角南理事長をモデレーターに、笹川平和財団の阪口秀常務理事(海洋政策研究所所長)、兼原信克常務理事、高原明生理事が登壇しました。
戦後長らく国内総生産(GDP)で米国に次ぐ世界2位だった日本は、バブル崩壊後の低成長を経て2010年には中国に抜かれ、今やその差は4倍以上にまで拡大しています。インドに追い越されるのも時間の問題となっています。東南アジア諸国連合(ASEAN)は緩やかに成長し続けると予測され、南半球を中心とした新興・途上国「グローバルサウス」(GS)は存在感を増しています。国際社会における日本の影響力は、さらに低下する恐れがあるのです。
こうした潮流を踏まえ、兼原常務理事は「あと10年すれば、インドもASEANも日本を抜いていく。後発の国々はばらばらで、自由主義社会に対して敵対的なロシアと中国は、もうイデオロギーで途上国をまとめることはできない。逆に、自由主義社会の中で多極化していき新しいリーダーが生まれてきており、それがインド、インドネシア、メキシコ、ブラジルだ」と付言しました。
そのうえで「これからどういうふうに国際社会をもう1回デザインするのか。新しい日本をデザインする日本人が今、求められている。対内的にも対外的にも、現実主義に立って国家の理性、生存本能というものにもう1回火を起こして、笹川平和財団としても世界と日本をリードしていける人材をつくっていきたい」と語りました。
高原理事は現在を「複合危機の時代」と位置づけました。
「気候変動でこんなに暑い夏が、かつて日本にあったでしょうか。そして(新型コロナウイルスの)パンデミックに加え、世界のあちらこちらで戦争が起きている。人々は大変な不安の中に生きており、安全と安心が失われている。こうした複合危機の時代の中で分断が起きている」
そして、複合危機の時代に対処するうえでの「大事な考え方は、『人間の安全保障』であり、それはすべての人間の命を大切にし、命を守り、人々の暮らしと尊厳を守るということです」と指摘。日本は人間の安全保障を軸に「国際協力を進め、複合危機の時代の多くの共通する課題に対応できるよう旗を振るべきではないか」と提起しました。
阪口常務理事が強調したのは、海洋政策と平和についてです。
海洋は謎に包まれており、90%が未解明だといいます。それはひとつには、調査などに莫大な資金を要するためで、気が付けば地球温暖化により海水温が上昇し、海の生態系にも重大な影響を及ぼしています。阪口常務理事は海洋政策の主な役割として、海洋の解明と国際ルールの構築を挙げ、次のように訴えかけました。
「海は全人類の共通の財産です。その海に対して注力するということは、陸で人間と人間が対立するという構図の真逆。陣取り合戦に注力するよりも、人類が一緒に守っていかなければいけないということが非常に重要なポイントです。共通の財産を一緒に守ろうというスローガンでまとめる力が、海にはあるわけで、本当の海洋政策というのは全人類の平和を目指すべき手段なのです」
さらに「近年、世界中の大学でオーシャンポリシー、マリンポリシーという分野を新たにつくり、海洋の問題に政策論として取り組んでいく方向へ向かっています」とし、「日本に海洋政策を専門とする機関がほとんどなく、笹川平和財団、海洋政策研究所は海洋政策を牽引する第一人者となっています。大学ではありませんが、シンクタンクとして海洋政策を国際的な場でリードしていく立場にあります」と力説しました。