第161回海洋フォーラム「海とヒトの関係学」を開催

2019.05.17

(画像)第161回海洋フォーラムの会場の様子
 笹川平和財団海洋政策研究所は4月17日、第161回海洋フォーラムを開催しました。同研究所は2月に書籍「海とヒトの関係学シリーズ」の第1巻『日本人が魚を食べ続けるために』と第2巻『海の生物多様性を守るために』を刊行しました。今回のフォーラムでは、同シリーズの編著者・執筆者の5名を招き、その内容紹介を通じて海洋の将来に向けた議論を行いました。
 
 同シリーズの母体は、同研究所が2000年8月より月2回発行する『Ocean Newsletter』。国内外で活躍する海洋に係わる方々からいただいた海をめぐるさまざまなオピニオンを、専門家だけでなく広く一般の方々に向けて発信してきました。2019年4月5日発行号で448号を数える同誌に掲載された記事は約1,350篇。これら貴重な知恵の蓄積を統一のテーマで貫いた論集が同シリーズです。
(画像)秋道智彌・山梨県立富士山世界遺産センター所長

秋道智彌・山梨県立富士山世界遺産センター所長

「海とヒトの関係学」にこめた想い

 同シリーズの編著者でもある角南篤・笹川平和財団海洋政策研究所長の冒頭挨拶を引き継いで、同じく編著者であり、『Ocean Newsletter』の編集代表を12年間務めた秋道智彌・山梨県立富士山世界遺産センター所長が、その内容を紹介し、日本の海洋政策の課題を述べました。
 
 秋道氏によると、シリーズ名を「海とヒトの関係学」としたのは、「人と海とのさまざまなかかわりは環境から文化、教育、経済、技術、エネルギー、安全保障、政治まで多岐にわたることから」。「複眼で海と人間のことを考える」のが本シリーズの特徴です。
 
 秋道氏と同書によると、第1巻は日本人になじみ深い海の食文化がテーマ。魚食の未来を自然から経済、文化、漁業権・IUU漁業、地域振興などを含む複雑系の現象としてとらえる視点を提示します。また、第2巻のテーマは生物多様性。生物多様性の保全とあわせて、海洋ゴミ問題を生態系のなかで位置付けて今後の対策を考えます。
 
 秋道氏は「いま、世界の海が危ない。日本の魚食が危ない」と警告します。第2巻で論じられるように、「微細化し海に漂うプラスチックに付着した有害物は分解されることなく海の生き物に蓄積され、人間はそれを食物として摂取することになる。自ら生み出した文明の道具が最終的に自分に害を及ぼすものとして跳ね返ってきているのです」。
 
 そうしたマイナスの事象がある一方で、世界では海の生態系を守るために資源開発、漁業、観光などを規制する『海洋保護区』を設定する動きも活発化しています。中でも日本は古くから沿岸環境を保全し、海洋保護区と呼べる海域は1,000カ所以上存在することから、「国連の持続可能な開発目標(SDGs)の14番目に『海の豊かさを守ろう』が掲げられていますが、それに追随するだけでなく、魚食と海洋保護区の長い歴史をもつ日本だからこそ、独自の海洋政策を積極的に打ち出すべき」と提言しました。
(画像)高橋正征・東京大学名誉教授

高橋正征・東京大学名誉教授

これからも魚を食べ続けるためには

つづいて、第1巻に「これからも魚を食べ続けるためには」を執筆した高橋正征・東京大学名誉教授が講演しました。

 高橋氏は「現行の7,000万トン弱の漁獲は天然の魚の生産性を考えると獲りすぎ」と指摘します。一方、1950年以来、世界的に魚の消費量は増え続けています。こうした魚の需要を支えているのは、以前は天然魚の漁獲でしたが、50年ほど前から養殖の割合が増えはじめ、2014年にはついに養殖生産量が漁獲量を越えました。
 
 世界の魚の需要を支えていくうえで、高橋氏は「漁獲と養殖の両者のバランスが重要になります。当面、漁獲は10%、養殖は90%を目標としてみてはどうか」と提言。現在はほぼ半分ずつの割合です。「今後も多様な天然魚を楽しむ文化を社会に残していくために、天然の漁獲の利用が可能な仕組みをつくることが日本の課題」と指摘しました。
(画像)風呂田利夫・東邦大学名誉教授

風呂田利夫・東邦大学名誉教授

ホンビノスガイから考える沿岸域の生態系

次に、第2巻に「ホンビノスガイは水産資源有用種か生態系外来種か?」を執筆した風呂田利夫・東邦大学名誉教授が講演しました。
 
 ホンビノスガイは2000年以降、東京湾で分布と密度が急速に拡大し、今では湾を代表する大型二枚貝となりました。同種は北アメリカ太平洋岸原産の劣悪な環境への耐忍性がある外来種です。
 
