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オーシャンニュースレター

第209号(2009.04.20発行)

第209号(2009.04.20 発行)

海を学ぶ!船を学ぶ!船の科学館

[KEYWORDS] 博物館展示活動/体験学習/海洋教育
(財)日本海事科学振興財団学芸部長◆小堀信幸

博物館では、昨今「対話と連携」が謳われています。
船の科学館が実施している体験学習や展示活動は、海や船に興味や関心を持っていただくための動機付けであり、この興味や関心を持続させ発展させていくためには家庭、学校などとの、正に「対話と連携」が必要であり、課題でもあります。

はじめに

船の科学館は、昭和49(1974)年7月20日、海の記念日(現在は海の日)に開館しました。その設立目的には「次代を担う青少年に対し、人類の文化と経済の発展に大きく貢献する船への理解と認識を深めるとともに、限りない未来に対する夢を育む」を掲げ、船舶を中心とする展示を展開してきました。
その後、平成に入り「ゆとり教育」が推進され、平成12年の学習指導要領改訂にともない「総合的な学習の時間」が学校教育に新たに設けられました。この動きに訴求するように、博物館も体験学習のプログラムを開発するなど積極的な活動が展開されました。
船の科学館においても、この時期より体験学習が博物館活動の大きな割合を占めるようになりました。また、3年前より「海に守られた日本から、海を守る日本へ」とのメッセージを発信するとともに、「海洋基本法」の施行を機に平成19(2007)年7月20日(海の日)、博物館で初めてとなる「にっぽんの海」コーナーを常設展示場に開設しました。
つぎに、これまでに述べた体験学習と展示について概要を紹介します。

海や船を知る体験学習の取り組み

「海鷹丸」を使用した海洋体験学習で、プランクトンの解説に聞き入る子供たち
「海鷹丸」を使用した海洋体験学習で、プランクトンの解説に聞き入る子供たち

「海洋基本法」の施行を機に船の科学館に開設された「にっぽんの海」コーナー
「海洋基本法」の施行を機に船の科学館に開設された「にっぽんの海」コーナー

現在では、社会構造や生活環境の変化に伴い海や船との結びつきが薄れ、学校教育の面においてもほとんど取り組みが行われていない状況から、海や船に興味や関心を示さない子供たちが増えています。そこで私たちは海に触れる、船に乗ることを事業の目的に、シーカヤック体験乗船教室やエンジン付きゴムボート体験操船教室を開設するとともに、周りの環境によって海が様々に変化していくことを体験できるプログラムの海洋教室や、東京の海にも多種多様な生物が棲息することを発見し、外航船が頻繁に入出港する同海域には、なぜ外来種も多く観察できるのかなどを考えてゆくプログラムの海のいきもの観察会などを子供対象に開催しています。これらプログラムを実施して行く中で、子供たちが教室や観察会を通して得た感動や興味・関心を、いかに持続させ次に結びつけられるかなどの課題も生まれています。これらの課題に対しては、日常的に触れ合える親や教師も子供たちと同様の感動や興味・関心を、持っていることが必要であると感じています。子供が興奮気味に親や教師に今日の出来事を語りかけても、無反応であればそれで終わってしまうからです。
また、子供たちの海ばなれ・船ばなれがこのまま進むと、将来にわたって海や船についての研究や利用・開発などに携わる人材不足に陥り、社会の発展にも大きな影を落とすのではないかとの共通認識から東京海洋大学と共催で、海洋体験学習の取り組みを平成16(2004)年から平成19(2007)年の4年間にわたり実施してきました。東京海洋大学の練習船"海鷹丸"の教育・研究施設を使用して、小学生と親や中学生を対象に一泊二日や二泊三日の日程で講義や海洋観測の体験は勿論のこと、配膳や清掃などもチームで取り組むことによる自主性や協調性にも、重きを置いたプログラムです。この体験が参加した子供たちにどの様な刺激を与え、どの様な道に進んでいくのか成果は図りきれませんが、ちなみに、最初の回に参加した男の子の「夏休み!海鷹丸に乗って」と題する作文が、新聞社の作文コンクールに入賞したと母親から喜びの連絡をいただきました。「普段は作文など書いたことのない子供ですが、今回の体験が彼の中でとてもインパクトが強いものであったものと思います」とのことでした。

常設展示・企画展示を通して

船の科学館で開催された「未来へはばたけ、アホウドリたち~写真展~」をご観覧される秋篠宮殿下
船の科学館で開催された「未来へはばたけ、アホウドリたち~写真展~」をご観覧される秋篠宮殿下

平成19年7月20日に海洋基本法が施行され、当館では「海に守られた日本から、海を守る日本へ」のメッセージを掲出しました。これまで国境という概念を持ち合わせない日本人にとって、海にも国境と同じ概念の線引き(領海やEEZ)が存在していることを、認識している方は極めて少ないと思われます。こうした意識を変えない限り、竹島(独島)や尖閣列島の問題を諸外国と対等な議論もできないとの危機感から、日本の領海、EEZを明確に示し、島の領有権の根拠となる史実を展開した「にっぽんの海」コーナーを常設展示場に開設し、広く海を守ることへの意識が芽生えていくことを期待しています。
また昨年は、これまでと違った切り口から、海や島を意識していただくきっかけにする写真展を朝日新聞社と共に開催しました。羽毛を採るために乱獲され、一時は「絶滅」したとまで考えられていた大型の海鳥アホウドリは、長年の保護活動が実を結びおよそ2,500羽までに回復しました。この写真展では、昨年の春、火山島の鳥島から噴火の危険性のない小笠原諸島聟島へ、10羽のひな鳥の移住計画※が始まったことを展示展開するもので、計画を推進する(財)山階鳥類研究所総裁の秋篠宮殿下が、ご観覧のために来館されました。同研究所の島津久永理事長や山岸哲所長から説明を受け、殿下も活発にご質問をなされたご様子で、予定時間を大幅に超過してご観覧されていました。

さいごに

先日、出張先の神戸で何気なくテレビニュースを見ていたとき、韓国で体験学習館がオープンしたとのタイトルテロップが流れていました。その内容は単なる体験学習館ではなく、竹島(独島)が自国領有の島であることを模型などを使用して、対象者である幼稚園児に「竹島(独島)は自分たちの島」を連呼・教化しているものでした。
また、ここ一、二年の間に韓国や中国の方々が、国家プロジェクトとしての海洋博物館建設のため、調査・視察に来館されることが多くなっています。そして、これら海洋博物館の目指すものは、展示構成プランなどを見せていただいた限り、領海やEEZなどについて自国のメッセージの正当性を広く発信するところにあるようでした。
この様な状況を鑑みても、日本はこれまで以上に自国のメッセージを、あらゆる機会に目に見える形で展開していく時期に来ているように思っています。(了)

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