アフリカと日本における協力に向けて:TICAD 7においてブルーエコノミーとブルーカーボンに関するサイドイベントを実施

2019.10.04

 2019年8月27日—28日に、笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)は横浜で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD 7)において、ブルーエコノミーおよびブルーカーボンに関する2つの公式サイドイベントを開催しました。TICADは、日本やアフリカ諸国における官民リーダー間の連携を強化し、持続可能な開発に向けて協力を促進することを目的に、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行およびアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催されています。
 
 2つのサイドイベントは、OPRIによる研究や取組みについて発信することに加え、海洋資源の保全および持続可能な利用を念頭に、世界の海が持つポテンシャルを活かすべく、日本とアフリカ諸国の政府、企業やその他ステークホルダーによるパートナーシップを強化していくことを目的として開催されました。各サイドイベントにおいて、登壇者はブルーエコノミーおよびブルーカーボンに関して協力していくことに大きなポテンシャルがあり、産学官および地域のステークホルダーによる協力体制を築いていく必要性があると強調しました。

【サイドイベント1】アフリカにおける持続可能なブルーエコノミー推進のための協働可能性

ブルーエコノミーに関するサイドイベントの登壇者ら

ブルーエコノミーに関するサイドイベントの登壇者ら:(左から)OPRI渡邉敦主任研究員、東京海洋大学 和泉充教授、ケニア海洋水産研究所 ジェームズ・カイロ上席研究員、OPRI角南篤所長、ナミビア共和国 バーナード・エサウ漁業・海洋資源大臣、モーヴェン・M・ルスウェニョ駐日ナミビア大使、東京海洋大学 東海正副学長、OPRI小林正典主任研究員)

 ブルーエコノミーは、海洋資源の経済的および社会的便益を享受すると同時に、世界の海洋環境を保全するための統合的な取組みを指す用語であり、近年の海洋政策および気候変動対策における議論の中心トピックとなっています。27日のサイドイベントではこの問題に関わる専門家と政府関係者を集め、アフリカのブルーエコノミーを促進する機会について議論しました。

 イベント冒頭では、ブルーエコノミーをサポートする政策に対する国際的な関心の高まりを強調するコメントがありました。OPRIの角南篤所長は開会の挨拶で「ますます多くの国と企業が海洋経済、またはブルーエコノミーの可能性を検討しています」と述べました。また、ブルーエコノミーに焦点を当てた国際会議へのOPRIの広範な参加を概説し、ケニア・ナイロビで2018年に開催された「持続可能なブルーエコノミーに関する国際会合(Sustainable Blue Economy Conference)」の成果を強調しました。 角南所長は「アフリカのパートナーが示した熱意とリーダーシップに非常に勇気づけられた」とコメントしました。

 このサイドイベントの司会をつとめたOPRIの小林正典主任研究員は、ナイロビでの会議の成功についても詳しく説明し、参加した代表団によって約束された持続可能なブルーエコノミーを推進する自発的なコミットメントは約1,720億米ドルであると述べました。また、OPRIとアフリカ諸国との継続的な協力への希望を表明しました。

OPRIの角南篤所長
OPRIの角南篤所長
ナミビアのエサウ大臣
ナミビアのバーナード・エサウ漁業・海洋資源大臣
 基調講演において、ナミビア共和国のバーナード・エサウ漁業・海洋資源大臣は、環境、経済、および社会経済の持続可能性の観点から、ブルーエコノミーに対するナミビアの立場について説明しました。「ナミビアはブルーエコノミーの課題を非常に重視している」と発言し、GDPの29%が漁業、海上輸送、観光、その他の海洋産業分野から生み出されていると指摘しました。
 
 また、エサウ大臣は気候変動に対応するためのイニシアティブの開発、IUU(違法・無報告・無規制)漁業への取組みに関する支援、海底地形図作成、海洋探査、戦略的な環境影響評価などといった科学研究の追求など、日本との協力が可能な潜在的な分野について強調しました。さらに、科学的知見に基づいた持続可能な政策の開発に向けた国際的連携を継続し、漁業やバリューチェーン開発への民間による投資を奨励することも望んでいるとコメントしました。
 
 その後、数名のパネリストがブルーエコノミーに関するイニシアティブを支援する日本の取組みについて説明しました。東京海洋大学の和泉充教授はナミビア大学との海洋問題に関する共同研究や次世代の専門家を対象とした研修プログラムなど、日本および世界におけるブルーエコノミーを支援する同学の広範なプロジェクトの概要について説明しました。
 