 「東京湾の環境とホンビノスガイは密接な関係がある」と風呂田氏は指摘します。「東京湾にホンビノスガイが定着、増加したのは、干拓や埋め立てが進んで干潟が消失したことや、赤潮などによる有機物増加により海底が貧酸素化し、アサリやバカガイ(アオオヤギ)などの在来種が生息しづらい環境へと劣化した結果。こうして空き家状態になった底質環境に居場所を見出すことで、東京湾に自らの生息場を確保してきたのです」。つまり、アサリなどの在来種が住める環境であれば、ホンビノスガイの居場所はなくなるということです。
 
 「江戸前本来の味覚を取り戻すうえでは、アサリ等の在来種が安定して生息できる環境に復帰させることが不可欠」です。そのためには、環境改善とともに、ホンビノスガイを「漁業や潮干狩りによる捕獲(駆除)などで積極的に有効利用しつつ、生息を必然的に抑制する」ことも一つの手立て。こうした「さまざまな要素をふまえて東京湾の環境改善を考える必要がある」と指摘しました。
(画像)八木信行・東京大学大学院農学生命科学研究科教授

八木信行・東京大学大学院農学生命科学研究科教授

海とヒトの関係から考える海洋保全の未来像

 最後に、第2巻に「日本の海洋保護区の課題とは」を執筆した八木信行・東京大学大学院農学生命科学研究科教授が講演しました。
 
 最初に秋道氏が紹介したように、日本の海洋保護区の歴史は長く、数も多い。さらに八木氏は、日本の海洋保護区は一つひとつの規模が小さいこと、沖合ではなく沿岸につくられていること、多くは漁業者が策定していることを特徴としてあげました。
 
 一方、世界の海を見渡すと「ペーパー保護区」が存在します。それは「書類上は保護区になっているが、現地で誰もモニタリングや取り締まりなどを行っていないので、規制が認知されていなかったり、無視されていたりする場所」です。面積が広大で、沖合に設定されている保護区などは、当事者への周知徹底が不完全になりがちで、ペーパー保護区になりやすい要素があるといいます。
 
 八木氏は「海洋に保護区を策定する行為は、海と人間のかかわり方の一形態」。「海洋保護区を議論するにあたっては、海の生態系を人間がどのように認識しているかを考慮する必要がある」と話し、「海への関心事項(海の資源をどう利用したいか)」と、「生態系のなかで人間(自分)がどのような立ち位置に存在しているかの認識」との関係を整理した座標軸(第2巻168頁)を示しました。
 
 保護区を新しく設定しようとすると、「生態系とは離れた立場にいる人」ほど反対の立場をとり、「生態系の内側に自分が位置していると考える人」ほどその管理や運営に協力的になることが予想されます。
 
 「日本人は自らを自然の中に立っていると位置づける人が多い一方、欧米の人は生態系の外に立っていると思っている人が多いという調査結果があります。また、漁業者は、生態系の中に立っていると考え、海を食糧調達、生活の場ととらえている人が多い。したがって、海洋を保護する動機が強い。日本でペーパー保護区が生じないのは、こういう層が多いからではないか」と分析します。
(画像)パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

将来に向けて取り組むべきこと

 角南氏と秋道氏がモデレータを務めたパネルディスカッションでは、「3つの講演のテーマは独立しているけれども、インタラクションがある」(秋道氏)ことから、それぞれ専門の立場から自分以外の講演への意見や質疑を交換し、議論をふくらませました。さらに、フロアーからも本質に迫る質問やコメントが多数寄せられました。
 
 子どもが海への親しみを感じていない傾向がみられることへの懸念がフロアーから提起されると、風呂田氏は「政策として海洋の実体験の機会を子どもたちに提供する必要がある。それも、視覚だけでなく、味覚や触覚など強い感覚での海に関する経験をもってもらうことが大事」、さらに秋道氏は「日本人と自然の付き合い方に関する情操教育、『命をいただく』ことに目を向ける食育が重要」と教育のあり方にも言及しました。
 
 最後に秋道氏から、第3巻のテーマは「海はだれのものか」で、世界の海における紛争やその解決をめぐる諸問題を論じることが明かされました。「より広い視野から自由な発想をもとに海の問題を考えるためにも、ぜひ手に取ってください」と熱く語り、閉会しました。
(ジャーナリスト 鈴木順子)

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