Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第137号(2006.04.20 発行)
第137号(2006.04.20 発行)

ベニアジサシの渡りで判明した沖縄とオーストラリアの関係

(財)山階鳥類研究所標識研究室長◆尾崎清明

日本で夏鳥として繁殖するベニアジサシの越冬地がどこにあるのか、30年近くにわたる調査にもかかわらず不明だったが、2002年にグレート・バリア・リーフ南部で越冬するベニアジサシに日本の足環がついていたことから長年の謎がとけた。
ここ数年、沖縄本島周辺のベニアジサシの営巣数が激減しているが、オーストラリアと日本の架け橋となっているこの鳥のために、繁殖地の無人島を保護区にするなど、何とか共存の道を見つけたい。

はじめに

夏沖縄の海を訪れると、エメラルドグリーンの海の上を飛んでいる、白いアジサシに出会うことがある。運がよければ珊瑚礁のリーフ付近で、ダイビングしている百羽近い群れを見ることもできる。これがベニアジサシで、海鳥の1種である。英名ではRoseate Ternつまり「バラ色のアジサシ」と呼ばれる。頭の上は黒く背中が灰色のほかは全身ほぼ白色で、クチバシと脚が赤い。しかし近くでよくみると、白色と思われた羽はうっすらピンク色を帯びていて、これが英名の由来と思われる。

沖縄で繁殖中に発見されたオーストラリアで標識をつけられたベニアジサシ。

ベニアジサシは、世界的にみると、温帯から亜熱帯、熱帯の沿岸部に広く分布しているが、北米やヨーロッパでは近年個体数が減少しており、絶滅危惧種または危急種に指定されている。減少の原因については長く謎であったが、最近衝撃的な事実が判明した。ヨーロッパで繁殖するものは西アフリカのガーナ付近で越冬しているが、ここで相当数が狩猟されていたのである。同じようなことが、北アメリカで繁殖する個体群の越冬地である南米東部のギアナ周辺でも起こっているらしい。それが繁殖地での個体数減少に大きく影響している、と考えられている。

日本のベニアジサシは大丈夫だろうか?

沖縄での生息状況

日本でベニアジサシは、奄美から南西諸島にかけて夏鳥として繁殖しており、準絶滅危惧種に指定されている。繁殖場所は沿岸部の無人島にほぼ限られていて、これまで見つかった繁殖地で有人島は、本部半島の西に位置する水納島だけである。恐らくこれは人を避ける習性があることと、人に連れてこられる犬や猫などの外敵と共存できないからであろう。

また、釣り人の繁殖地への立ち入りなどが大きく影響することが判っている。それはベニアジサシが狭い島の上に、通常100から500巣の規模の比較的大きな集団で営巣するからであり、とくに産卵期や抱卵の初期には、少しの人為的な妨害があるだけで、営巣を一斉に放棄してしまう。そのためかこれまでに沖縄本島周辺で、約15カ所で営巣が確認されているが、毎年同じ場所であることは少なく、年によって繁殖する島が異なり、同じ年に繁殖が見られるのは、3~5カ所にすぎない。

ベニアジサシの巣は、島の岩だなや草むらのなかに作られる。わずかな枯草や枯葉を敷いて、1~2卵を生む。こうした場所は海面から数メートルからせいぜい10メートルの高さである。したがってせっかく生んだ卵や孵った雛が、台風の高波にさらわれてしまうこともまれではない。ちょうど孵化の最盛期に当たる7月下旬から8月上旬には台風も多い。

それでもこの時期を選ぶのは、恐らくヒナに与える小魚の多い頃に合わせているのであろう。沖縄料理に用いられるアイゴの稚魚「スクガラス」が、大潮に乗って沿岸部に近づくのもこの頃である。

ベニアジサシが小魚をねらって海面にダイビングするところを、水中から眺めたことがある。カツオが高速で泳ぎまわって逃げ場を失ったキビナゴの群れに、上からベニアジサシが次々と飛び込んでくる。その躍動感と美しさにしばし見とれてしまった。

判明した越冬地

ところで、日本のベニアジサシの越冬地はどこにあるのか? その謎に答えるために、1975年から30年間、延べ9千羽に足環を装着してきた。これだけ放鳥してきたにもかかわらず、渡り途中のフィリピンからの報告が1例あるのみで、いっこうに越冬地での発見がなかった。
うれしい便りは突然、オーストラリアから届いた。2002年1月、グレート・バリア・リーフ南部のスウェイン・リーフで、越冬するベニアジサシ1,500羽余りを捕獲したところ、なんと19羽に日本の足環がついていたというのである。沖縄から6,000キロメートルも離れたところまで渡って、越冬していたことが判ったのである。その後も毎年クィーンズランド州公園野生生物局の職員によって調査が継続され、合計87羽の日本の足環が付いたベニアジサシが記録されている。
私も2004年1月、現地を訪れて数年前自分が日本で足環を装着した個体を、何羽も確認することができた。なかには15年以上生きていた個体もいた。ベニアジサシは長距離の渡りをする、寿命の長い鳥である。周辺の海域はグレート・バリア・リーフ海洋公園に指定されており、釣りをはじめとして珊瑚、貝などを持ち去る行為を厳しく制限し、商業船の航行も決められたルートを通らなければならないという規則が設けられている。その面積は33万平方キロメートルと日本全土に匹敵するほど広大である。

保全への課題

オーストラリア、スウェイン・リーフで越冬するベニアジサシの群れ。越冬期にはクチバシと脚は黒くなる。

沖縄本島周辺のベニアジサシの営巣数は、900~4,300巣と年による変動があるものの、比較的安定していた。ところが2002年以降、数百巣に減少してしまった。その理由は、最大の営巣地であった那覇の西にある慶伊瀬島(通称チービシ)に、マリンレジャーのため訪れる観光客が増え、その結果ベニアジサシの繁殖が極端に減ってしまったことが大きい。島を管理する観光業者の計らいで、主要な繁殖地への立ち入り制限をしているが、十分に効果をあげていない現状である。

その他の繁殖地でも、カヌーなどによる島への不特定多数の人の接近が頻繁となり、生息が脅かされている。このまま保全策を講じないと、ベニアジサシの個体数の回復は望めなくなり、沖縄の海から姿を消してしまうものと危惧される。

オーストラリアと日本の架け橋となっている鳥のために、繁殖地の無人島を保護区にするなど、何とか共存の道を見つけたいものである。(了)

ページトップ