笹川平和財団海洋政策研究所と公益財団法人「水交会」は8月27日、笹川平和財団ビル(東京都港区)の国際会議場で
第5回海洋安全保障シンポジウムを開き、「我が国の海洋安全保障と転換期の海上防衛戦略の展望」をテーマに議論しました。
開会に当たり、水交会の赤星慶治理事長(元海上幕僚長)は「我が国周辺の安全保障は、北朝鮮にからむ諸問題、中国の強大化しつつある海軍力を背景とした海洋進出に直面しています。一方では、日中間の関係改善の兆しがあり、非常に変化に富んだ時期です。国内的にも『防衛計画の大綱』の見直しという転換期にあると認識しております。海上防衛の位置づけや、海洋安全保障環境構築のための海上防衛力の使い方について、ご専門の方々に議論をいただきたい」と挨拶しました。
これを受けて基調講演に立った湯浅秀樹・海上自衛隊幹部学校長は、自衛隊の水陸両用部隊の多用途性について論じ、人道支援・災害救援(HA/DR)にも水陸両用部隊を活用するよう提言しました。その理由として湯浅氏は「水陸両用部隊がHA/DRの作戦に参加することは、能力向上のための貴重な機会になる」と強調し、具体的には「即応性と精強性、日米間の相互運用性が向上し、安全保障環境の構築にも寄与する」と指摘しました。
また、水陸両用部隊の課題として①十分な訓練場がなく、訓練場の確保②要員の養成錬成③航空自衛隊との連携をはじめ陸海空統合の進化―が必要だとの認識を示しました。
これに続くパネルディスカッションでは、4人のパネリストが見解を表明しました。
海洋政策研究所の秋元一峰・特別研究員は「中国には、海洋進出で見せる3つの顔がある。南シナ海での覇権的な顔、インド洋での協調的な顔、太平洋でのパワーバランスを図る顔だ」と分析しました。
そのうえで、安倍政権が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進する重要性を強調し、中国に対する「3層戦略」を提唱しました。
秋元氏は第1層として、中国が掲げる「一帯一路」と、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を共存させるための「コンサート戦略」を提起しました。第2層は、中国の覇権的な顔への変貌を阻止するため、4カ国協力枠組み(日本、米国、オーストラリア、インド)と、4カ国防衛協力枠組み(米国、オーストラリア、フランス、ニュージーランド)、さらには5カ国防衛取極(英国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア)を同期させる「4+4+5シンクロナイズ戦略」としました。第3層には、グレーゾーン事態におけるインド太平洋の海上物流の維持を図る「選択的シーレーン防衛戦略」を位置付けました。
海上自衛隊幹部学校の石原敬浩・戦略研究室教官は「現代では、大規模な通常戦力を使っての戦争の可能性は低い」との見方を示すと同時に、中国が世論・情報操作や買収、威嚇などによる、いわゆる「シャープパワー」を駆使していることを指摘しました。こうした現状を踏まえ「国際世論を獲得し、正当性を主張するための『戦略的コミュニケーション』が必要だ」と強調しました。そして、日米印共同訓練「マラバール」などを通じ、「法の支配」「自由で開かれた海洋」「海洋秩序の維持」といったメッセージと意思を、発信し続けることが重要だと説きました。
横須賀カウンシル・アジア太平洋研究所のジョン・ブラッドフォード所長は、インド太平洋地域における多国間協力の可能性について言及しつつ、「北朝鮮の機雷戦能力が向上している」とし、日本、米国、韓国の3カ国が北朝鮮に対する機雷掃海などで協力すべきだと主張しました。
また、笹川平和財団米国の徳地秀士・特別研究員(元防衛審議官)は、グレーゾーン事態への対応や、中国の「シャープパワー」への対応について述べました。特にグレーゾーン事態については、尖閣諸島の周辺海域で中国公船が日本の主権を脅かしている事態に対処するため、海上保安庁の船艇などを強化し、これを海上自衛隊が支援することが課題だとしました。具体的には①海上自衛隊の除籍する予定の艦船を、海上保安庁で活用する②海上保安庁が尖閣諸島周辺に集中できるように、他の海域における海上保安庁の業務を海上自衛隊が代行する③補給などで海上保安庁を支援する―ことを提案しました。
続いて池田徳宏・水交研究委員も交え、海洋政策研究所の倉持一・客員研究委員の司会により討議が行われました。最後に角南篤・海洋政策研究所長が「シンポジウムで論議された諸問題については、引き続き調査研究、政策提言に積極的に取り組んでいきたい」と、シンポジウムを締めくくりました。
海洋安全保障シンポジウムは2014年度から毎年開かれており、海上防衛の現場での実務経験がある自衛官、水交会会員と、海洋安全保障分野で活躍する研究者が、忌憚なく議論する場となっています。今回も有意義な議論が交わされました。