笹川平和財団(SPF)は、ウクライナ障がい者全国会議(NAPD)共催、日本障害フォーラム(JDF)後援の下、2023年7月から2024年1月の期間に「震災後の日本におけるインクルーシブな復興からの教訓-ウクライナの包摂的復興に向けて」と題したウェビナーシリーズを全6回開催しました。本ウェビナーは、いまだ厳しい戦禍を被っているウクライナへの支援の一環として、ウクライナ社会の復興における重要事項として、障がい者支援に焦点を当て、日本における災害復興の経験と教訓を共有することを目的として実施されました。日本の阪神・淡路大震災や東日本大震災の復興過程から得た教訓をもとに、障がい者団体、研究者、政府関係者、開発援助機関、非政府組織(NGO)などの専門家がオンライン講義を行いました。NAPDは、120の公的組織の会員組織から構成され、ウクライナの全地域のさまざまな障がいや健康状態を持つ人々を代表する非営利組織です。NAPDの協力と呼びかけにより、本ウェビナーシリーズを通じて、ウクライナ全国の障がい当事者や支援団体、NGO、自治体関係者らと情報・意見交換を行いました。毎回、80名から200名が参加し、ウクライナ語および日本語の手話通訳や日本語の要約筆記なども活用し、幅広い背景の方々に参加頂きました。日本からウクライナの現状を学ぶ貴重な機会ともなりました。関係者の皆様に御礼申し上げます。
本ウェビナーシリーズの概要は以下の通り。
[開催期間]
2023年7月から2024年1月(全6回)
[登壇者]※所属・肩書は登壇当時のもの。
- 藤井克徳氏(日本障害フォーラム 副代表)
- 神原咲子氏(神戸市看護大学 教授)
- 立木茂雄氏(同志社大学 教授)
- 竹谷公男氏(独立行政法人国際協力機構 防災分野特別顧問)
小早川徹氏(独立行政法人国際協力機構 中東・欧州部ウクライナ支援室 室長)
- 佐々木敦美氏(岩手県陸前高田市 教育委員会)
青田由幸氏(特定非営利活動法人さぽーとセンターぴあ 代表理事)
- 井筒節氏(東京大学 准教授)
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻から約2年半が経過した今も、国内外で約1,000万人が避難生活を強いられ、約1,460万人が人道支援を必要としています[1]。中でも、多くの障がい者が、不十分な医療・社会・支援体制のもと、居住地に取り残されているのが現状です。国際移住機関(IOM)の推計によれば、ウクライナ国内の避難民のうち、約29%が1つ以上の障がいを抱えた家族とともに生活しています。同時に、戦争の経過とともに、障がいをもつ人の数はますます増えると予想されています。
一方、日本の過去の災害復興経験においても、障がい者は脆弱な立場に置かれてきました。NHKの調査によると、東日本大震災での障がい者の死亡率(1.43%)は、健常者の死亡率(0.78%)の約2倍でした。また、日本障害フォーラム(JDF)が2012年に行った調査では、被災地域の障がい者が移動手段なく取り残され、日用品購入もできない状況を強いられていた状況が明らかになりました。同時に、災害関連死の大半が高齢者と障がい者であったというのも事実です。
戦争と災害は異なります。しかし、破壊された社会、復興ニーズ、そしてその過程で取り残されやすい障がい者という構図には、一定の共通点があると言えます。換言すれば、日本の災害復興経験から得た教訓は、戦争終結後のウクライナ社会の復興に、少なからず活かすことができるものと考えられます。こうした観点から、本ウェビナーの各講義および関連書籍等の情報を踏まえ、より包摂的なウクライナ社会の復興・実現に向けて、以下9つの政策提言を行いました。
[政策提言]
- 障がい当事者による復興過程のあらゆる段階への参加を図る。
- 現存する不平等を認知・配慮し、適切な援助を行う。
- 発災前から社会的弱者にリーチアウトする。
- 地域コミュニティを巻き込み、コミュニティケアを促進する。
- 地域のコンテクストに沿った計画立案を行う。
- 非経済的要素にも注目する。
- データに基づいた政策決定・修正を行う。
- 障がい者の主体性を認め活用する。
- 非常時下にはすみやかに障がい者情報を開示する。
何よりもまず、一日も早く戦争が終結することを祈ってやみません。
そして本提言書内容が、ウクライナの復興過程において活かされ、”誰ひとり取り残さない”社会の実現につながることの一助となることを願います。
提言書はこちらのリンクからダウンロード頂けます。
政策提言のほか、各登壇者のスクリプト・発表スライド、NAPD、日本財団およびJDFによる提言書、参考文献リスト、関連団体連絡先リスト等が掲載されています。