震災復興へ想いをつなぐ日中交流
中国の無形文化財保護団体が輪島漆芸技術研修所に漆を寄贈
笹川平和財団(東京都港区、理事長・角南篤)は、3月3日(月)、昨年1月に能登半島地震により甚大な被害をうけた現地の伝統工芸関係者を支援するため、石川県立輪島漆芸技術研修所で寄贈品贈呈式を実施しました。
笹川平和財団開催:中国の「一帯一路」戦略に関する専門家セミナー
笹川平和財団 常務理事 茶野 順子 氏
「一帯一路」は、物理的なインフラとデジタルインフラへの巨額の投資を通じて、アジア、アフリカ、中東、ヨーロッパを連結するという、中国が提案している数十億ドル規模の構想であり、中国の外交政策のうち注視される側面のひとつとなっています。独自の試算では、2014年~2017年に中国が行ったBRI開発プロジェクトへの投資額は3,400億ドルに上り、92か国が正式に同構想を支持しています。しかし、プロジェクトの中止や、スリランカではやむを得ず債務を株式化する形で、戦略的要衝となる港を99年間にわたり貸与することになるなど、さまざまな出来事が相次ぎ、多くの受入国がBRIの投資を見直し始めています。
冒頭の挨拶で笹川平和財団の茶野順子常務理事は、多くのBRIプロジェクトが凍結される可能性と最近の国際情勢の変化に触れ、この複雑な状況を浮き彫りにしました。激化する米中間の経済戦争と、「自由で開かれたインド太平洋」戦略の実施の影響で、BRI政策に対する対応が複雑になっています。このため、パネリストの分析と提言は、BRIをめぐる国際的な議論に貴重な知見を提供するものとなりました。
新アメリカ安全保障センター(CNAS)研究員 アビゲイル・グレイス 氏
グレイス氏から発表された「Power Play」レポートでは、中国のBRI政策が同国の軍事態勢強化、発展途上国に対する略奪的な融資による外交的な影響力の増大、グローバルサプライチェーンと情報インフラ支配の確立を図るものであることを立証しています。この中でグレイス氏は、次のように述べています。
「われわれは一帯一路構想は、中国がすでに進めている、自国の利益のために国際秩序を創り直す手段の基礎であると見ています。一帯一路により、中国は世界経済を危機に陥らせると同時に、自国の競争力を高めています」
ただし、BRIの実施にはムラがあり、米国や同盟国と友好国が中国の投資の代替策を提供しつつ、方向づけをしてBRIに対抗する戦略的な余地が生まれています。「一時は一帯一路戦略の下での中国の投資を熱烈に歓迎していた国々が、当初は単なる経済開発であると受け止められていたものに、政治的かつ戦略的な思惑があることを理解し、それを懸念する声がますます高まっている」と、グレイス氏は述べています。
レポートでは、①発展途上国に対するインフラ投資の調整を図る多国間の取り組みを、準備する ②投資とキャパシティビルディングを通じ、第三国に向けてポジティブな経済的ビジョンを打ち出す ③BRIの実施の失敗事例を強調し、中国の広報、宣伝に対抗する ④インド洋地域の友好国と協力して、中国の商用港開発がもつ軍事的な影響力を制限する―ことを主な提言としています。
レポートの発表に続いて、古賀氏がより細かいニュアンスで、アジア全体のBRIの受け止められ方に焦点を当て、日本と東南アジアの視点からの反応を紹介しました。古賀氏は次のように述べました。
「中国の経済的なプレゼンスを向上するという文脈では、BRIは東南アジアにとって経済とビジネスの機会であるとみられています。東南アジア諸国の関心は、地政学的な含意よりも、開発資金の供給に向いています」
南洋理工大学(シンガポール)助教授 古賀慶 氏
古賀氏によると、スリランカの港湾などのケースについては、東南アジア諸国の多くは、中国の略奪的な行動よりも、中国から資金提供を受ける国々の技術的なスキルと交渉ノウハウの不足が問題だとしています。「スリランカがもっと慎重であれば、あのような契約を結ばなかっただろうと、一部の東南アジアの国は見ている」と、古賀氏は指摘しました。また、南シナ海における対立など大きな論争を招いている問題については、東南アジアでのビジネス上の利益を考えると、脇に置かれる傾向があることも示唆しました。
古賀氏は、中国のインフラの質とプロジェクトの実現可能性を底上げするために、日本が果たし得る役割も明示されました。「中国は、より多くの専門知識をもつ国に頼る必要があり、中国が最近積極的に日本に近付いてきているのはそのためだ」と述べました。日本は中国に協力してインフラプロジェクトの水準を上げるだけでなく、契約交渉のワークショップやコンサルティングサービスを提供することで、発展途上国を支援できる可能性も示唆しました。
討論では、中国とBRIに対するアプローチに関して、日米間の戦略上の違いなど、さらに広範にわたる国際問題が取り上げられました。戦術的な違いはあるものの、環境、労働者の権利、透明性について水準を上げるという目標は、依然として日米双方が合意している領域であることを古賀氏は指摘し、中国の言行不一致が甚だしくなった場合は、より競争的な政策に戻る選択肢を残しつつ、「中国のルールを日米のビジョンに近づけられるように、日本は中国に協力すべきだ」としました。
グレイス氏からは、米中間の緊張が高まると、米国側では融和的なアプローチを取ることができなくなる可能性が示唆されました。「現時点で米国がBRIへの関与を試みた場合、中国は、米国を戦略的なライバルという以上の存在としてとらえる可能性がある」と述べました。さらに「これは、米国よりも日本の方が、BRIに影響を与える余地がある領域」だとしながらも、「日米の同盟国間で誠実な対話が継続され、非公開の場で両国が率直な議論をもてる限り」において、中国へのアプローチの違いは乗り越えていけるとの考えを強調しました。