震災復興へ想いをつなぐ日中交流
中国の無形文化財保護団体が輪島漆芸技術研修所に漆を寄贈
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、3月3日(月)、昨年1月に能登半島地震により甚大な被害をうけた現地の伝統工芸関係者を支援するため、石川県立輪島漆芸技術研修所で寄贈品贈呈式を実施しました。
笹川平和財団ビルの国際会議場は満席に
「大綱」は、10年程度の期間を念頭に、日本を取り巻く安全保障環境を踏まえ、防衛力のあり方と保有すべき防衛力の水準を規定しており、「日本の平和と安全を確保するためのグランドデザイン」と表現することができます。「大綱」に示された防衛力の目標水準を踏まえて5年間を対象とする防衛力整備の計画「中期防」を策定し、この計画に基づいて各年度の防衛力整備を行うこととされています。
フォーラムではまず、中大路1佐から「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」(30大綱)の主要点について解説がありました。
「30大綱」の冒頭には「策定の趣旨」が次のように記されています。
「国際社会のパワーバランスの変化は加速化・複雑化し、既存の秩序をめぐる不確実性は増大している。真に実効的な防衛力を構築するため、防衛力の質・量を必要かつ十分に確保していく。
今回の「大綱」では新たな防衛力の概念として「多次元統合防衛力」が示されていますが、これは宇宙やサイバー、電磁波などの新たな領域や陸・海・空等の従来領域を含むすべての領域における能力を有機的に融合する領域横断(クロス・ドメイン)作戦により、個別領域での劣勢を克服しようとするものです。
この考え方を実現するため、あらゆる分野において陸・海・空自衛隊の統合を進めることとしており、例えば、共同の部隊としてサイバー防衛部隊が創設されます。これは日本への攻撃があった際に相手方のサイバー空間の利用を妨げる等、サイバー防衛能力を強化するものです。また、電磁波領域についても、これに係る情報収集・分析や侵攻を企図する相手方のレーダーや通信等を無力化する能力の保持なども目指します。
特に海上自衛隊(海自)に係る事項について言えば、従来から整備を進めて来たイージス・システム搭載護衛艦が8隻体制となり、これを引き続きミサイル防衛(BMD)などに使用するほか、共同の部隊として海上輸送部隊も創設されます。
続いて、中大路1佐から「30大綱」から読み解くことができる海自の具体的な活動や新たに導入される装備、態勢などについて紹介がありました。
新防衛大綱について解説する中大路真1等海佐
水上艦艇部隊は、多様な任務への対応能力を向上させた新型護衛艦(FFM)を含む護衛艦部隊、掃海艦艇部隊及び艦載回転翼哨戒機部隊を維持強化するとともに、これらにより構成される新たな水上艦艇部隊を編成します。この中ではBMD対処能力を有するイージス艦8隻を含む護衛艦54隻体制を維持しますが、この他に新たに哨戒艦12隻を導入します。そしてこれに関連した新たな試みとして、新型護衛艦等においてはクルー制を導入します。クルー制とは艦艇に固有の乗員を配置するのではなく、チーム単位の乗員を複数の艦艇間で一定期間毎に交替させる仕組みであり、乗員の休養期間を確保すると同時に、検査・修理以外の艦艇の停泊期間を短縮し、運用効率の向上を図るものです。
また、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機の運用を可能とするよう「いずも」型護衛艦の改修を実施します。日本の太平洋側洋上では防空用レーダー網が少なく、戦闘機が離着陸できる滑走路を有する空港もほとんどありません。このため必要な場合には戦闘機を艦艇において運用することで防空態勢を強化しようとするものです。
このほか弾道・巡航ミサイルを迎撃する「総合ミサイル防空能力」の整備も強化します。「中期防(31年度~35年度)(31中期防)」においては、イージス・システム搭載護衛艦(DDG)の能力向上、弾道ミサイル防衛用迎撃ミサイル(SM-3)及び長射程対空ミサイル(SM-6)の整備などを行うほか、護衛艦と護衛艦の間で連携した射撃が可能となるネットワーク(FCネットワーク)の研究開発を行うことが予定されています。
潜水艦部隊においては周辺海域の防衛及び警戒監視任務などを有効に行うため引き続き22隻体制への増勢を進めますが、やはり可動日数の増加、運用の効率化ということを重視しています。このため既存の潜水艦を種別変更した試験潜水艦を新たに導入します。これは従来、各潜水艦が分担して実施していた試験業務等を一手に担うことにより、その他の潜水艦が本来任務である警戒監視などに注力できるようにするためのものです。
後方面については、平時から有事までのあらゆる段階における継続的、安定的な部隊運用に資するよう、海上優勢確保に必要な魚雷等の整備を推進するとともに、作戦時の燃料補給の安定化などのための油槽船(タンカー)を新たに導入します。 新たな技術、装備の導入については、無人航空機(UAV)の導入、無人水上航走体(USV)・水中無人機(UUV)の研究開発等、無人化の取り組みを重点的に進めます。これは隊員を直接の危険に晒す機会を局限するという目的のほか、省人化推進ということも念頭にあり、先に述べたFFMや潜水艦の設計改善による省人化の取り組みも併せて推進していくこととされています。
なお、このことにも関連して中大路1佐は人的基盤の強化が極めて切実な課題であると強調しました。「防衛装備品を中心に紹介してきたが、どんなに優れた装備があっても人材がいなければ意味をなさない。喫緊の課題は人材の確保」としつつ、人口減少・少子高齢化が進む中で、自衛隊員の担い手不足に対処するため、採用年齢の引き上げや定年の延長、生活・勤務環境の改善や処遇向上などを進め、併せて技術革新の成果を活用して無人化・省人化に努めるということでした。
会場からは多岐にわたる質問が出された
総合的な防衛体制の構築のための施策として言及のあった「戦略的なコミュニケーション」(近年、米国はじめ国際社会で注目を集めるようになっている情報発信の考え方)について説明を求められると、「これは重要な概念。国家の意思、もしくは打ち出したいメッセージに対して、防衛省はじめ各省庁、関係機関が協調して一貫した継続的な働きかけをすることが特に重要」として、海自は「戦略的な寄港の機会を作為し、ハイレベル交流やメディアに対する発信によって日本の考えを伝え、対象とする国や人々とのコミュニケーションを実施することで、望ましい安全保障環境を作り上げることを期待し、継続的に一貫した活動を重ねてきた」と述べられました。ただし「ニュースバリューが伴った形で実施し、発信しないとなかなか受け入れてもらえないという難しさもある」と付言されました。
中国が膨張政策をとっている状況下、地域や国際社会との協調の中で如何に中国と関わっていくかという観点で実務レベルでの方策について問われると、「防衛交流は可能。カウンターパートとの交流を進め、互いに相手の考え方や価値観を理解していくことが重要。ボトムアップで国対国の関係に良い効果をもたらすことは期待できる」と言及されました。
また、一般的にも関心が高いと思われる「いずも型」護衛艦の改修に係る質問については、「巷(ちまた)では『空母化』といわれているが、『いずも』型護衛艦での運用が想定されるSTOVL機が将来的にどの程度の能力をもつのかといった点も考慮すれば、自ずから限界もあり、当初の運用構想どおり『多機能な護衛艦』と考えるのが妥当ではないか」と説明されました。