日本においてウーマノミクス(Womenomics)で示されたように、女性の活躍がもたらす経済的価値を我々は目にしてきた。これは「女性が輝く日本」というキャッチフレーズをもって安倍晋三首相が作り上げた意識的な戦略であり、女性の労働参加、ひいては日本の国内総生産(GDP)および国家成長へ貢献していると言われている。

2020年1月時点の列国議会同盟(Inter-Parliament Union)のデータ[1]によれば、国政に関して女性の発言権は全世界において男性より低いことが分かる。地域的に見れば、アジアでは両院を合わせた女性の議員比率が20.0%であり、これは中東、北アフリカや太平洋地域と比べればわずかに上回るものの、南北アメリカの31.3%やヨーロッパの29.9%といった他地域の数字と比較するとはるかに遅れをとるものである。

リーダーシップに関するジェンダー差の研究調査は数十年にわたって行われてきた。また、独裁的な政治から民主的スタイルの政治を執り行う、より多様で包括的なリーダーシップへと世界が移行するにつれて、女性の指導力は今だかつてないほどに社会に受け入れられる可能性を持っている。ハーバードビジネスレビュー(HBR)で発表されたリーダーシップ・コンサルティング会社であるZenger Folkmanの2019年の研究[2]によれば、リーダーシップに関するスキルの大半において女性が男性より高いスコアを有しているにもかかわらず、不運にも性差別によって女性のそうしたスキルは無視されていたということが明らかにされている。女性の指導者は、イニシアチブを取り、優れた結果を出すことにおいては上位のスコアをあげているのである。トータルでは、リーダーシップに関する資質の19項目中17項目において、女性が男性より高いスコアを示した。女性は、彼女らが持ち合わせるさまざまな資質の最終的な結果として、革新に関する驚異的な資質を示したのだ。
 
さらに類似の研究においても、女性指導者は、法律を実行に移し、公共の利益に基づいて行動する傾向が強く、変革的かつ対話や協議を重視するリーダーシップを執る割合が男性より高いということが分かっている。これらは全て、女性指導者がいかに上手く事を運び世界の未来を担っていくかということを明確に示す、事実に基づいた証拠である。しかしながら同研究は、女性たちの高いスキルや能力にもかかわらず、自信の無さから能力を発揮できない可能性にも言及している。だからこそ彼女たちの自信やパフォーマンスを高めることを促進する、ネットワークやメンタリングの力が必要なのである。

しかし嘆くべきことに、トップリーダーの立場に女性が任命される機会は、アジアにおいては緩やかなペースでしか増加していない。女性が議会に参加し、新しく、より人道的なスタイルのリーダーシップを創り出すためには、さらに効果的な対策を講じることが必要とされている。世界は、より多様な代表参加、より効果的なリーダーシップスキルを目指している。現在までの相当な期間にわたって、世界には独裁制や権威主義体制が台頭してきた。しかし、いまや紛争や戦争、人道的危機の発生は第二次世界大戦以降最多となっており、そうした類のリーダーシップスタイルは衰退し、かつてないほどに時代にそぐわないものとなっているのではないだろうか。米国の前大統領バラク・オバマは、女性のリーダーシップこそが未来を担うと信じていると述べている[3]。彼は、「一般化する意図はないが、女性は男性より優れた能力を持ち合わせているように見える。そしてそれは、幾分か女性の社会順応性によるものであるように思われる」とまで語っている。

非常事態(COVID-19の世界的大流行)に際して 

COVID-19と呼ばれる命を脅かすウイルスによって引き起こされる新型肺炎が世界保健機関(WHO)の中国事務局に報告されたことに始まり、2020年1月31日、この未知の病は WHOによって公衆衛生の緊急事態として宣言された。この現象によるパニックと恐怖のため、公共の活動は徐々に制限されていった。マレーシアの首相は2020年3月18日から3月31日までの活動制限令(RMO)を発令し、2020年5月12日までの延長を決定、この活動制限令は、特定のいくつかのレッドゾーン(その大部分はクアラルンプールおよびスランゴール州)においては特に強化され、現時点でもなお継続中である。
 
このパンデミックの渦中においては、影響を受けている割合は女性の方が多い。国連人口基金(UNFPA)によると、医療、社会分野の最前線において女性の占める割合は7割を超える[4]。その職種は、医者や看護師、ソーシャルワーカー、インフォーマルなものを含むケアワーカー、清掃員、小規模の食品ビジネスのオーナー、その他多くの生活に不可欠なサービスにわたっており、このコロナ禍においても、必要性が高い仕事である。
 
幅広い分野における女性の指導力や女性参画の高まりを我々が期待しているにもかかわらず、あらゆる場面において女性の権利がないがしろにされているという現実は非常に嘆かわしいものである。COVID-19は、まだ為政者やトップリーダーの注意があまり払われていないジェンダーの違いで影響が異なるという「危機」だともいえる。ケアワーカーの大部分が女性であるという特質を考えれば、コロナウイルスにさらされる可能性は女性の方がより高いのは当然であり、女性はメンタル・ヘルスや心理社会的なサポートを十分に受けるべきである。また、家庭内暴力(DV)などの問題が世界的に増加しており、あらゆるNGOや電話相談サービスからは、被害者による相談数が2倍、3倍になったとの報告もある。さらにこの危機において、リプロダクティブヘルスに関する医療は二の次に追いやられているのが現実だ。
 