 国際協力機構(JICA)農村開発部第二チームの三国成晃専任参事は、セネガル共和国におけるタコ漁の支援やベナン共和国でのティラピア養殖に焦点を当てたアフリカの2つの漁村でのプロジェクトについて概説しました。三国専任参事は、小規模農家、地元の漁師、政策立案者および地元レベルのあらゆるステークホルダーの一体化が、これらのプロジェクトを成功させるための重要な要素であると強調しました。
ケニア海洋水産研究所のジェームズ・カイロ上席研究員

ケニア海洋水産研究所のジェームズ・カイロ上席研究員

 ブルーエコノミーに関連し、ケニア海洋水産研究所のジェームズ・カイロ上席研究員は、ブルーカーボン生態系がより広範な保全目標をサポートする可能性について説明しました。ブルーカーボンはマングローブ、海草藻場、塩性湿地などの沿岸生態系に蓄積されている炭素を指しており、単位面積あたり他の生態系の5〜10倍の炭素を吸収・固定すると推定されており、世界的にも、二酸化炭素の吸収および固定の重要な方法として注目されていると指摘しました。
 
 カイロ氏はブルーカーボン生態系を気候変動イニシアティブに上手く統合した例として、ケニア共和国における「ミココパモジャ・マングローブ植林プロジェクト」を挙げました。同プロジェクトは炭素クレジット市場における売買などを通してブルーカーボン生態系の保全を目指すもので、国際市場における炭素クレジットの売買収益の90%近くは、植林、コミュニティ監視、教育やその他のイニシアティブに使われ、地域コミュニティを支援していると報告しました。
 
 なお、カイロ上席研究員はエビの輸入に対する世界的な需要などといった国際的な圧力により、地元の漁家に長期的な環境の持続可能性よりも短期的な経済的利益を優先させることもあると指摘し、「国際社会は、海洋の持続可能性のために、回復力のある生態系が必要であることを理解する必要があります。経済と人々を支援することは、環境も支援します」と説明しました。
 
 その後のパネルディスカッションにおいて、パネリストは能力構築や意思決定プロセスへの幅広い参加の必要性を強調したほか、新しい技術の適用とステークホルダーの協力による革新的な政策の支援が必要と述べました。閉会挨拶において、東京海洋大学の東海正副学長は日本および海外における次世代のブルーエコノミーの専門家育成を目指す同学の新しいプログラムについて言及し、ブルーエコノミーを促進するためにもっと幅広いステークホルダーの参入を呼びかけました。

【サイドイベント2】ブルーカーボン生態系の保全、再生と持続可能な利用:成功事例の共有と日アフリカ間での協働に向けた議論
ブルーカーボンに関するサイドイベントの登壇者ら

ブルーカーボンに関するサイドイベントの登壇者ら:(左から)OPRI渡邉敦主任研究員、東京海洋大学 藤田大介准教授、OPRI角南篤所長、ZERI Japan グンター・パウリ スペシャル・アドバイザー、ケニア海洋水産研究所 ジェームズ・カイロ上席研究員、横浜市温暖化対策統括本部 奥野修平副本部長、OPRI小林正典主任研究員)

 28日のサイドイベントはブルーカーボンにおける最新の動向に焦点を当て、国際的連携の可能性について探ることがテーマとされました。パリ協定の実施に向け世界的な気温上昇を遅らせるための国際的コミットメントの勢いが増しているなか、大量の炭素を吸収し、固定する可能性のあるブルーカーボン生態系の保全は、ますます気候政策において重要な側面であると見られています。
 
 サイドイベントの冒頭でOPRIの角南篤所長は「アフリカ諸国はブルーカーボンに大きな可能性を秘めている」とコメントしました。アフリカ諸国において広大なマングローブ、海草、海藻などの生態系がありながら、短期的な経済的利益を追求するための乱用と搾取が行われていることについても言及し、このような行為が保全の進捗を妨げていると説明しました。「ブルーカーボン生態系の持続可能な利用は、沿岸地域におけるコミュニティに利益をもたらすとともに、気候を調整する役割も果たす」とコメントしました。
 
 前日に続いて本サイドイベントのモデレーターをつとめたOPRIの小林主任研究員は、2018年にポーランドで開催された国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(UNFCCC COP24)などのグローバルな政策対話へのOPRIの積極的な参画について説明しました。また、ブルーカーボンに関する近年のOPRIの活動について、岡山県日生市におけるアマモの再生活動などといった社会的・経済的利益をもたらしたさまざまな事例研究を紹介しました。

