震災復興へ想いをつなぐ日中交流
中国の無形文化財保護団体が輪島漆芸技術研修所に漆を寄贈
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、3月3日(月)、昨年1月に能登半島地震により甚大な被害をうけた現地の伝統工芸関係者を支援するため、石川県立輪島漆芸技術研修所で寄贈品贈呈式を実施しました。
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)のアジア・イスラム事業グループは2月28日、オンラインによる「責任ある企業行動のための対話救済フォーラム2022」を開催し、「グリーバンス・メカニズムの社会実装に向けた取り組みの成果」を中心に討議しました。
国連人権理事会は2011年、「ビジネスと人権に関する指導原則」を全会一致で承認しました。その柱は①人権を保護する国家の義務②人権を尊重する企業の責任③救済へのアクセス―の3つで、人権侵害が起こった場合には司法、行政、立法、その他の手段を通じ適切な救済措置が取られなければならないと規定しています。これに基づく救済するための仕組みや制度がグリーバンス・メカニズム(苦情処理メカニズム)です。また、企業などが人権侵害を防止し、あるいは実際に侵害した場合に対処するための方策と計画を策定し、リスクの特定や、企業活動が人権に与える影響を評価することなどを「人権デューディリジェンス」と呼んでいます。
今回のフォーラムは「グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)」「ビジネスと人権ロイヤーズ・ネットワーク」「ビジネスと人権リソースセンター」との共催です。グリーバンス・メカニズムを推進する目的で2020年から毎年開催し、2021年は、集団的グリーバンス・メカニズムである対話救済センターの構築を目指すことが表明されました。
3回目となった今回は、その対話救済センターのお披露目を目的としています。4月に新たに発足するビジネスと人権対話救済機構(JaCER : Japan Center for Engagement and Remedy on Business and Human Rights)の目的や仕組みを報告し、その正当性や実効性について有識者間で議論が交わされました。冒頭のあいさつで安達一常務理事は、人権と多国籍企業に関する国連事務総長特別代表をかつて務め、ビジネスと人権に関する指導原則の「生みの親」と言われているジョン・ラギー教授(米ハーバード大学)が昨年、逝去されたことに触れ、彼の貢献の大きさに敬意を表するとともに、「われわれはその意志を引き継いでいくことが重要である」と述べました。
ジョン・ラギー氏は昨年のフォーラムで基調講演をされましたが、その中からグリーバンス・メカニズムの部分が、「追悼ビデオ」として第1部の開始に先立ち上映されました。この中でラギー氏は「企業ベースの救済制度や苦情処理の仕組みなどにおける最も重要な基準は、公正で真っ当な制度だと関係者が思えるものであること、アクセスしやすく、予測可能で、透明性が高いことです」と強調しています。
2月15日に萩生田経済産業相は、人権デュー・ディリジェンスガイドラインを今夏までに策定することを表明しています。今回のフォーラムでは、経済産業省の豊田原ビジネス・人権政策調整室長が、最新の取り組みについて説明しました。2020年10月に策定された「ビジネスと人権」に関する行動計画にもとづき、日本産業界の意識向上や取り組みの促進を目的に、特設サイトを設置しセミナーを実施していることを報告。昨年、日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取り組み状況を調査した結果、人権保護・尊重などの方針を策定している企業が7割だったのに対し、実際に人権デューディリジェンスを実施している企業は5割にとどまっており、周知が必要であるとの見解を示しました。今後、国際労働機関(ILO)と共同で海外の好事例集を作成し、日本企業に配布する予定であると述べました。
JaCERの構築を主導したLRQAサステナビリティの冨田秀美代表取締役は、グリーバンス・メカニズムを構築する必要性は高まってきているものの、現状では人権デューディリジェンスが企業の主な課題となっており、苦情処理にまで手が回っていないところが多いと指摘。特にサプライチェーンをめぐる課題に1社単独で取り組むことは、ハードルが高いと強調しました。
