第163回海洋フォーラム「持続可能な漁業と改正漁業法
――日本の水産業の課題と展望」を開催

2019.08.06

(画像)第163回海洋フォーラムの会場の様子
 笹川平和財団海洋政策研究所は6月14日、第163回海洋フォーラムを開き、水産庁の長谷重人長官をお招きして「持続可能な漁業と改正漁業法――日本の水産業の課題と展望」をテーマに講演していただきました。

 昨年12月、70年ぶりの大改定となる改正漁業法が成立しました。モデレーターの小林正典主任研究員は、同法は「意欲的な漁業者がより持続的な漁業を実現する枠組みを提供するものとして、内外から注目されている」と解説。さらに「長谷長官の率直で屈託のないお人柄、持続可能な水産業を実現させようという熱い思いが同法成立を推進したと多くの関係者が理解している」と紹介しました。

 長谷長官は北海道大学水産学部を卒業後、1981年に技官として農林水産省に入省。おもに漁業調整や資源管理の分野でキャリアを重ねられ、2017年7月に長官に就任されました。「技官出身の長官は60年ぶり」(長谷長官)とのこと。
(画像)長谷成人・水産庁長官

長谷成人・水産庁長官

いまなぜ改革か

 そもそも、いまなぜ水産政策改革なのでしょうか。

 「漁業をめぐる状況が大きく変わってきた」からだと長谷長官は説明します。1つは、地球環境の変化。魚が大きな影響を受けています。2つ目に、外国漁船の航行の活発化。そして3つ目に、日本が本格的な人口減少時代に入ったこと。食料産業である水産業にとって大問題です。こうした中で「水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢バランスのとれた漁業就業構造を確立することを目指す」のが今回の改革です。

世界と日本の漁業の状況

 講演ではまず、前提として漁業をめぐる状況の解説がありました。

 長谷長官によると、世界の人口、食用水産物消費量はともに年々増加しており、水産物の総需要量は、今後も増加していくことが見込まれます。また、海面漁業生産量は頭打ち感が出てきており、今後、養殖業の割合が増すことが予想される状況です。

 一方、日本の漁業生産量の推移をみると、ピークは1984年で1,200万トン。その後減少傾向で、2016年は436万トン、対前年比27万トン(6%)減です。

 日本の周辺海域は栄養素や魚を運んでくる親潮や黒潮などの海流がぶつかることで豊かな漁場が形成されており、領海である排他的経済水域(EEZ)等の面積は、世界第6位の447平方キロメートル。ただし、韓国、中国、ロシア等との間の水域でEEZの境界線が未確定であり、国交さえない北朝鮮とも海で接しています。

 こうした中で外国漁船の操業が活発化しています。「日本のEEZで操業する外国漁船に対しては、退去警告をします。それに従わなければ、水産庁は海上保安庁とともに放水して退去措置をとります。日本の海上ではこうした攻防が繰り広げられている」のです。2018年にはのべ5,315隻に対して退去警告を行い、うち2,058隻に対して放水措置を実施しました。

 日本の漁業の特徴の一つは「300~400年の伝統をもつといわれる定置網が沿岸漁業の4割を占める」こと。網を定置し、そこにかかった魚を獲る定置網は「沖に出て魚を追いかけて獲る漁船漁業と比べ、燃料を使わずにすむ」環境配慮型の漁法です。

水産政策の改革――将来の水産業の発展に向けて

 つづいて、改革の内容の説明がありました。

 改革の柱の一つは「資源管理」。「獲り控えることで、資源を維持・増大し、安定した漁業を実現」します。そのために「漁船の数ではなく漁獲量自体を制限する漁獲可能量(TAC)制度に軸足を移します」。

 また、今後は、資源管理の目標を、米国・欧州連合(EU)諸国とともに、現在の環境下において持続的に採捕可能な最大の漁獲量(最大持続生産量[MSY])とします。この基準を実現するTACを決定することになります。これに対して長谷長官は「資源調査を拡充することが前提」。「より多く、より安定して漁獲できる目標水準を研究機関に算出してもらい、そこに向かって漁業者や行政などが合意を形成しながら取り組んでいくようにしたい」と付言されました。

 さらに「水産外交をさらに強化する」ことも喫緊の課題です。サンマの漁獲量は2013年、台湾が日本を抜いて最多となりました。「日本の漁業者に獲り控えをお願いする中で、日本の水域に近い公海域で中国や台湾の漁船が乱獲している状況があっては、説得力を持ちません」。水産庁は、日本や中国、台湾など8カ国・地域が資源管理を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)に、公海での漁獲枠の導入を提案していますが、合意は得られていません。

 縮小傾向にある遠洋・沖合漁業については、個別漁獲割当制度(IQ)を導入します。また、漁業許可制度を見直し、トン数制限など安全性の向上に向けた漁船の大型化を阻害する規制を撤廃します。「良好な労働環境のもとで最新機器を駆使した若者に魅力ある漁船をつくる」ことの必要性が強調されました。

 養殖・沿岸漁業については「漁業権制度を堅持しつつ、沿岸における海面利用制度を見直し」、意欲的な漁業者、地域の発展に寄与する個人、団体が、漁業、養殖業に参加できる枠組みを提供します。人口減少時代を迎え、漁業従事者数も減少している中で、漁場の利用が低下している水面の有効利用を図るための改革であり、「水域を適切・有効に活用している方の権利は保障しつつ、国内外の需要も見すえ、戦略的に養殖を振興していきたい」考えです。

 あわせて、新たな技術を駆使した水面の相互利用を図るとし、「すでにAIなど最新技術を駆使した沖合での海苔養殖がパイロット的に実用化」されています。

 水産物の流通・加工については「拡大する外国市場を意識した生産を可能にする」とともに、深刻な外国漁船の違法操業問題に対しては「漁獲証明制度を整備し、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)を可能にする仕組みを構築」します。この点に関しては、次の法改正に盛り込むべく準備を進めているということです。

 最後に長谷長官は「海外の市場を意識しながら資源の底上げを図り、若者に魅力ある漁船漁業をつくり、水産業を持続的なかたちで継続発展させていきたい」。「厳しい状況の中で、2019年度、水産予算の増額を認めていただいた。それが一過性のものとならないように、理解を得ながら、新たな取り組みを打ち出していきたい」と抱負を述べられました。

質疑に応えて

 講演につづいて行われた質疑応答では、多岐にわたる意見や質問が寄せられ、それら一つひとつに真摯にお答えいただきました。

 漁業者から、海面利用制度の改革において、低利用になっている海面への新規参入により環境が大きく変わる可能性への懸念が明かされると、「漁場を適切・有効に活用している方には優先して免許していく」ことを強調し、「漁協など地域の実情をわかっている方々に水面の有効活用についての計画立案や、行使実態を把握・報告していただくことも制度に入れている」と説明されました。

 また、今年4月、世界貿易機関(WTO)上級委員会が、韓国が福島第一原発事故をきっかけに行っている日本産水産物の輸入禁止を違反とする小委員会の判断を取り消しました。この影響について問われると、「ほんとうに残念」と言葉を詰まらせながらも、5月にはフィリピンが福島のアユなど一部魚種に対して実施していた輸入停止措置を解除したことを紹介し、「安全性を徹底的にモニタリングし、発信していく」。「被災地の方々にはがっかりさせてしまったが、違うかたちで応援していきたい」と決意を述べられました。

(ジャーナリスト 鈴木順子)

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