震災復興へ想いをつなぐ日中交流
中国の無形文化財保護団体が輪島漆芸技術研修所に漆を寄贈
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、3月3日(月)、昨年1月に能登半島地震により甚大な被害をうけた現地の伝統工芸関係者を支援するため、石川県立輪島漆芸技術研修所で寄贈品贈呈式を実施しました。
笹川平和財団の安全保障事業グループ太平洋島嶼国事業に所属する塩澤英之主任研究員は1月26日、一般財団法人平和・安全保障研究所( 東京都千代田区、理事長・西原正氏 )が都内で開いた「太平洋島嶼国の地域秩序の変容と日本の役割」と題するセミナーに、登壇しました。
今回のセミナーは、太平洋島嶼地域専門家による講演と2部構成のパネルディスカッションにより、地政学的環境の急速な変化を背景に複雑化する太平洋島嶼地域秩序とその変化、拡大する中国の影響力、日本の役割について論じられました。 塩澤氏は、第一部のパネルディスカッション「太平洋島嶼国の地域秩序の変容」で、地域秩序を構成する多層的枠組みとその変化、中国の影響力拡大について解説し、富山大学のサイモン・ピーター・バハウ教授、モデレーターの畝川憲之(せがわ のりゆき )近畿大学教授とともに、地域秩序をめぐるさまざまな変化とその全体像を明らかにすべく、包括的な議論を行いました。
塩澤氏はマーシャル諸島とフィジーに駐在した経験があり、2000年代初頭から現在まで地域情勢に関わっている太平洋島嶼地域研究の専門家です。塩澤氏は外交・政治・経済をはじめ、多角的な観点から太平洋島嶼国の全体像を正確に把握しており、現地の人々と先進国側の両方の視点から国や地域を分析し、課題解決に向けた取り組みについて研究を続けています。
塩澤氏は、太平洋島嶼国における中国の地域進出について、「中国は先進国と異なり、政府援助や地方自治体レベルの協力、民間の経済活動をあわせて活用している。民間経済を含む中国の取り組みに過剰に反応するのではなく、冷静な分析が必要である」と話し、中国の主要なターゲットは台湾承認国数(現6カ国)の削減、地域機関における影響力拡大、経済活動や在留中国人保護などを目的とする拠点確保等にあり、台湾承認国の事例としてパラオ、地域拠点の事例としてトンガを取り上げました。さらに中国は、先進国のルールによらず、南南協力*1や民間経済などを活用した、地域全体を包む先進国とは異なる代替的秩序枠組みを構築しつつあると分析し、「特に2010年代以降の中国の援助は現地のニーズにフィットしており、太平洋島嶼国はすでに中国を信頼できる開発パートナーの一つと認識している。また『Debt Trap(債務の罠)』については、要は太平洋島嶼国側の財政マネージメントとGDP成長の問題であり、毎年のようにIMF4条協議ミッション*2が太平洋島嶼国を訪問し、債務持続可能性に関する助言を行っている。言葉に踊らされず実態を把握すべきである」と付け加えました。
一方で塩澤氏は、北太平洋を米国、南太平洋をオーストラリア、ニュージーランドが担う伝統的安全保障(防衛・地域安定等)の枠組みを基盤に、これら3カ国がRule-based order(ルールに基づく秩序)、Maritime order(海洋秩序)、経済的繁栄(貿易投資・観光関係促進)、気候変動を柱として地域全体に関与を拡大しているとし、さらに英国の(計画されている)トンガ、バヌアツ、サモアへの高等弁務官事務所(大使館)開設による外交プレゼンス強化について説明しました。
塩澤氏は、太平洋島嶼国における今後の課題を解説し「太平洋島嶼地域には多様な枠組みがあり、単純化することは困難。目的に応じて、立体的に地域を把握する必要がある。一方、地域秩序は伝統的安全保障と非伝統的安全保障の2つの柱からなり、伝統的安全保障については、米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランスを中心に、日本が加わり、太平洋島嶼国とさらに価値観を共有する国々で構成されるべきである。非伝統的安全保障については、まず太平洋島嶼国のイニシアチブがあり、これに開発パートナーが協力する形となるが、経済的繁栄、社会の強靭化、包摂性、自然と文化の保護を意識し、法の支配、透明性、説明責任の確保を追求する必要がある」と強調しました。さらに、これにより太平洋島嶼国と日本など先進国が、援助国・被援助国関係から戦略的パートナーシップ関係に発展するだろうと語りました。
塩澤氏の発表にはモデレーターや会場からも質問が殺到しました。太平洋島嶼国に対して旧宗主国など先進国は何ができるかという問いに、「まず現地との対話が重要である。その上で、Rule-based order、透明性、説明責任を確保しつつ、経済的繁栄を含む現地のニーズに即した協力を進めるべきだ。透明性や法の支配、反腐敗の重要性は、各太平洋島嶼国政府も住民もよく理解している」と述べました。続けて、米国のプレゼンスについて、「太平洋島嶼国側の最大の懸念である気候変動や漁業交渉に関して、隔たりは確かに大きい。しかし、米国は災害対策や人道支援に加え、気候変動については州レベル、NGOレベルで援助を行っていることを発信すべきだろう。また昨年からパプアニューギニア、フィジー、サモア、トンガとの海上保安分野の協力を進めており、さらに多くの国々とシップライダープログラム*3の覚書締結を進めている」と回答しました。
*1 南南協力
先進国が開発途上国に対して行う政府開発援助(ODA)とは異なり、途上国間で行われる開発協力のこと。
*2 IMF4条協議ミッション
IMF協定第4条に基づき、加盟国の経済状況や政策について包括的に調査し、現地財務・金融部門と協議を行うために、IMFが現地に派遣する専門家らによる調査団のこと。
*3 シップライダープログラム
外国取締り船に現地政府の法執行官が乗船することで、現地EEZ(排他的経済水域)内における取り締まり活動を可能とする。この場合、米国沿岸警備隊の警備艇に対象となる太平洋島嶼国の法執行官が同乗することにより、同国EEZにおけるIUU(違法・無報告・無規制)船の取締りを行うもの。