危機的状況の悪化の中、女性の多くが行き場を失った状態で取り残されており、政府からのサポートシステムも中断または減少している。その他にも、性別役割分業に起因するジェンダー不平等のため、特に活動制限やロックダウンの期間において、多くの女性が無報酬のケアワーク(家事、育児、介護など)の負担をより多く強いられる事態となっている。さらに、女性の7割以上がインフォーマルセクターに従事しており、危機的状況の中で最低限の保護しか受けられない弱い立場に置かれている。女性の貧困率が男性と比べて25%高いという事実もまた、この危機においては女性が男性よりも厳しい影響を受けるということを証明するものである。
 
第9代国連事務総長のアントニオ・グテーレスは、世界の人口のほぼ半数を置き去りにすることなくこのパンデミックと戦うため、ジェンダー・レンズ(ジェンダーに注目した視点)のアプローチをとることを世界に呼びかけた。政治、様々な問題の解決、意思決定の場における女性のリーダーシップと平等な参画が、このパンデミックにうまく対処する方策だと訴えたのである。したがって、この危機に対処すべき新たな指導力の価値を人々に教え、育むべき時は既に到来しているといえる。世界の指導者における女性の割合が7%にしか過ぎないにも関わらず、現在までに、この危機への対処において女性をリーダーに置くことの効果を、世界は目の当たりにしてきている。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、フィンランドのサンナ・マリン首相などがその例である。
 
彼女たちが示したリーダーシップによって、女性指導者のいかなる資質が、男性指導者より優れた成果をあげられたのか、という白熱した議論が生じた。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、全ての国民を安心させるため彼女らしい人間的な心のこもった対応で人々に寄り添った[5]。これは前述の研究によって、女性の方が広く持ち合わせていることが明らかになった能力である。また彼女は、男性指導者よりもはるかに早い段階から断固たる行動を起こしている。旅行の禁止を発令し、疫病発生源の国々から訪れる観光客がニュージーランドへ入国することを阻止したのだ。この措置は、世界中の他の多くの国よりもはるかに早い段階から取られている。一方でドイツのアンゲラ・メルケル首相は、異なる方策を用いニュージーランドと同様に成功している。彼女自身が科学者であることから、専門的な知識を有する指導者として危機対処に利し、早い段階で成果をあげた[6]。彼女の詳細かつ科学的な説明は世界中からの注目を集め、国民の納得を得、国民の未来を保証し、活動制限令に従うことの重要性を認識させた。また、ノルウェーのエルナ・ソルベルグ首相が、子どもたちとのコミュニケーションの重要性を説いた[7]ことも非常に印象的であった。彼女は、子供たちに対しては、怖いと感じても構わないということ、人々が一緒になってこの危機に備えなければならないことを伝えていたのだ。
 
これら3人の女性指導者において類似しているのが、危機に対処する一方で、人々との効果的な対話を行っているという点であることは注目に値する。これにより国民の政府に対する信頼が大きく高まり、そのことによって、講じられた戦略の早い段階での成功が確実となったのだ。また女性指導者たちは、より共同体的なアプローチをとって、男性指導者よりもうまく、問題を個人的なものとして扱った。多くの男性指導者がこのウイルスを打ち勝つべき戦争として扱い、誰かにその罪を押し付けようとする中で、女性指導者は、社会としてこの危機を乗り越えようという呼びかけを伴いながらより確実なアプローチをとり、それと同時に、弱い立場にあり社会から取り残された人々にも対処したのである。
 
今後、大恐慌が我々の身に訪れることが予想されている。不運かつ苦難な経済および社会的・心理的な打撃が私たちの行く手には待ち構えており、多くの人々にとって不安で先行きの見えない時期が到来する。そして今、伝統的で独裁的な戦略はこれまでにないほどに失敗し、既に脆弱な立場にある人々に対しては、不必要な圧力をもたらしているのだということを、我々は悟るのである。前述の女性たちは未来のリーダーシップを示すロールモデルのような存在であり、この度の世界的課題に人類としてどう対処し、今後どのように危機から脱出すべきかについて、またとない例を示しているといえる。
(翻訳編集:アジア事業グループ 堀場明子・横木那美)
【参考文献・ウェブサイト】
[1] "Women in Politics: 2020", Inter-Parliamentary Union
[2] Jack Zenger and Joseph Folkman, "Research: Women Score Higher Than Men in Most Leadership Skills", Harvard Business Review
[3] Zameena Mejia, "Barack Obama says women make better leaders—and data shows he’s right", CNBC make it
[4] United Nations Population Fund, "COVID-19: A Gender Lens"
[5] Uri Friedman, "New Zealand’s Prime Minister May Be the Most Effective Leader on the Planet", The Atlantic
[6] "Angela Merkel draws on science background in Covid-19 explainer", The Guardian
[7] "Here’s how Norway is reassuring children over COVID-19 fears", World Economic Forum
*スランゴール州女性エンパワメント研究所
マレーシア・スランゴール州政府のシンクタンク。女性の社会経済的地位の向上や女性の意思決定プロセスへの参画へ向け、調査活動を基に同州の女性政策を策定している。マレー語名はInsutitut Wanita Berdaya Selangor (略称IWB)。ウェブサイトはこちら

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