こうした課題を解決するために電子情報技術産業協会(JEITA)、笹川平和財団、BHR Lawyersが中心となり、共通の枠組みであるビジネスと人権対話救済機構の設立を計画。この機構は「国連のビジネスと人権に関する指導原則にもとづく非司法的な苦情処理の共同プラットフォームを構築し、中立的な立場から参加企業の苦情処理の支援を行う」ことを目指すとしています。具体的には①苦情処理メカニズムの運用支援②第三者へのアクセス窓口の提供③情報の発信・共有―の3機能を提供していきます。
対話救済ガイドラインの策定に中心的な存在としてかかわってきた蔵元左近弁護士は、ビジネスと人権対話救済機構を、日本企業の既存の内部通報制度やコンプライアンス通報制度を超えるオールジャパンの取り組みと位置づけ、日本企業とすべてのステークホルダー(利害関係者)の対話や救済の取り組みを促進・支援し、経済・業界団体、NGO(非政府組織)、政府との協働を目指していくと述べました。
こうした見解の表明を受け、アラン・ヨルゲンセン(OECD責任ある企業行動センター)、ニコライ・ピーターソン(責任投資原則イニシアティブ)、フィル・ブルーマー(ビジネスと人権リソースセンター)、若林秀樹(国際協力NGOセンター)、田中竜介(国際労働機関駐日事務所)、長澤恵美子(日本経済団体連合会)の5氏がコメントしました。
そこでは欧州委員会が2月23日、人権・環境デューディリジェンスを義務化する法案を発表したことに触れ「企業や投資家はますます国連指導原則の習熟度を高める必要がある」「人権・環境デューディリジェンスの目的は労働者、コミュニティ、環境を不正行為から守ることであり、さらに遵守している企業も法律で担保しなければならない」との見解が示されました。その実効性を高めるためにはサプライチェーンのモニタリング、ステークホルダーとの対話、そしてグリーバンス・メカニズムの活用が重要であるとしました。国内の観点からは、ビジネスと人権対話救済機構の設立について、第三者機関への報告のしやすさを評価する一方、情報開示が遅れており、苦情処理メカニズムがまだ整備されていない日本社会で実効性を高めていくためには、特定の業界のみならずさまざまな団体と議論しながら進めることや、市民社会の関心を高めていくことがカギになるとの見解が示されました。
第2部では「グリーバンス・メカニズムの社会実装に向けた課題」をテーマに、ビジネスと人権対話救済機構の正当性と有効性について、スリヤ・デバ(国連ビジネスと人権ワーキンググループ)、高橋大祐(BHR Lawyers)、四方敏夫(LRQAサステナビリティ)、佐藤暁子(ヒューマンライツ・ナウ)の4氏が議論しました。
デバ氏は国連指導原則の重要な点として、メカニズムがユーザー側から信頼されていること、そして独立していることの2つを挙げました。正当性は国連の指導原則にある8つの要素の1つであり、その他の要素と互いに補完しあっていると補足。正当性の重要な要素として①ライツホルダー(企業が尊重すべき人権の主体)の共同参加②企業と被害者の間などに生じる「力の不均衡」への対処③独立性④有能な人材の確保⑤対応力⑥実効性がある成果―の6つを挙げました。
高橋氏は「ビジネスと人権対話救済機構は組織としての正当性を高めるために、アドバイザリーボードとステークホルダーパネルを設置し、対話救済ガイドラインに従って運営していく。専門機関である助言仲介委員会と調査委員会を設置することで、第三者性を担保することが可能だ」と主張。企業とライツホルダーの双方にとって学びとなり、コミュニケーションをとりやすいプラットフォームを目指していく考えを示しました。
四方氏は「日本産業界の人権に対する取り組みが遅いとの指摘があるが、企業からみるとハードルが高いテーマでもある。日本産業界もようやく始動しはじめたということを、示せたのではと思う。ビジネスと人権対話救済機構は専門家をはじめ、さまざまな人の目が入っていることで正当性が保たれており、設立に携わった人達のヒューマンネットワークには素晴らしいものがある」と強調しました。
佐藤氏は「ライツホルダーに対する救済を提供することに尽きる。ライツホルダーを巻き込んでいくことが透明性の充足につながる。ライツホルダーの視点に立った有効な成果とは何かを共有していくことが、正当性を満たすためには欠かせない」と指摘。企業にとっても予防的観点から、ライツホルダーが声をあげられる環境づくりが重要であり、そのことがライツホルダーとの信頼関係の醸成に繋がるとの見解を示しました。
スリヤ氏は最後に、ビジネスと人権対話救済機構が今後、成功するためには「ライツホルダーが発足前から関与し、対話することができるプラットフォームづくりや、建設的な批判にもとづいた改善点の見直し、独立性と多様性の観点から正しい人選を確保すること」が重要だと主張しました。