地球環境ファシリティ(GEF)の石井菜穂子統括管理責任者(CEO)兼任議長

GEFの石井菜穂子統括管理責任者(CEO)兼任議長

 基調講演において、地球環境ファシリティ(GEF)の石井菜穂子統括管理責任者(CEO)兼任議長は、気候変動の問題や海洋生態系による炭素の吸収・固定などの重要な役割に関して一般社会の認識が上がってきていることについてコメントし、この流れに乗ることは科学者や政策立案者にとって、大事なチャンスであると指摘しました。また、科学者たちが世界に向けて警鐘を鳴らしているところ、このメッセージを現場での具体的な行動につなげることが非常に大事なことであると述べました。
 
 この状況を受け、石井氏は政策に関していくつかの提言を述べました。はじめに、海洋利用に関する総合的かつ分野横断的な協定を確立するための国際的な取組みを示し、海洋生態系の生態学的価値だけでなく、保全の経済的および社会的利益についても公表できるシステムが必要であると述べました。また、気候部門への投資の重要性についても指摘し、例としてセーシェルで確立されたブルーボンド制度のような新しい金融メカニズムを挙げました。
 
 横浜市温暖化対策統括本部の奥野修平副本部長は、2050年までにカーボンニュートラルの目標を達成するために同市が確立を目指す気候イニシアティブについて説明しました。この取組みのうち、二酸化炭素の排出量を削減することに対してクレジットを出す「カーボンオフセットプロジェクト」が含まれており、このクレジットは大規模な公共イベントからの排出量を相殺(オフセット)するために使用されていると説明しました。奥野副本部長は 2014年にプログラムが開始された当時3.1トンであったクレジットシステムによるオフセット量が、2018年には164.4トンに増加したと発表し、同プログラムにおいて今後ブルーカーボンを取り入れ、拡大する計画について言及しました。
 
 OPRIの渡邉敦主任研究員は、日本においてブルーカーボン生態系の保全・再生に成功し、地元のステークホルダーを一体化させた2つのプロジェクトについて発表しました。地元の漁師が地域の海草を再生して地域の漁業を復活させるイニシアティブを確立した岡山県の備前市や、サンゴ礁環境の再生と保全のために、地域コミュニティがモズクの売上の一部をこうした活動に還元する金融システムを作成した沖縄の恩納村における事例について説明しました。
 
 東京海洋大学の藤田大介准教授は、日本の沿岸に分布する大型藻類の藻場を中心に、海藻のさまざまな利点について発表し、海藻の生態系は炭素の吸収体としてだけでなく、人間への栄養、他の水生生物の安全な避難所、海水中の光と波の減少などを含む他のコベネフィット(共同便益)も提供すると言及しました。また、前日のサイドイベントでも発表を行ったケニア海洋水産研究所のカイロ上席研究員は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を含め、ブルーカーボンの課題を気候変動アジェンダの下で主流化していく戦略を検討すべきと発言しました。
ZERI Japanスペシャル・アドバイザーのグンター・パウリ氏

ZERI Japanスペシャル・アドバイザーのグンター・パウリ氏

 Zero Emissions Research&Initiatives(ZERI)Japanのスペシャル・アドバイザーをつとめるグンター・パウリ氏は、海藻の自然の特性を活用する大きな構想について概説し、海洋プラスチックごみの除去を支援するだけでなく、新しい再生可能エネルギーの燃料源として活用する可能性について言及しました。モロッコにおける海藻養殖プロジェクトを進めていた際、パウリ氏のチームはマイクロプラスチックの吸着により海藻の成長が著しく阻害されることを偶然発見したと言い、「これは海藻にとって悪いニュースだったが、海洋からマイクロプラスチックを除去することを可能にする方法を見つけたので良いニュースでもあった」と述べました。
 
 この発見に基づいて、パウリ氏は海からマイクロプラスチックを収集し、除去するために、世界中の海岸線に沿って海藻カーテンを設置する提案について説明しました。これらのプラスチックの小さな破片が海藻の外側に付着するため、温水での洗浄または嫌気性処理により簡単に除去でき、処理後の海藻を代替エネルギー源としてバイオガスを生成することができると発言しました。
 
 パネルディスカッションにおいて、パウリ氏による海藻カーテンの提案に対して多くのパネリストやイベント参加者が興味を示しました。パウリ氏はこの新しいイニシアティブを開発するために、アフリカ諸国と日本の間でさらなる協力が必要であると指摘しました。最後にOPRIの小林主任研究員はブルーエコノミーと持続可能な開発を前進させる方法として、ブルーカーボンの推進により多くのステークホルダーを取り入れるための革新的なアプローチについてさらなる議論と開発が必要であるとコメントし、イベントが締めくくられました。
 
(特任調査役 ジャッキー・エンズマン 訳=SPF)

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