震災復興へ想いをつなぐ日中交流
中国の無形文化財保護団体が輪島漆芸技術研修所に漆を寄贈
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、3月3日(月)、昨年1月に能登半島地震により甚大な被害をうけた現地の伝統工芸関係者を支援するため、石川県立輪島漆芸技術研修所で寄贈品贈呈式を実施しました。
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)の安全保障研究グループは3月8日、「日米同盟の在り方研究」オンラインフォーラムを開催し、「統合防空ミサイル防衛構想の中のイージス・アショア代替案」をテーマに議論しました。日本政府が2020年12月、陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の代替案として、イージス・システム搭載艦を建造することを閣議決定したことを受け、イージス・システム搭載艦運用の課題や、日本を取り巻く脅威と抑止力の在り方について、さらに踏み込んだ議論が必要になるとの考えが示されました。
パネルディスカッションには、池田徳宏・元海上自衛隊呉地方総監(海将)、長島昭久・衆議院議員が出席し、小原凡司・笹川平和財団上席研究員がモデレーターを務めました。
イージス・アショア代替案に関する閣議決定では、イージス・システム搭載艦2隻を整備し、海上自衛隊が保持するとされました。池田氏はイージス・アショアで配備される予定だったシステムを装備した搭載艦を秋田県沖、山口県沖に展開させれば、北朝鮮からの弾道ミサイルの脅威から日本全域を防護することができるものの、「これを平素から24時間、365日維持することは不可能だ。2隻で日本全土をカバーすることを構想することはできない」との見解を示しました。
そのうえで代替案の主な問題点として、海上自衛隊の役割が拡大したことによる負担の増大を挙げました。有事における国土の防衛、海上交通路の保護といった本来の任務に加え、冷戦後の30年間に情報収集、警戒監視、海賊対処行動など「平時からグレーゾーンにおける任務が課せられてきた」と、池田氏は指摘しました。弾道ミサイル防衛(BMD)パトロールもその一つです。池田氏は「各艦の行動日数は増加し、隊員や家族の負担はますます大きくなっている」と強調。これに加えてイージス・システム搭載艦を2隻保持するには、約600人の艦艇要員を養成する必要があると指摘し、従来のイージス艦とは異なる運用構想の検討が必要であるとの認識を示しました。
また、代替案は政府が2023年度の運用を目指したイージス・アショアに比べて相当期間、配備が遅れるとし、「安倍首相(当時)が(昨年9月の)退任直前の談話で『北朝鮮は我が国を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有し、核兵器の小型・弾頭化も実現している』との認識を示したことを考えると、現在の進捗があまりにも遅いように感じる」と危機感を示しました。
さらに、池田氏は今後、想定される新たな脅威として①低空で長距離を飛行してくるためレーダーで探知しにくい巡航ミサイル②大気圏内に弾道の頂点がくるディプレスト軌道での弾道ミサイル発射③大気圏内で不規則に滑空する極超音速滑空弾―を挙げました。いずれも大気圏外で迎撃するイージス艦搭載迎撃ミサイル(SM-3)では対応不能なため、池田氏は、ネットワークで情報共有して迎撃する総合ミサイル防衛ネットワークを、陸海空の各自衛隊と米国で作り上げることが非常に重要になると語りました。
長島氏は、日本の統合防空ミサイル防衛構想の目的が、①北朝鮮のミサイルにどう対処するか②接近阻止・領域拒否(A2/AD)環境の中で、中国からのミサイル脅威にどう対応するか-という2つの次元に分かれると指摘。北朝鮮が弾道ミサイル能力を向上させていることにより脅威は増大しているものの、「中国に比べたら発射弾数は限定的だ」と語り、中国の脅威をより深刻に受け止める必要があるとしました。
このような視点から、長島氏は当初のイージス・アショア配備計画について、「北朝鮮のミサイルに対処するために構想されたが、九州から南西諸島までのミサイル防衛にも資するという意味合いもあった」との見方を示しました。そして、イージス・アショアで常時、継続的に弾道ミサイル攻撃から防護できる体制をとることで、BMDパトロール任務から、潜水艦の脅威に対し艦隊を守るといった本来任務に振り向けることができるとの認識を示しました。
長島氏は、米海軍にとってもBMDパトロールが「非常に大きな負担になっている」とし、「日米同盟の協力の視点を忘れてはならない」としました。代替案に関しては、①長期にわたり洋上に止まれるよう、極力長期無補給で稼働できる推進システムを選択する②省人化、無人化、自動化を徹底し、クルー制によってBMDパトロールを継続しつつヘリなどでクルーを交代させ、イージス・システムのオペレーターは陸上自衛隊部隊が担う③陸地に近いところに配備する-といった工夫が必要だと語りました。
さらに長島氏は、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の開発など、「こちらから撃ち込んで(ミサイルを)阻止する打撃力の議論は避けて通れない」と訴えるとともに、「憲法9条に慣れ親しんだ戦後の安全保障言論空間にはフィットしない考えであるかもしれないが、国民の命と平和な暮らしを守るため、冷静な議論を政治の世界でも積み重ねていかなければならない」と述べました。
小原氏はイージス・アショア代替案について、イージス・システム搭載艦に何を選定するかといった狭い視野ではなく、「広く日本の防空、ミサイル防衛全体の構想の中で位置づけ、その艦艇が海上自衛隊の中でどのような位置づけを与えられるのか、他の任務との兼ね合いも考えられなければならない」と指摘しました。
今後のミサイル防衛のあり方に関し、小原氏は「ネットワークを中心とした戦闘という考え方が必要になる」と述べました。小原氏は、洋上に広く展開した艦艇の1隻が弾道ミサイルを探知した場合、リアルタイムで他の艦艇も共有するネットワークを通じた「探知の連続」によって、弾道ミサイルを迎撃するという構想が必要になると説明しました。
パネルディスカッションはYouTubeライブで配信され、視聴者からはイージス・アショア撤回をめぐる顛末について、政府の国民に対する説明不足を指摘する意見が寄せられました。小原氏は「防空ミサイル防衛に関する考え方は広く議論され、オープンであるべきだ。安全保障においては想定していなかったということは許されず、能力に関する議論が必要だ」として、今回のオープンフォーラムの意義を強調しました。