続くパネルディスカッションでは、笹川平和財団海洋政策研究所の相澤輝昭特任研究員(当時)と水交会研究委員の池田徳宏氏が発表を行いました。モデレーターは笹川平和財団海洋政策研究所の秋元一峰特別研究員が務めました。相澤氏は「海洋ガバナンス」の概念や、その背景にある「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約(UNCLOS)を踏まえ、「海軍力」の特質と役割について話した後、海洋政策研究所で進めている「海を守る新たな国際構造の創出に係る研究」における「ブルー・インフィニティー・ループ(BIL)」などの概念について紹介しました。
池田氏は、海上自衛隊の活動に関して、中東地域における日本関係船舶の安全確保のための情報収集や、尖閣諸島周辺の情勢変化による新たな課題について指摘しました。中東地域での海上自衛隊派遣については、派遣の根拠が防衛省設置法の「調査・研究」とされているが、任務として日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集のほか、海上警備行動発令の要否の判断と円滑な実施のための情報収集を行っていることから、国内の関係省庁間の協力や諸外国との連携が進むことが期待でき、海上自衛隊の新たな役割として、日本関係船舶の危険が予想される世界中の海上交通路(シーレーン)において、平時から海上交通を保護することが期待されると指摘しました。
また、尖閣諸島での情勢変化の背景には、中国の海警が2018年7月以降、中央軍事委員会の指導を受ける「武装警察部隊」へ「海警総隊」(対外的には海警局)として移管されたことを受け、海軍と海警の連携強化が進められてきたことがあると説明。「中国は法律戦や世論戦を優位に進める作戦として、軍・警・民の一体的活動を行うことが想定される。軍事委員会の体制変更が、わが国の東シナ海における活動をさらに複雑にする要素となっていることに注意が必要だ」と語りました。
笹川平和財団安全保障研究グループの中村進特別研究員より、法制面からのコメントがありました。中村氏は「公海海上警察権」の概念を紹介し、諸外国では近年、「海洋の秩序維持活動」という範囲が拡大していることを説明。また、諸外国の軍隊は一般に国外で活動する際、国際法が根拠となるのに対し、日本の場合はあくまでも国内法の根拠を必要とすることから、今回の派遣も防衛省設置法の「調査・研究」を根拠とする活動となることを指摘しました。
さらに、2001年の自衛隊インド洋派遣の事例を挙げ、今回の中東派遣と同じく「調査・研究」を根拠としながらも目的が異なるため、当時とは調査の内容と行動、対応海域が変わることに言及しました。中東地域派遣では日本関係船舶の安全確保が目的であり、その中には不測の事態が発生した際、任務を海上警備行動へ切り替えることも含意されていると指摘。いつ任務の切り替えがあるか予測できない中で「日本関係船舶の安全確保のために継続的に調査を行いながら、海上警備行動にも備えるというのは例がなく、新しい任務への対応という意味もあるのではないか」と締めくくりました。
パネルディスカッションでは新型コロナウイルス感染拡大による海上自衛隊の活動への影響、「海上自衛隊戦略指針」における努力の方向性に示されている機能のさらなる充実、また、中国との関係では海空連絡メカニズムに海上保安庁も加える必要性などについても議論されました。
最後に、笹川平和財団の茶野順子常務理事が、財団の海洋安全保障研究については今後、安全保障研究グループと海洋政策研究所の間でより横断的な協力を進めていく意向を表明。角南理事長は、海上自衛隊や専門家ら関係者の助言を引き続き頂きながら、財団の海洋安全保障関連事業を進めていく考えを示しました。
*参考情報
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登壇者略歴基調講演パネルディスカッション資料①パネルディスカッション資料➁