イラン司令官の標的殺害と中東情勢
米国とイランの戦争は回避できるのか?

第2回SPF安全保障セミナー

2020.02.07

第2回SPF安全保障セミナー
 笹川平和財団(東京都港区、会長・田中伸男)の安全保障研究グループは2月5日、財団ビルの国際会議場で、2回目となるSPF安全保障セミナーを開催し、米国とイランの対立の行方などについて議論しました。
 登壇者は水口章・敬愛大学総合地域研究所長、杉本宏・昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員、渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員。山口昇・笹川平和財団参与がモデレーターを務めました。
 水口氏は、イランは中東地域からの米軍撤退、米国はイランの体制変革を戦略目標に据えており、両国の対立は長期的に継続されると指摘。今後起こり得る4つの「危機のシナリオ」を提示し、最も蓋然性が高いシナリオとして挙げたのはイラク、レバノン、パレスチナ、イエメンの「親イラン系シーア派勢力」が米国やイスラエルを攻撃した場合、これを米国は「イランと一体のもの」と見なし報復攻撃に出る可能性です。とりわけイラク国内の勢力による米軍基地などに対する攻撃が、イランの制御が効かない状態で行われる事態が懸念されるとしました。
水口章・敬愛大学総合地域研空所長

水口章・敬愛大学総合地域研空所長

 米国が検討しているとみられるシナリオの「イランの体制崩壊」については、イラン国内に、経済制裁下における政府に対する不満が内在し、イラン革命やイラン・イラク戦争を知らない世代の間で革命体制への不満が増大していることなどを指摘。その一方で、米軍に殺害されたイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の葬儀に際し見られたような、ナショナリズムの高揚があり、「外部勢力と結びついた体制変革が起こる蓋然性は低い」と結論付けました。
 また、2月21日に実施されるイランの国民議会選挙で強硬派が勝利し、あるいはイラン核合意に関しイギリス、フランス、ドイツの3カ国が、国連によるイラン制裁の再開につながる「紛争解決手続き」を進めた場合、イスラエル総選挙(3月)も終わった後の4月か5月に、リスクが高まるとの見通しを示しました。
 杉本氏は、「標的殺害」を「国家が危険人物を特定し、追跡して『狙い撃ち』にする」ことと定義。その特徴として国家による計画的で、「法の適正手続き」を踏まない、安全保障上の脅威除去・軽減を目的とする選別的な殺害である点を指摘しました。
杉本宏・昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

杉本宏・昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

 民主主義の法治国家において政府に許される合法、正当な殺害は、裁判を経たうえでの死刑執行と、戦争での敵兵殺害に限られるとし、「そのどちらでもないのが標的殺害であり、そこに問題の本質がある」と強調。ソレイマニ司令官の殺害については、「平時の公然型」の標的殺害であり、歴代米政権において、平時に主権国家の要人を公然と殺害し、それを認めた初めてのケースだとの見解を示しました。
 そのうえで、トランプ米政権はイラン主導の反米ネットワークの解体という青写真を描いており、今後も革命防衛隊と代理勢力のメンバーなどに対する「非公然型」を主流とする標的殺害を継続し、状況により公然型もあり得るとの見方を表明。戦争の回避は、米国とイランの双方が事態の激化を制御するか否かにかかっており、両国とパイプがある第三国による仲介的な動きも重要になるとの認識を示しました。
 渡部氏はトランプ大統領の特徴の一つに、大統領選挙での再選へ向け明確な行動をとる「再選ファースト(第一)」があり、4日に米連邦議会で行った一般教書演説の中で、ソレイマニ司令官の殺害を安全保障における実績としてアピールするなど、殺害には選挙戦略という側面があるとの見方を示しました。
笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員(左)と、山口昇参与

笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員(左)と、山口昇参与

 司令官が殺害されたことを受けたイランによる米軍基地への攻撃に対し、トランプ大統領は、報復せず経済制裁の強化に止め報復の連鎖を断ち切った結果、「イランと戦争はしたくないが、同時にイランに強硬な態度を取るという相矛盾する2つを達成した」と指摘。ただ、本格的な戦争に発展しなかったことは「運が良かった」とし、今後は誤算などによる偶発的な不測の事態が懸念され「普通なら戦争の淵を覗いた場合、反省して関係構築などの政策をとるのだが、今回は強硬な姿勢を維持しながら、運良く戦争を回避してしまったので反省の機会がなく、第二段階の危機が起こる可能性がある」と述べました。
 司令官殺害に対する米国内の受け止め方としては、①保守とリベラルで評価が両極端に分かれている②共和党系でもリアリストの戦略家には、中東における米国の影響力を低下させ、ロシアなどの力を強めてしまうという危機意識をもっている者が多い③しかし共和党議員は、党支持者におけるトランプ大統領に対する支持率の高さから、批判する立場はとれない―と分析しました。
※詳しい内容はこちら 
(シニアアドバイザー 青木伸行)
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