笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)は2019年10月31日、同財団国際会議場にて第6回「海洋法に関する国際シンポジウム」を外務省と共催しました。「海の憲法」とも呼ばれる海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:United Nations Convention on the Law of the Sea、以下「UNCLOS」とします)(1994年11月16日発効)の発効から四半世紀を迎えることを踏まえ、テーマを「国連海洋法条約(UNCLOS)発効25周年―より自律的・包括的な海洋秩序の実現に向けた挑戦と機会―(UNCLOS at 25 years Challenges and opportunities in seeking an ever more autonomous and comprehensive maritime order)」とし、UNCLOSにかかわる今日的課題を論じ、今後求められる取り組みや体制のあり方を明らかにすることを目指し、基調講演と4つのパネルセッションを設けて、国内外の海洋法の権威ある研究者および実務家計13名にご報告いただきました。シンポジウムには、約200名の在外外交団、政府関係者、研究者、学生などのみなさまにお越しいただき、活発な質疑応答が行われました。
基調講演では、兼原敦子・総合海洋政策本部参与(上智大学法学部教授)が登壇されました。兼原教授は「海洋法は国際法の中でも最も長い歴史をもつ」と指摘された上で、海洋法の権威であるオックスマン(Bernard H. Oxman)マイアミ大学教授の「安定は変化を必要とする」という指摘を引用し、「UNCLOSもまた、安定を維持するためには、現在の国際社会の要件に応えて変化しなければならない」と強調しました。その上で、第一にUNCLOSの現状として「『歴史的権利』に関して限界に直面している。それに対して法的秩序、UNCLOSの有効性をいかに維持するかが課題」と指摘されました。第二にUNCLOSの完全性を担保する上では、「UNCLOSのみ、しかしすべてUNCLOS(only UNCLOS but all UNCLOS)」の原則を守ることによって可能になること、端的に「条文にあるように、UNCLOSの埒外の問題を含む『混合紛争』においては、UNCLOSに関する部分のみを審査する。同時に、UNCLOSに欠けている部分はそれ以外の国際法や規則を適用するということ」を強調されました。そして、第三にUNCLOSがいま変化を迫られていることに言及し、「UNCLOSにおいて国家管轄権外区域における海洋生物多様性(BBNJ)に関する実施協定が議論される中で、根本的な変化が顕著に表れている。それは、公海における規制と海の考え方だ。これまでは部門別に規制が行われてきた。しかしBBNJを保護する上では、生態系アプローチ、つまり分野横断的な規制が不可欠である。そうなると、海の概念が変わらざるをえない。公海は『開かれたもの』と仮定されてきたが、『巨大な閉鎖的な水槽』と考え、そこでの生態系を全体としてとらえて保全・規制していくことになる」と論じられました。